班長彼女いたのかよ!
そんな声が聞こえて、慌てて別のグループと話していたテーブルを抜け出し、いつもの5人が集結しているテーブルへと近寄った。
「お、名字ちゃん」
「名字さんも班長の話聞きにきたの?」
「うん!すごい興味ある!」
伊達くんの彼女といったら、伊達くんの救済にも関わってくるものすごく大事な話だ。これを聞き逃すわけには絶対にいかない。
ばたばたと駆け寄ってきたわたしを見て、諸伏くんが迷わず隣の椅子を引いてくれた。わたしもすっかりこの5人に馴染んだものだと思う。
「今写真見せてもらってたんだ」
「わたしも見ていい?伊達くん」
「別にいいが、面白いものでもないぞ」
構わない。何も伊達くんの彼女を面白がりたくて見に来たわけじゃないのだ。今付き合っている彼女さんがナタリーさんなのかどうかを確認するのがまず第一目標。
携帯を見せてもらって写真を確認すると、満面の笑みのきれいな女性が映っていた。外国人っぽい。多分、ほとんどナタリーさんで間違いない。
「きれいな方だね」
「だよな。どこで見つけてきたんだか」
「お名前は?」
「ナタリーだ。アメリカとのハーフなんだ」
「へー!ゼロと一緒だな」
「いつから付き合ってるんだ?」
「警察学校に入るちょっと前くらいだな」
「水くせぇな。もっと早く言えよ」
「自分からは言いにくくてな・・・」
ほんのり染まった頬を、ぽりぽりと恥ずかしそうに人差し指でかく。彼女のことを本当に好きって顔だ。伊達くんの未来を守るということは、つまりナタリーさんの未来を守ることにもつながる。プロポーズの前日、あの事故さえ起きなければ。あれさえ防げれば。
だけど、あれがいつ起きる事故だったのか、情報は一切ない。となれば、伊達くん自身に教えてもらうしかない。
「伊達くん。ナタリーさんと結婚するときは絶対わたしに教えてね!」
「け、結婚って名字、まだ俺たちは22だぞ?」
「あー・・・・・・でも結婚するでしょ?ナタリーさんと」
「なんで名字ちゃんがそんなに確信持ってるんだよ」
萩原くんがからかうように言って、諸伏くんが確かに!と笑う。
そうなんだけど、でも結婚するよね!?
「まぁ、きちんと仕事が回るようになったら、行く行くは・・・とは考えているが」
「ええ!まじ!?班長!」
「すごいなー。もうそんな相手がいるんだ」
「プロポーズする前に、必ず一報いれてね!」
「だからなんで名字ちゃんが張り切ってんだって」
相変わらず鋭い萩原くんが突っ込みをいれてくるが、オール無視だ無視。強引でも何でもとにかく約束をこぎつけることが大事。伊達くんの命に変わる物はない!
「同級生が結婚とか、心の準備したいからさ。事前に、必ず、ね?」
「別に構わないが・・・・。いつになるか分からないぞ?」
「うんうん!いつでも待ってるから、約束だよ。忘れないでね」
「まるで名字が班長からのプロポーズ待ってるみたいだぞ」
「それうける!」
「わたしはそれでも構わないけど」
「名字さんも何言ってんの!あはははっ」
「名字ちゃんのこと、伊達ちゃんなんて呼べねーよ!」
呼べてるじゃん。
諸伏くんも萩原くんもすごく楽しそう。軽々しくプロポーズ受ける宣言をしたわたしを、伊達くんや松田くんは呆れた顔で見ている。もちろんノリで言っただけのジョークなんだけど。伊達くんの相手はナタリーさんしかあり得ないよ。
「あー面白かった。冗談は置いといてさ、名字さんは結婚とかどうなの?」
「めっちゃしたい」
「めっちゃしたいんだ!うははっ」
諸伏くんが笑い上戸すぎる。お酒でも飲んだ?
