東卍の紅一点



「ねー圭介まじでなんのギャグ?ちょーウケるんだけど」
「あ?そもそもメガネかけときゃ頭良くなるっつったのオマエとマイキーだろうが」
「バカはなにしてもバカだっつーことが証明できて良かったな圭介」
「ぶん殴るぞテメー」
「とか言って女の子には手出さないくせに〜圭介のおっとこまえ〜」
「クッッッッソうぜえええ!オマエ俺の勉強の邪魔すんならとっとと自分ん家に帰れ!!」
「……」
「おい。いきなり黙んなよ」
「………ママ、今日彼氏の家にお泊りだからうち誰もいないもん」
「え。…朝まで1人なのか?」
「うん。ママ、彼氏ができてから変わっちゃった」
「…いつからそんな感じなんだ」
「う〜ん。半年くらい前から?」
「なんで今まで俺に言わなかった」
「え?なんか圭介怒ってる?」
「別に怒ってはねえけど。そのことマイキーとドラケンは知ってんのか?」
「知ってるよ。だからよく2人とも心配してうちん家に泊まりにきてくれる」
「三ツ谷は?」
「タカちゃん?タカちゃんも知ってるよ。よくご飯作って持ってきてくれるんだ〜」
「俺は…」
「え?」
「俺は、そんなにオマエにとって頼りねえ存在なのか?」


真剣な眼差しで圭介に見据えられて、瞳が揺れる。
そんなわけない。あるはずがない。
だって、私が今までどれだけ圭介に助けられてきたと思ってるの?
ママと喧嘩して家出した時。クラスの女子にいじめられた時。小学4年生の時、高校生の暴走族50人くらいに拉致られた時も真っ先に駆けつけてくれたのは圭介で、血塗れになりながら必死に私のことを守ってくれた。

真一郎くんが一虎に殺されて、一虎に復讐しようと誓った私を、必死に宥めてくれたのも圭介だった。

私は、今まで数十年生きてきた中で、これほどまでに仲間想いの優しい人間を、圭介以外に知らない。見たことがない。


「……違う。それは違うよ、圭介」
「じゃあなんでマイキー達には話して俺には言わなかったんだよ」
「…圭介にはいっつも迷惑ばっかかけてるから、これ以上変な心配かけたくなかった」


俯きながらそう言えば、ぽんっと頭の上に大きな手のひらが乗って、すぐにぐちゃぐちゃに頭を撫で回される。


「みずくせえなあ、紗羅」
「……」
「今更ンなこと言われる方が、よっぽど心配するし、それに…」
「……」
「幼馴染だろ、俺ら。変なとこで遠慮すんなよ。寂しいじゃねーか」


その言葉にバッと顔を上げると、眉を下げて少し悲しそうに笑う圭介と視線が合わさって、胸が締め付けられるように苦しくなって、思わずぎゅうって圭介の頭を抱え込むように抱きしめる。


「ごめん。ごめんね、圭介」
「…なんかあったら俺にも相談しろ。迷惑なんて思ってねーから。絶対遠慮なんてすんなよ。夜中だろうが朝だろうが、この場地圭介様が飛んで行ってやる」
「うん。うん…ありがとう圭介。大好き」


ガチャ


いきなり圭介の部屋の扉が開いて、2人で視線を向ける。
そこには顔を真っ赤にしたまま突っ立っている千冬がいて、そういえば電話がかかってきてしばらく部屋から出て行っていたことを思い出して、ふっと笑う。


「ちーくん遅かったね!電話、彼女から〜?」
「その呼び方辞めてください、紗羅さん…。つーか彼女なんていませんから」
「ふーん。つまんねー」
「てかオメーはいつまで俺のこと抱きしめてんだよ。良い加減離せ」
「なによ〜〜さっきまであんなにラブラブだったのに〜〜千冬に見られるのが恥ずかしいの〜?」
「あ゛?」
「冗談デス」
「おい千冬ぅ。お前もそんなとこで突っ立ってねーでさっさと部屋ん中入ってこい。扉開けたままだと地味にアチィんだよ」
「あっはいっ、すいません」


部屋に入って腰を降ろす千冬は明らかに様子がおかしい。千冬に電話がかかってくるまでは、お昼はペヤング食べて、その後は3人で仲良く?勉強会をしていたのに。やっぱりさっきの電話が原因なのだろうか?


「千冬、なにかあ「あの!!!」


意を決した様子で口を開く千冬に、無意識にゴクリと喉が鳴る。


「場地さんと…紗羅さんは、その…お付き合い、しているんですか?」


オツキアイ?
私と圭介が??

