「そういえば諸伏、昨日は消灯ぎりぎりに戻ってきていたな」
「名字ちゃんと一緒だったって訳だ」
「パーカーを貸してたってことは、差し詰め密会場所は中庭のベンチかな」
「さっきの茶番からして、俺たちの誰かを対象に何かを企ててたってとこか」
次から次へと、まるで打ち合わせをしていたかのように言葉をつなげ推理を展開していく4人。
「普段と様子が違った点はいくつかあるが、何よりも目立ったのは名字のヒロ呼びか」
「明らかに呼びにくそうなのに、無理して呼んだ感があったな」
「諸伏ちゃんも名字ちゃんを呼び捨てにしてたね」
「さすがは諸伏。こちらは自然だった」
・・・・・・・・・・この人たち・・・・怖い。
「諸伏の名字への距離感もいつもより近かったな」
「わざわざ立ち上がって隣までいくのも普段からすると不自然だ」
「ここまでくると俺たちに違和感を与えることは計画の内だったと考えるのが自然だよ。問題は、何を狙ってこの状況をつくりだしたかってことだね」
もうわたしと諸伏くんは黙ってきくのみである。4人の探偵が繰り広げる華麗な推理ショーに心を躍らせる観客になれたらどんなに良かったか。
コナンくんに追い詰められる容疑者たちもこんな心地だったのだろうか。
「名字がこんな面倒くさいこと考える訳ねぇんだから、発案は諸伏だろ」
「うーん。でもこれ以上は情報が少なくて、漠然としてるなぁ・・・・」
「・・・・・・・・実は、僕は気づいていることが他にもある」
まだあるの!?
「名字、食堂に入ってきたときに僕を見ただろう」
「・・・・・・え!?」
「僕を意識していた。違うか?」
「た、確かに見たけど、降谷くんのことは普段だって見てるよ?」
「いいや、普段の視線とは違った」
普段の視線って何ですか!?
「それに、“僕のことを見た”と、今即答できることが、意識して見ていたことの何よりの証拠だ」
「・・・っ」
返す言葉がなくなってしまったわたしを、じっと降谷くんが見つめる。萩原くんが、つまり対象は降谷ちゃんだったってこと?と確認をとるように言った。
ふと、隣から息を吐き出すような笑い声が聞こえた。
「やっぱり、ゼロには敵わないなぁ」
諸伏くんだ。
「大正解。ゼロに見せたくて名字さんと仕組んだんだ」
「やっぱりな」
「い、言っちゃっていいの?」
「いいよいいよ。最終的にはこっちから言おうと思ってたしね」
慌てて降谷くんを伺っても、いつもと特に表情の違いはないし、他のみんなもふーんみたいな顔で頷いている。演技だってことがばれても良かったなら、あそこまで緊張しなくても良かったなと安心していたところで、伊達くんが爆弾を投下した。
「しかし、なぜ諸伏と名字は恋人の振りを?」
「・・・・・・・こ、恋人ぉ!?」
だ、誰が!?誰と!?・・・・・・・・諸伏くんと、わたし!?!?
「あれ?名字ちゃんと諸伏ちゃんはカレカノを装ってたんじゃなかったの?」
「どう見てもあれはそういう雰囲気だろ」
カレカノってナンデスカ?
日本で愛されたブラジル人Jリーガー、カレッカのこと?それともプロテニス選手のカレノ=ブスタ?他にわたしの知らない意味でもあるの?
この人達知識の塊みたいなものだから、ナニ言ってるのか分かんない。
萩原くんと松田くんが当然だろ?というような顔をしてこっちを見てくる。
・・・・・・・・カレカノの振りした覚えなんてないんですけど!?
「わたしたちはただ単に、諸伏くんが名字って呼んで、わたしはヒロくんって呼び方変えただけだよ・・・!」
「あー・・・・・・それに関しては、俺も名字さんの天然ぶりを見誤っていたというか、さすが無自覚タラシというか・・・・」
「・・・それってわたしのこと?」
「名字と無自覚タラシは同義語だろう」
「降谷くんほんといつからそんなにわたしに辛辣になったの!」
諸伏くんが苦笑して、今回の指令内容について概要を4人に説明する。どうやら諸伏くんからの第二の指令である、くん呼びをやめて親しげにというのは、諸伏と呼び捨てにされることを想定していたらしい。
「ヒロくんって呼ばれたときはびっくりしたな」
「だって、諸伏くんを呼び捨てになんてできないし・・・・・」
「だけど下の名前で呼ぶのも恥ずかしくて、あんなまるで付き合いたてみたいな初で可愛らしい彼女ができあがったって訳か」
「顔真っ赤だったぞ」
「萩原くんも伊達くんもこれ以上からかわないでください・・・・・・」
「まぁ俺も名字さんに引っ張られてちょっとそっちのスイッチ入っちゃったし、思った展開と違ったのはお互い様かな」
や、やっぱり諸伏くんもいつもと違ったんだ…!
そっちのスイッチって、もしかして彼女にしか見せない顔ってこと?あのときは空気が甘すぎて緊張するから止めてほしいとか思ってたけど、あんなに間近で諸伏くんのそんなところを見せてもらったのって実はすごい役得だったんじゃ・・・・?
「じゃあ俺らは戻りますか」
「え?」
もう少し彼氏バージョンの諸伏くんを堪能しておけばよかったと本気で後悔しつつ頭を抱えていると、空気を変えるように萩原くんが席を立った。それに続いて伊達くんと松田くんも立ち上がる。
「不可解な言動に何かしらの意図があったことは分かったことだしな」
「え、え?」
「ゼロに話があるんなら、俺らはいらねーだろ」
「そゆこと。じゃ、おやすみ〜」
あんまり遅くなるなよ、と言い置いて、あっという間に3人の背中は食堂の扉の向こうへと消えていった。
残すは、にっこり微笑む諸伏くんと、真剣な顔をした降谷くんと、この後どうすればいいのか全く分かっていないわたしである。