「不細工だけど堅実真面目なサラリーマンと、イケメンだけど殺し屋、結婚するならどっち?」
「・・・・・・・なんの話?」
「だから、結婚するなら名前はどっちがいいの?」
「まず殺し屋って何」
「別に何でも良いんだけど、そういう裏家業の人ってことよ!」
「そりゃ、堅実真面目なサラリーマンでしょ」
「えー、もう名前は夢がないなぁ」
「夢?え、裏家業の人って夢があるの?」
「じゃぁじゃぁ、カレー味のうんことうんこ味のカレーどっちがいい?」
「それカレー食べながらよく言えるね」
食事をしに来たのか、どうでもいい話をしに来たのか、仕事の邪魔をしに来たのか。
ファミレスの一角で友人に呼び止められてからかれこれ15分、果てしなくどうでもいい質問ばかり投げかけられ、そろそろ店長の視線が痛い。
「私はカレー味のうんこかな。だってうんこ味なんて食べられたもんじゃないわよ」
「私はどっちも遠慮します」
「名前〜。もっと軽く考えようよ。人生挑戦しないともったいないよ?」
「そんなカレーに挑戦してなんの得があるのよ」
「まぁカレーのことはさておきさ。・・・・・・・噂になってるよ?」
「なにが?」
「あんた、求婚されてるんでしょ?しかも超のつくイケメンに」
「っな、なんでそれ・・・!」
にやりと笑う十年来の友人の顔は、彼女が面白い物を見つけたときに浮かべるもので、大抵は碌なことにならない。それで高校時代に夜中の校長室に忍び込んでひどい目に遭ったのを思い出した。
「受けちゃいなよ、それ」
「他人事だと思って・・・」
「友人からのアドバイスよ。名前、このままじゃ誰とも恋愛しないまま終わっちゃうんだからね」
先ほどまでの悪巧みを秘めたものから真剣な光に変わった眼差しに見上げられて、これまでのことを思い出す。
初めての彼氏と別れてから、何もなかったわけではない。この人なら今度こそと思って付き合ってみたこともあった。だけど結局は、恋愛の意味で好きになれた人は一人もいなくて、別れの瞬間を経験する度、大切な人と特別な関係になるのが怖くなった。
大切な人の傷つく顔なんか見たくない。関係に名前をつけるから傷つくのだ。
最初から特別じゃなければ相手を傷つけることもない。
「・・・・・私はそれでもいい」
「・・・名前」
「リオン、それ食べたら早く帰りなよ。家で彼氏待ってるんでしょ?」
「名前がそれで良いならしつこくは言わないけど、でも、自分の気持ちに嘘はついちゃだめだよ」
「もう嘘はつかないよ。嘘をついた結果が今までだったしね」
「そういうことじゃない!・・・名前は優しい子だし、ちゃんと人への愛情を知ってる。名前が好きになる人は絶対いる。だから、人を好きになることを怖がらないでね」
握られた両手からリオンの熱が伝わってきて、彼女の言葉がいかに誠実なものかが痛いほど感じられる。今日、くだらない質問ばかりしてなかなか出さなかった本題はこれなんだと思うと、つくづく友達想いのいい連れを持ったと思う。
・・・・これまでの彼女の悪巧みによる被害を差し引きしても。
「リオン。私、リオンが好きだよ」
「〜〜名前!もう私と結婚しよう!それがいい!絶対名前を幸せにしてみせる!」
「それは遠慮します」
「冷たい!」
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