グローバルミッドナイトタワーズ
夏葉原フロントタワー
パークシティ米花フォレストタワー
パークシティ巣亀スカイアークタワー
沢袋アトランティスタワー
ワールドセントラルタワー
・・・・・


いくら挙げても出てくる出てくる。
東京都にある20以上の階層を有するタワーマンションは、その数200棟以上。都会舐めてた・・・・・・。


「一!二!一!二!」

「声が小さいぞ!しっかり出せ!」


休みの度に不動産を周り、立地条件の確認や内見を繰り返して該当マンションを絞っても、まだ半数以上の候補が残っている。

萩原くんの救済に向けてわたしが持っている知識は、事件が今年の11月7日に起こるということ、10億円と引き替えに爆弾のタイマーが止められたこと、だけど萩原くんの解体途中にタイマーが再び動き出すこと、そして、爆弾が仕掛けられた場所は住居用マンションの20階であるということだ。
それがどのマンションなのか、犯人は誰だったのか、一切思い出すことができない。そもそも原作で取り扱われていなかったのか、わたしが忘れてしまっているだけなのか、もうこちらの世界に生まれ変わって20年以上になる今、それを判断することさえ難しい。


「押さえ込み十本、はじめ!」

「よろしくお願いします!」

「お願いします!」

教官の指令で全員が一斉に構える。隣では男子のグループも同じ形を取り、降谷くんや萩原くんが相手の柔道着を掴むのが見えた。他の3人の姿は確認できないが、松田くんは授業が始まる際に女子とは真反対の方向へ分かれていくのが見えたので、かなり奥の方でやっているんだろう。
わたしも同じく相手の柔道着を引き、袈裟固めの形を取った。


「投げ十本、はじめ!」



萩原くんの事件について覚えている限りのことをノートに書き出してみたが、あまりに情報が少なく、そしてあまりに時期が切迫しているため、未だ警察学校で学んでいる真っ最中のわたしの能力や身分では、できることがほとんど見つからなかった。

降谷くんのように飛び抜けて優秀な人材でもなければ、萩原くんや松田くんのように即戦力となる技能があるわけでもないわたしは、例えどこの部署に希望を出そうとも、あと数ヶ月に迫った11月では、どう考えても交番勤めか内勤かしかあり得ない。爆弾処理班に指令を出せる地位もなく、交通規制をかける権限もない。利用できる能力も、身分も、何もない。


わたしの、この力のなさは何だ。


「っえ」

「っつ・・・!」


ふと気づくと床が迫っていて、受け身を取り損ねた。
慌てて手をついたが間に合わず、鈍い音と共に思いっきり投げ落とされた。



「ごめん!名前、大丈夫!?」

「ったた・・・・・いや、わたしがぼーっとしてた」

「名字ちゃん!大丈夫?」

「怪我してないか?」

わたしを投げた子が慌てて謝ってくれるが、これは完全に、思考を飛ばして注意散漫になっていたわたしが悪い。近くにいた萩原くんと降谷くんも変な落ち方をしたのが見えていたようで、すぐに駆け寄ってきてくれた。申し訳ない、けどなんかちょっと嬉しい・・・。


「大丈夫大丈夫。ちょっとどじっただけ」

「手から落ちてなかったか?」

「うん。でもなんともないよ」


直接床についた方の手をぷらぷらと振って見せると、3人ともほっとした顔を見せた。実践授業の時はちゃんと集中しとかないと、いらない心配かけるな。

みんな戻って大丈夫だよと言おうとしたところで、もう一つの人影に気がついた。



「なんの騒ぎだ?」

「松田」


降谷くんの後ろからのぞき込んできたのが松田くんだと分かって、少しびっくりした。松田くんは近くにいなかったはずなのに。


「こ、こんなにみんな心配してくれるなんて・・・」

「は?」

「名字ちゃんが投げ技の練習で落ちたんだよ」

「落ちた?・・・相変わらずどんくせーヤツだな」

「松田、お前な」

「ありがとう。怪我はないから大丈夫だよ!次から気をつける」


「・・・名字・・・・・・」

「さすがだね、名字ちゃん」










その後も教練や拳銃訓練などいつも通りの授業を滞りなくこなし、夕食の時間になったころ、右手首がじわじわと熱を持ち始めていた。拳銃訓練で片手打ちを練習していたときから違和感は始まっていたが、握力を込めたり衝撃に耐えたりする内に余計悪化してしまったみたいだ。