人間驚きすぎると声もでないらしい。
ぽかーんと、口を開けたまま固まっている圭介と私は、千冬から見たらさぞかし間抜け面であろう。そんな私達に千冬は何故かまた頬を染めて、視線を彷徨わせながらポツポツと言葉を発する。


「だって紗羅さん…場地さんのこと“大好き”って…抱きしめてたし…」


ああ、なるほど。それで千冬は勘違いしているわけだ。誤解を解こうと口を開こうとした私と圭介に、千冬は何故か両手で制する。


「大丈夫っス。絶対に誰にも言いませんから。俺、こう見えて口かたいんスよ」
「いや待て千冬」
「俺は総長と紗羅さんが別れていることは場地さんから聞いていて知ってますけど、2人が別れていることを知らない東卍メンバーは多いし、変に内輪揉めしないためにもこの事実はここだけの秘密にしておきましょう」
「ちょっと千冬落ち着いて」
「場地さんは誰から見てもカッケーし、紗羅さんも…俺は全くタイプじゃないけど一般的に見たらかなりかわいい部類に入ると思うし……2人はお似合いだと思います!」
「あ?オマエ喧嘩売るのか褒めるのかどっちかにしろや」
「す、すいません…」
「ぶっ」
「笑うな圭介」


勘違いして暴走する千冬に圭介はおかしそうにくつくつ笑うと、私の肩を組んでぐいっと引き寄せられる。


「ちょっなに「コイツぁ、俺の娘みたいなモンだ。彼女じゃねーよ」
「へ!?!?」
「娘!?娘ぇ!?!せめて!せめてそこは妹にしてよ!」
「あ?別にどっちでもいーだろ。つーかぎゃんぎゃんうるせーよ」
「良くないわバカ圭介!!」
「あ゛?」


ポカポカ圭介の頭を叩いていると、目をまん丸にした千冬がバンッと机を叩いて立ち上がる。
驚いてビクッとなる私と圭介。


「でも!だって!抱きしめてたし!!」
「あ?オマエ見たことねえの?コイツ、良くいろんなヤツに抱きついてるだろ?マイキーにもドラケンにも三ツ谷にもパーにもしょっちゅう抱きついてるし」
「……言われてみれ、ば…?」
「ハハ、だろぉ?」


ニッと笑う圭介に、なんとなく納得した様子の千冬。そんな千冬に横からぎゅーっと抱きついてみる。


「〜〜っ!?!!!!!」
「ちーくん、顔真っ赤じゃーん。かわい〜。照れてんの?」
「ちょっ、紗羅さんっ…」
「さっき私の顔タイプじゃないとか言ってたけど、本当にィ?本当に私の顔、好きじゃない?」
「……(クソッ!目でかっ!睫毛長っ!顔小さっ!タイプじゃないけど顔良すぎだろっっっ!)」
「ねえ、ちーくん…」


ゆっくりと千冬の顔に自分の顔を近づけると、ゴクリと千冬の喉が上下に動く。かわいいなあ。千冬はなんか弟みたいでかわいくて大好きなの。


「ハーイそこまで。あのなあ、紗羅。オマエ、千冬をあんまりからかうな。マイキーに殺されんぞ。千冬が」
「え゛」
「だってだってちーくんがかわいすぎるのが悪いんだもん…」
「かわいくないですし、その呼び方マジでやめてください…」
「つーかほっぺ膨らませてもかわいくねーぞ」
「ひどっ!!」


結局その後は勉強会どころじゃなくなり、3人でくだらない話をしてアホみたいにケラケラ笑いあって、夜ご飯は圭介ママの手料理をご馳走になって、圭介ママがそのままうち泊まってけば?って言ってくれたからそのままお言葉に甘えて千冬と泊まることにした。
寝る場所はじゃんけんで決めることになって、圭介 私 千冬 の場所に千冬は「なんで俺が場地さんの隣じゃないんスか!」って不満そうにぶーぶー文句を言って、イラついた私は千冬に思いっきり枕をぶん投げて、そのまま枕投げ大会が開催された。
ぎゃーぎゃー3人であまりに騒ぐから、鬼のような顔の圭介ママに思いっきり叱られて、ばつが悪そうに謝る圭介が面白くてお腹を抱えてケラケラ笑った。


「そろそろ寝るか」
「あ〜笑った。圭介まじでママに弱すぎィ」
「だってオフクロこえーもん」
「そんな場地さんもカッケーっス!!」
「……あっ、そ」
「ぶっ」
「笑うな紗羅」


部屋を照らす明かりが消えて、隣からスースーと規則正しい寝息が聞こえてくる。千冬、もう寝たんだ。早いな。子供かよ。かわいいな。
そんなことを思っていたら、隣から「おい」と圭介に話しかけられる。


「なに?」
「眠れねぇの?」
「ん?今めっちゃ眠いからそろそろ寝れそう…」
「そっか」
「ねえ、圭介」
「あ?」
「今日、ありがとう」
「……」
「大好きだよ。圭介」
「……おぉ」
「圭介」
「ん?」
「ぎゅっとしてい?」
「あんだよ、甘えたさんか?」
「だめ?」
「…ほら。コッチこいよ」
「ふふ。すきすきすきだーいすきっケイちゃん!」
「…その呼び方で呼ぶんじゃねー」


圭介の布団に入ってぎゅーって圭介に抱きつくと、背中を優しくぽんぽんされて、だんだんと瞼が重くなっていく。


「…おやすみ、圭介」
「おやすみ。紗羅」


大好きな大好きな私の幼馴染。ずっと、ずーっと私の傍にいてね。絶対に離れないでね。そんなことを願いながら、私は意識を手放した。






((ホントにこの2人付き合ってないのか!?!?))

ばじ姫の話し声で実は途中から起きていた千冬。

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