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帰り道、八代くんから久しぶりに連絡がきたと思ったら「江口さん迎えにきてくれませんか」と縋られてしまって、断れずタクシーを捕まえる。

お店まで行くと「今日は絶対に瑞希は呼ぶなよ」と喚く江口さんとそれをあしらう柿原さんと西山くんの元に案内される。謝罪しっぱなしの八代くんに、大変だったね、ごめんね、と返すが、内心わたしも焦っているのだ。

「ねえ、ほんとにさ、瑞希を繋ぎ止めておくにはどうしたらいいとおもう?」

珍しく酔い潰れて呂律が回りきっていない江口さんに肩を貸す。
この人の弱音を聞くなんて思わなかったからちょっとだけ肩に力が入る。

「ずっと、繋ぎ止めてくれないんですか」

結婚までしてるのに、今更そんなこと。軽くあしらおうと思ったのに、絞り出した声が掠れていて、まるで自分の声じゃないみたい。江口さんはうわごとのように、「瑞希は本当に才能があるの、すごい子なの」と繰り返す。今肩を貸してるのがわたしだって気づいてるのかな。気づいてなさそうだな。気づかないでほしいな。

「もし、瑞希を閉じ込めてしまってたらって、俺が瑞希を殺してるんじゃないかって」

「なんで、そんなこというの、」

わたしは江口さんの力になりたいだけなのに。ぐるぐるとどうしようもできない気持ちが行き場を失う。ずっと口にできなかったけど気になってた。江口さんが急に結婚しようっていったのは焦ってたからじゃないかって。いっときの迷いだったんじゃないかって。

タクシーが走り出すと、右肩に江口さんの温もりを感じる。どうしても手を握り返すことができない。微かな寝息が聞こえてきて、少しだけ緊張がとける。でもその手を握ることが怖い。

こんな状態できっと明日にはこのこと綺麗さっぱり忘れちゃってて、またいつも通りの江口さんなんだ。

だから、わたしも、ちゃんと聞かなかったことにしよう。

心のどこかでそれが悲しいと思いながら、
きっと忘れてくれることにホッとするんだ。