お箸で食べるメニューはやめておこうと、スプーンで食べられるカレーを注文した。


「名前、今日の柔道の投げで落ちたってきいたけど大丈夫?」

「あ!授業中に名前の名前が聞こえたのそういうことだったんだ」

「珍しいね。大丈夫だった?」

「ちょっと別のこと考えてたら気が散ってて。相手の子には悪いことしたなぁ」


「ちゃんと集中してないと危ないでしょ」


軽く笑ったわたしを、みきちゃんが厳しい声で叱ってくれる。


「うん。ありがと。みきちゃん優しーから大好き!」

「ほんとあんたは・・・・・・気が抜けるわ」

「怒られてありがとって言える脳内変換うらやましいわ〜」

「名前は心を読んでくれるから気兼ねなく怒れるよね」

「え、そんなに怒ることあるの・・?」

「あはは!あるある!名前昨日わたしのアイス食べたでしょ!」

「な、なぜばれた!?」

「わたしが言った」

「みきちゃん〜!」


みきちゃんに縋り付いてよよよと泣く振りをするわたしの頭を、よーしよしと犬にするように撫で回して、これも愛情だよとみきちゃんが言う。なんでも愛で誤魔化そうとするのはDV男のすることだから!
その掛け合いを見てみんなが笑い、つられてわたしも笑う。


「みんな仲良しだねぇ」


頭上からかけられた声に、みんなが萩原くんやら諸伏くんと呼ぶのがきこえて顔を上げれば、いつもの5人が並んで立っていた。そっちも仲良しだと思う。


「名字さん柔道の授業のこと聞いたよ。大丈夫?怪我ない?」

心配そうな顔をした諸伏くんが、少し腰をかがめてわたしの顔をのぞき込む。その横にすっと並んで、伊達くんも同じく気遣ってくれた。ぐるっと見れば、萩原くんも降谷くんも松田くんも、それぞれの顔でわたしを見下ろしている。
もしかして、わたしの様子を確認するために、5人そろって来てくれた・・・?

「だ、大丈夫だよ!」

「本当に?」

「ほんとほんと」

ほら、と両手を上げてぐーぱーしてみせる。右手はやっぱり痛いけど、我慢できないほどじゃない。わたしの不注意のせいでちょっとへましただけなのに、思ったより多くの人に心配をさせてしまったみたいでちょっと焦る。
安心してもらおうと、ついでにひらひらと手首を振れば、その右手首を突然掴まれた。


「っい」


少し強めに握られて、思わず声が漏れた。
すぐに緩められた手は、痛くて力の抜けた腕を下ろし、下から添えるように持ちかえられた。


「痛いんだろ」



「え!やっぱり怪我してたの!?」

「名前痛かったの?」

「なんで言わないの!」

「いや、え、」

「もしかしてそれでカレー!?」

「そういやあんた辛いの苦手だからって食堂のカレー食べてなかったよね」

「名前がカレーなんて変だと思ってたのよ!」

「お箸握るの痛かったの?」

「あの、それは」

「名前!」


「すみません。その通りです」


女子4人に怒濤の勢いで詰め寄られ、あっという間に白状することとなった。その原因となった松田くんをほんの少し恨めしげに見つめれば、掴まれていた腕をぽいっと放られ、意地悪そうな笑みに見下ろされた。


「黙って医務室に行くことだな」

「・・・・・」

「名前」

「はい。行きます」


その後、萩原くんや降谷くんたちからもお叱りを受け、昼食を食べ終わってすぐにみきちゃんたちに医務室へと連行された。




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