「名字ちゃんは、陣平ちゃんのことどう思ってる?」


「・・・・・・・またですか」


夜の自由時間に、わざわざ自習室までわたしを探しに来た萩原くんに連れ出され、フリースペースで2人顔をつきあわせる。デジャビュだ。



「前はまだ確信がなかったけど、今回は違うかな」

「確信?」

「陣平ちゃんが名字ちゃんを特別扱いしてる確信だよ」

「え・・・・・」

「それが恋愛感情かどうかはさておきね」

「・・・・・」


松田くんが、わたしを特別扱い・・・?



「名字ちゃんってさ、自分のことには鈍いから、そういうとこ何にも気づいてないんだろうなと思って。名字ちゃんは俺たちの大事な仲間だから、知っておいてほしいんだ」

萩原くんがにっこり笑ってウィンクする。




「俺と陣平ちゃんが長い付き合いってことは知ってるよね」

「うん」

「あいつ、昔いろいろあってさ。あんまり人のこと信用してないとこがあるっていうか、表面上笑ったり冗談言い合ってても、心開いてる相手は限られてるっていうか・・・。どっかで一線引いてる部分があるから、無愛想とか冷たいやつだって思われることが多いんだ」


手を振っても無視をされたり、こっちから話しかけないと関わることが少なかったり、2人で喋っていても他の人が加われば口数が減ったり。言われてみれば、そういうことだったのかと感じられる場面はいくらでも浮かぶ。
出会った頃の松田くんを思い出しながら、わたしが納得して頷いたのを確認して萩原くんはまた話を続ける。


「前も言った通り、彼女になった女の子のことは大切にするやつだし、彼氏として問題なく役割を果たしてたけど、それは意識してのことなんだよ。今まで付き合ってきた子の誰一人として、あいつは本当の意味で心を開いたことはないと思う」

「・・・・・・」


「その陣平ちゃんが、名字ちゃん相手だと違うんだ」


「違う・・・?」


「俺も最初は、なんか今までの陣平ちゃんじゃないなってくらいで曖昧だったんだけど、ここ最近は明らかだよ」


真剣な顔に表情を変えていた萩原くんが、少しおかしそうに笑って見せた。



「食堂で一緒にご飯食べたり、みんなで話をするときに、陣平ちゃんと席が隣になることが増えたと思わない?」

「うーん・・・?」


言われて、いろいろと思い出してみる。



「意識して近くに座ってるんじゃないんだよ。むしろ最初の頃が、意識して遠い席に座ってたんだ」

「・・・なるほど」

「スキンシップ増えたよね」

「それは・・・・・・うん」


体の接触という意味でいくと、真っ先に鮮烈に思い出されるのはあの雨の日のことだけど、それ以降も、何でもないことのように髪や手に触れたりすることがある。ここ最近、ドギマギさせられている松田くんの行動のひとつだ。


「あいつが彼女以外の女の子に自分から触れるとこなんて見たことないよ」

「・・・・・・」

「彼女相手には意識してやってたことを、名字ちゃんには無意識でやってるってことだ」



どんな顔をして聞いていれば良いのか分からなくて、段々と口数の減ってきたわたしに構わず、萩原くんは言葉を重ねていく。


「この間の柔道の授業だって、近くにいたわけじゃないの気づいてた?」

「・・・人が集まってたから、見に来ただけかもしれないよ」


「違うな。名字ちゃんのこと心配したんじゃなきゃ、わざわざ様子見に来ないよ、陣平ちゃんは」



・・・・・・分かってる。

きっと、わたしの名前が聞こえたんだと思う。それで見に来てくれたんだと思う。
萩原くんや降谷くんがすぐに駆け寄ってくれたときも嬉しかった。だけど、松田くんの顔が見えた途端、わたしの中には、もっと別の感情がわき上がっていた。





「俺さ、陣平ちゃんとは腐れ縁で・・・・・ちょっと臭い台詞で言うと、・・・まぁ、大事な親友なんだよね」

「うん。よく分かるよ」


少し照れた様子で、だけどはっきりと言い切った萩原くんに即答で同意すると、小さく笑って、そっかと呟く。
その目が、今度は真っ直ぐにわたしをとらえた。




「名字ちゃんのことも、同じくらい大事なんだ」


「・・・・・・・・・っえ!」

「そんなに驚かないでほしいんだけどな」

「あ、ありがとう・・・・・!・・・すごく嬉しい!!」

「・・・・・・ほんと、いつも素直だよね」

「・・・嘘じゃないよ?」

「うん。分かってるよ。そんな名字ちゃんだから、陣平ちゃんも心を許してるんだろうな」


萩原くんが、静かに微笑む。





「・・・・・・俺、名字ちゃんのこと好きだよ」



「・・・・・・・・・・・・ぅえ!?・・・・・・・え!?!?」

「だから驚きすぎだって」


ははは、と笑うその顔はあっけらかんとしている。
自分はいろいろ言うのに人から言われるとそんなに照れるんだね、なんてどこかで聞いたことのあるようなことを言われ、赤く染まった顔を面白そうにのぞき込まれた。




「だからね、どっちにも幸せになってほしいんだ」

「う、うん」

「名字ちゃんと陣平ちゃん、すごく合ってると思うんだよ」

「う、うん」

「名字ちゃん、陣平ちゃんのこと好きでしょ?」

「う、・・・え!?」


動揺に動揺を誘われ、ほとんど何も考えず頷いていたら、危うく内容も聞かずに大変な質問を肯定してしまうところだった。



「す、すき・・・?」

「陣平ちゃんを」

「・・・・い、いやいや」

「気づいてないの?誤魔化してるだけ?」

「な、なに言ってるの萩原くん。松田くんは友達だよ」

「名字ちゃんは、俺のこと好き?」

「もちろん!」


「じゃあ陣平ちゃんは?」


「・・・・・・・・・・・え、っと・・・」

「即答できないのが答えじゃないかな」


「・・・・・・・」



萩原くんがにっこりと頷く。



即答できないのが答え?




わたしが、松田くんを好き・・・?



この数ヶ月、松田くんと過ごした日々が頭の中を駆け巡る。

新しい松田くんを知る度、自分の中で新しい感情が溢れるのを感じていた。




雨の日に手を引いてくれたのに安心して、

抱きしめてくれた体温にドキドキした。

合コンで女の子と出て行ったことをきいて胸が苦しくなったのも、

頭を撫でられて顔が熱くなるのも、

松田くんの顔を見ると、表現できない気持ちになるのも、




どれもかも、


松田くんのことが、好きだから?




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