「そう言えば今まで名字ちゃんの恋バナしたことなくない?」
「名字さんによる占いコーナーはあったけどね」
「俺をめっちゃ雑に占ったやつだろ」
「でも当たってただろ」
「ああ、面食いってやつな」
「名字さんって、好きな人いるの?」
なんの防御壁も張られていない油断しきった柔らかい心臓に、予備動作も何もあったもんじゃない無垢な諸伏くんの言葉がぐさりと突き刺さった。
「す、きな人かあ・・・・・・」
「え!その感じ、いるの?!」
「いや、いないいない」
「怪しいな」
「怪しい」
降谷くんまで頷いている。いないよ、ほんと。いないいない。
「じゃあさ、名字ちゃんのタイプの人は?」
「タイプ?・・・うーん」
「黒髪?金髪?」
諸伏くんがよく分からない2択を並べる。
「金髪とか中々いなくない?」
「色白?色黒?」
次は萩原くんだ。
「なんで肌の色?」
「黒目?碧眼?」
「・・・・・・・・・・これって何かの誘導?」
「あはは!」
「お前らな・・・・・・」
降谷くんも呆れ顔だ。
「降谷くんがタイプとか言い出したら、もうそれ一生結婚できない女だよ・・・」
「なんで?」
「降谷くんみたいな人がこの世に2人もいるはずないじゃん。降谷くんは神様がつくりだした至高の存在だよ!」
「名字は僕をなんだと思ってるんだ・・・・」
「ゼロと結婚すればいいんじゃない?仲良いよな2人」
「っんな!」
な、何言ってんのかなこの人は!?
思わず飲んでいたお茶を吹き出しそうになって、慌てて口を押さえた。
「ヒロ。僕らがそんな関係じゃないこと分かってるだろ」
「だめかー」
あっさり否定されて、それはそれでもうちょっと照れるなりなんなり反応してほしかった気もして悲しいけど、諸伏くんも冗談で言っただけのようで、てへへと可愛い顔で笑っている。
わたしだけ無駄にドキドキさせられたみたいで悔しい・・・・、赤くなりかけていた頬を隠すため、改めてコップに口をつける。
「じゃあ陣平ちゃんはどう?」
「っげほごほ!・・・!?」
今度こそ気管支に入ったお茶で盛大にむせた。
「はあ?」
「陣平ちゃん、最近名字ちゃんと仲良いよね」
「あ?・・・あー・・・・・」
眉を寄せたあと、ふとこちらを向いた松田くんにじっと見られて、濡れた口元を拭く振りをして顔を隠した。
何を言うつもりなんだろう。なんて返す?
すぐに否定されなかったことに気がついて、やっぱり気になって視線を上げると、こちらを見ていた松田くんがにやりと口角を上げた。
「なんかこいつ、
昔近所にいた野良犬に似てるんだよな」
「野良犬?・・・ああ、学校帰りいつも走り寄ってきて家までついてきてたあの子」
「それそれ」
「確かに、言われてみれば似てる気がするな」
・・・・・・・・野良犬?
「こっち見てくる目とか」
「警戒心薄いとことか?」
「あと暢気そうなアホっぽい顔とかな」
「ちょ、・・・・・・え?」
「高校のときによく遊んだんだよ、その犬と」
「いや、そういうことじゃなくて」
「あははは!犬!アホっぽい!」
困惑するわたしの隣で諸伏くんが腹を抱えて笑う。
・・・・うん。なんかもういいや。何かを期待した自分が馬鹿でした。
結局わたしの恋バナと言うよりは、体よくわたしをからかって楽しみたかっただけのようで、その後はさっさと別の話題に転換していった。
ひとまず伊達くんとの約束は取り付けられたし、あとは伊達くんが忘れないように定期的に言い続けることにしようと決めて、今度こそ落ち着いてお茶をすする。あの日現場で一緒だったはずの高木刑事と出会えたら、彼とも連絡交換をした方がいいかもしれない。
救済計画の内、一つはなんとなく先行きが見えて、少し安心した気持ちになれた。
だけど、少しも油断をしてはいけない。最も直近に迫ってきている死は、萩原くんの爆弾事件なのだ。伊達くんをからかいながら楽しそうに笑う萩原くんを視界に納めながら、次の土日休暇にすべきことを考える。
まずは明日にでも外出届を提出しよう。街で調べたいことや回りたい場所はいくつもある。計画的に、迅速に行えるよう、頭の中で該当候補をピックアップしながら、後は5人の笑い声をBGMに休日の算段を立てることに集中した。