「名前ー。そろそろ手伝ってよ。あんたもお皿にカレー盛るくらいできるでしょ」
体力馬鹿みたいに川ではしゃぎ続ける5人を眺めていると、料理のできないわたしの代わりに夕食をつくってくれていた友人の一人が紙皿でぺしりとわたしの頭部をたたいた。
「あー、うん。料理ありがとね」
「べつに大した料理でもないけどね」
「いやいや、カレーおいしいよ。最高だよ」
「はいはい。・・・・名前さ、最近なんかぼーっとしてること多くない?」
「んー?・・・・・うん。まあそれこそ大したことじゃないんだけど・・・」
最近、ずっと何かの既視感に追われているような感覚が離れない。何か見たことのあるような、どこかの記憶にひっかかったような気がして、その在処を手繰ろうとしている間にいつのまにか霧散してしまう感覚。掴めそうで掴めないそれは、あの5人と関わるようになってから現れ始めた気がするのだ。そしてそれは日に日に頻度を増していく。
「何か思い出しそうなんだけど、何を忘れちゃったのか分からないんだよね・・・」
「・・・・・わたしにはよく分からないけど、できることがあったら相談してよね」
「ありがとう。まぁ、そのうち分かると思うし、大丈夫!とりあえずお腹空いた!」
みんなー、ご飯だよー!カレーだよー!と叫べば、我先にと嬉しそうに帰ってくる5人を見て、本当に大きな息子を持った母親の気分になった。つくったのはわたしじゃないけどね!
「うわあ、めっちゃおいしそー!」
「そんなに褒めても何も出ないよ諸伏くんったら〜」
相変わらず褒め上手な男諸伏、女子のハートを鷲掴みにしている。気の利く男代表の萩原は重い鍋を代わりに持ったり、ほっぺについたカレーを指でぬぐってあげたりしている。何あれ、あんな場面って自然に起こりうるものなの?肉食の計算高い女と、女たらしの萩原くんだけがなせる技?勉強になるわ・・・・・。
「名字、おかわりもらえるか」
最後に自分の分のカレーをよそっていると、もう1杯目を食べ終わったらしい伊達くんがやってきた。
「食べるの速いね〜」
「そうか?男はこんなもんだと思うがな」
ちらりと先の2人を見ると、まだカレー皿の減りは半分くらいだ。その視線を伊達くんも察したのか、納得したように頷いた。
「あいつらは別の役割があるからな」
諸伏くんも萩原くんもあれやこれやと話を振りつつ場を盛り上げ、そのテンポのいい話術に笑う女性たちはいたく楽しそうだ。(ちなみに松田くんはと言うと、話しかけてくる女子におざなりではあるがそれなりの相づちを打っていた。意外だ。)
わたしも、伊達くんの言葉に得心がいったとばかりに頷いた。気遣い屋の人気者たちは大変である。
「僕にもおかわりもらえるか?」
「うん、もちっろん!?」
「どうした?名字」
「い、いえいえ何も。・・・・・・・・ど、どうぞ」
「ありがとう」
「っぅわ」
「っと、・・・・・大丈夫?名字さん」
「突然慌ててどうしたんだ名字」
「い、いいいえ、べつに・・・・!?」
はい。慌ててます。
おかわりの声に振り向けば降谷くんで、一瞬にしてさっきのひぐらしの声と熱い体温と腕を流れる水滴の感覚がフラッシュバックしたわたしは、ひっくり返った声とまた熱くなり始めた頬をごまかすために、降谷くんを見ないように慌ててカレーを盛り、受け渡す際に彼の指先に触れたことで皿から手を勢いよく引いてしまうという挙動不審極まりない動きをした。降谷くんの抜群の瞬発力のおかげでカレーは無事だったけど、周囲からものすごく怪しげな視線を集めることになってしまった。
なにわたし、女子高生?いやむしろ女子中学生??うぶすぎじゃない?いや、降谷くんがイケメンで魅惑的すぎるのがいけないと思うよ、うん!
「なーんか怪しいなあ、そこ」
「あ、怪しくないよ!?」
「そういえば昼間2人で何か話してたわよね?」
「そういえばそうだな。ボール取った後しばらく帰ってこなかったもんな?2人で何してたんだ、やらし〜」
「っや、やら!?何言って・・・!」
「お前ら、これ以上名字さんをいじめるのはやめてやれ。ちょっといつもの仕返しにと思ってやったら、どうもやりすぎたってだけだよ」
「仕返し?」
「言われた側のこっちの気も知らないで、いつもいつもぶっ込んでくれるからな。ちょっとお返ししたんだよ」
「あー、あの名前の天然タラシみたいなおとぼけ発言ね」
天然タラシ??おとぼけ!?
みんな、あーあれのことかみたいな顔で納得してるけど、こっちはノーガードでがんがんメンタル削られてるんですけど・・・・。
「ていうことはお返しって、降谷が名前にあんな感じの言葉を言ったってこと?」
「・・・・まあ、近い感じのことは」
「気持ちは分かるけど、それは名前がかわいそうよ・・・」
降谷にやられたんじゃね、とみんなの視線が好奇なものから憐憫のものに変わる。降谷くん、近い感じとか言葉濁してるけど、完全にあなたの方がたち悪いことしましたよ・・・。
その後恙なく食事を終えた一行は、腹ごなしに星を見に行こう!とすっかり暗くなった細道を、いくつかのランタンをぶら下げ山頂に向けて出発した。