ここがあの“名探偵コナン”の世界だって気づけて本当に良かった。漫画の世界に生まれ変わるなんてあまりにも非現実的すぎて(世界線が違うってこと以上に)気づくのが遅くなったのは痛手だったけど。
いつものようになんだかんだと話に華を咲かせている5人を感慨深い思いで眺める。

・・・・・・この5人が、あの警察学校組の5人なんだって思いで改めて見たら、5人で笑い合ってる今の日常がものすごく尊いものに見えてきた・・・!


「それは松田が悪いだろー」

「俺は事実を言っただけだ」

「言い方があるだろって話だよ」

「名字ちゃんはどう思う――って、な、泣いてるの?」

「ほらやっぱり!女子からしたらきついんだって!」


「・・・・何でお前が泣いてんだよ」


眉間にしわを寄せて不機嫌そうにしていた松田くんが、心なしか困ったような表情に変わる。何でって、あなたたちが今日も元気に生きてることに感動しているからで・・・・。諸伏くんが、女子を泣かせるな!と松田くんを責めている。なにかあったの?


「みんな何の話してたの?」

「あれ、聞いてなかったの?松田が女子を振った話なんだけど」

「名字はなんで泣いてたんだ?」


「あー・・・・実は、昨日談話室で見た『コリーの大冒険』で愛犬のケンとお別れするシーンが感動的すぎて、それを思い出してたらちょっと・・・」

「紛らわしい顔してんじゃねえよ」

「スミマセン」

とっさに変な言い訳をしてしまった。



「・・・・・・・っていうか告白?え、松田くん告白されたの!?」

「それを断ったんだけどね、女の子の方がそりゃもう大泣きでさ」

「松田がさ、“お断りだ。本当に俺のことが好きなら一人で来い。ぞろぞろ金魚の糞連れて来てんじゃねえ”なんて言うもんだから・・・」


うわあ・・・。


正論だけど、正論だからこそきっつ・・・・・。振られた以上の二重の痛手。


「ほら、名字ちゃんもこの顔だよ」

「事実だろ」

「ま、まあ傷つかない言葉選びは他にもあっただろうけど、これが松田くんだからね。相手の子もそれを含めて松田くんを好きになったんだろうし、仕方ないっちゃ仕方ない・・・・」


「・・・・名字さん、心広いなぁ」

「いや、当人じゃないからそう言えるだけで、もしわたしが松田くんに告白してそれ言われたらめっちゃ傷つく」

「はは、正直だな名字ちゃんは」


「お前には言わねぇよ」



「・・・・え?」


「名字とあの女は違うだろ」



ど、どういう意味?

なんだかものすごいぶっ込み発言をされた気がするけど・・・・・。意味をはかりかねて松田くんの表情を観察するが、いつもと変わらない顔でこちらを見ている。ついでに周りの4人も伺ってみるが、みんな驚いているか、何か思案したような顔で松田くんを見ているだけだ。


「・・・・・え、え?陣平ちゃんそれどゆこと?」

「そのままの意味だ」


もしかして、わたしの後先考えなしの思ったことをそのまま言う癖が松田くんにも移ってしまったのだろうか。それとも、この間降谷くんにされたみたいな、わたしへの仕返し?でも、そのままの意味って言ってるし、とりあえず・・・・。


「ありがとう・・・・?」

「別に礼を言われるようなことじゃねぇよ」

「でも、わたしには一応気を遣った返事をしてくれるってことなんだよね・・・?うれしいよ」

「え、名字ちゃん、そういうことなの?陣平ちゃんそれでいいの?」

「そのままの意味らしいし、いいんじゃないかな」

「うるせぇハギ」

「ええ〜?」


わたしも深い意味は分からないけど、とりあえず松田くんに告白したその女子よりは、松田くんに近い存在になれてるってことでいいんだと思う。

他の4人と違って、目が合ったら微笑むとか、手を振るとか、そういう分かりやすい愛想を持たない松田くんだから、普段こちらのことをどう思ってくれているのかが分かりにくい。そんな松田くんの心を思いがけず垣間見れたような気がして、むずむずと緩む口元を見られないように片手で覆い隠した。











「陣平ちゃんがさ、ああいうことを女の子に言うのって珍しいんだよ」

「へぇ」

「まあそもそも名字ちゃんみたいな友達ポジション?みたいな女の子が少なかったっていうのもあるんだけど」

「うん」

「特に名字ちゃんみたいに、あいつの悪いとことかひねくれてるとこを丸っと受け止めて、なおかつ素直に表現してくれる女の子なんていたことないしさ」

「うん」

「大体が、陣平ちゃん狙いでがんがんアタックかけてくるような子か、今回みたいにちょっときついこと言われると泣いて逃げちゃうような子かなんだよ」

「そうだったんだ」

「今まであいつが付き合ってきた女の子って、全部あっちから言い寄ってきたのばっかりで、その中から多分見た目がタイプの子を選んでただけなんだよね」

「・・・・・へぇ」

「あ、でも勘違いしないでね。前に名字ちゃんも言ってたけど、付き合ってる彼女のことはちゃんと大事にしてたから。二股もしないしね」

「うん」

「だから、あいつの方からコミュニケーションとろうとしてる女子なんて初めてで俺も戸惑ってるんだけど――・・・」


「・・・・・・・まとめると?」



「・・・・名字ちゃんは、陣平ちゃんのことどう思ってる?」






「とりあえず、萩原くんと松田くんはすごく仲が良くて、お互いを思い合ってるんだなって思った」

「え!?何でそうなった!?」


夜の自由時間、一人でフリースペースに来てねって、何の話かと思ったらのろけですか?男の友情美しいです。ありがとうございます。ごちそうさま。



「いろいろ話してたけど、何はともあれ松田くんって面食いなんでしょ?じゃあわたしはあり得ないよ」

「え?名字ちゃんはかわいいよ?・・・・・・・・って、なんで渋面?」

「だって、萩原くんは全員“かわいい”じゃん」

「でも、かわいいと思ったからかわいいって言うんだよ」

「うーん」

萩原くんに褒められるのはそれはもちろん嬉しいんだけど、だからってそれが一般評価かと言われると怪しいところが多分にあるからなあ。


「信用ないんだなぁ、俺」

「信用っていうか、萩原くんは女の子に優しすぎるからなぁ」

「名字ちゃんには、結構本当の俺を出してるんだよ」

「え、ほんと?うれしい」

「うれしいの?」

「うれしいよ。それって少しでも萩原くんの気の休める場所になれてるってことだよね」


「・・・・・・これなんだよなぁ。そういう表現に言い換えて、しかもそれを素直にうれしいって言えちゃうとこ。陣平ちゃんじゃなくても、男はたまんないと思うよ」



両手指を組んだ手の甲におでこをのせて、はぁと深いため息を吐く。ひっそりとのぞかせた目元は心なしか赤く染まり、苦笑いと照れ笑いの間のような、どうにも表情をつくりきれなかったという顔で頭の後ろをかいた。

確かに、女の子のそばにいるときの萩原くんは始終にこにこと笑っていて、表情を崩すことがない。これが本当の自分を出しているということなら、無理に感情を形作らない、ありのままの心を見せてほしい。


「その笑顔の後ろにどんな顔があっても、それも全部萩原くんだよ。気遣い屋さんでみんなに優しい萩原くんに変わりはないよ」





もう降参!それ以上しゃべらないで!と真っ赤な顔で叫んだ萩原くんが愛おしすぎて、思わず笑いがこぼれでた。




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