「女友達として特別枠に入ってるのは嬉しいんだけど、その分きわどいからかいが多すぎてドキドキさせられっぱなしだよぉー」


「ははは 名字ちゃんは反応が素直だから、からかい甲斐があるんだろうね」

「笑い事じゃないんだって。ほんと心臓もたないんだから!」


これで何度目になるのか、萩原くんとの夜の密会が始まってから大分たった。相変わらず松田くんの思いもよらない言動にドキドキさせられっぱなしの毎日を送っている。
萩原くんの情報によると、映画館でのあの日以来、松田くんは合コンには参加していないみたいで、それっぽい誘いがくると目的を確認するようになったらしい。その行動にどんな意味が含まれているのかは分からないけれど、とりあえず進んで彼女をつくる気はないみたいでちょっと安心する。




「もうすぐ俺たちも卒業だしさ、なんか行動起こさないの?」


「んー・・・それは考えてないかな」

「ええ!何で?」


今松田くんとのあれやこれやを考えてしまうと、頭も体もパニックになってしまう気がする。あまりいろいろなことを同時進行できるような器用なタイプではないと自覚しているため、ひとまず萩原くんの救済を終えるまでは、心の余裕を残しておきたい。


「今は先にやりたいことがあるんだ」

「・・・そんなこと言ってる間に、ぽっと出の子にとられちゃうかもよ?」


陣平ちゃんモテるしね、と付け足される。もちろん知ってる。



「もしそうなったら・・・・・・多分、すごい悲しいけど、・・・仕方ないかな」

「えー?名字ちゃんのやりたいことってそんなに大事なことなの?」

「すごい大事だよ。何に変えても、やり遂げる」


「・・・・・・それって何なのか教えてもらえない?」

「だーめ」

「・・・けち!」

「可愛く言ってもだめ」


そもそも今行動を起こしたからって、松田くんがわたしを選んでくれる可能性なんてどれ程のものか。自分の感情を優先させて、大事な人を失いたくはない。




就寝時間が近づき、フリースペースを出る。時々すれ違う同期に声をかけられつつ、とりとめのない話をしながら廊下を進む。やっぱり萩原くんは話を振るのがうまいし、身長差のあるわたしに歩調を合わせてゆっくり隣を歩いてくれる。そういうことを自然にやってしまうところが、いつでも相手を気遣う萩原くんらしくて、顔がいいこと以上に、彼を魅力的な男の子だと思わせる。


「今度さ、配属部署が決まったら卒業前に俺ら伊達班で飯行くんだけど、名字ちゃんも来ない?」

「・・・誘ってもらえてすごく嬉しいんだけど、せっかくの卒業前なんだし、水入らずの方がいいんじゃない?」

「男5人水入らずなんてなんのメリットもないよ」

「そう?」

「それに、もう名字ちゃんも伊達班みたいなもんだろ」

「・・・・・!」

「はは!嬉しそうな顔した」

「ぜひご一緒させてください!」

「名字ちゃんはちょろいな〜」


詳しい日程はまた今度ね、と廊下を分かれ、萩原くんの背中を見送る。



配属部署は1週間後に決まる。そうしたら、もう卒業は目の前だ。

結局、考えに考え抜いた結果、わたしは刑事部に希望を出した。目標は、松田くんが萩原くんの事件後転属希望を出し続けていた特殊班係だ。


萩原くんの救済までに特殊班係に配属されるのはいくら何でも間に合わないだろうけど、万が一、萩原くんを救済しても松田くんの流れを変えられなかったときのために、爆弾関連事件の情報を真っ先に手に入れられて、なおかつその情報の扱いをある程度操れる部署にいるのが一番都合が良い。



潜在的に松田くんの救済も含まれている萩原くんの救済に関して、いくら考えて、案を練っても、わたしにできることは悲しくなるほど少ない。

犯人は誰なのか、待機している車がどこに止められているのか。爆弾が仕掛けられるマンションはどこなのか。流れは知っていても、核心に迫れる詳細な情報は何一つない。事前に事件を阻止する手立てもなければ、タイマー再起動のきっかけとなった報道や交通規制への通達網に指示を出す力もないのだ。



でも、だからと言って、自分の力のなさに嘆くのは止めた。
どんな状況でも、絶対に放り出すわけにはいかないのだ。
力がなくても、できることが見つからなくても、それでも、わたしの手がその命に届く限り、どんなことも諦めちゃいけない。


“無理じゃない 諦めないでいい”

いつも笑顔で頷いてくれる萩原くんが、わたしの言葉を否定してまで、真っ直ぐ伝えてくれた言葉だ。その彼を救う道を、わたしが勝手に立ち止まるなんてできるはずがない。



わたしにできることは一つ。爆弾の情報が入った瞬間、最速で現場に向かって、無理矢理にでも萩原くんを引きずり出すことだけだ。







「名字ちゃん!」


廊下の先を行っていた萩原くんが振り返る。


「やりたいこと、達成できるといいね!」

「っ!」

「何か知らないけど、俺応援してるから!」

「っ・・・・・うん!」



頑張るからね、萩原くん。




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