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「結婚しようか」
ずっとずっと言えなかった言葉。
お互い仕事のリスクを考えると、なんてそれはただのいい訳。ずるずると続いた関係を、そろそろどうにかしたいと重い腰をあげたのは、歳のせいか、今度の仕事のせいか。
久々に共演が決まった舞台。とある王国の騎士団長と政略結婚で嫁いできた王女の恋愛モノ。実は彼女と恋人役を演じるのはこれがはじめてだったりする。
まじかよって思ったのが、本音。ずっとずっと避けてきたのに。
「結婚しようか」
心臓が飛び出そうなくらい緊張しているのを隠す俺に対して、彼女は台本をめくる手を止めて「え、読み合わせ?」と眉をひそめる。
「都合よく受け取っていいの?」
「そうしてくれないと俺が困るんだけど」
式は名前が昔憧れだと言っていた、白無垢の神前式。パーティーは同業仲間をたくさん呼ぼう。きっと男ばっかのむさ苦しい空間になってしまうだろうけど職業柄イケメンが多いはずだからそこはご愛嬌。式は着物だから、素敵なドレスはそこでたくさんきてもらう。今回の衣装さんも、あのウエディングドレスを手直しするから着て欲しいっていってたし。
それから新婚旅行は海外に行きたい。これは俺の譲れない希望。俺が育った場所に連れてくって約束、果たしたいし。
新居は、今よりも少し広い部屋に引っ越したい。景色がいいところだったら尚良し。
子供は欲しいけど、ふたりでいる時間も大事にしたい。だからそんなに急がない。
ずっとずっとそんな未来を描いては、言えなかったなんていったら、彼女は笑うんだろうか。
指輪と飛行機のチケットをテーブルの上に並べると、「やばい、小道具かと思った」なんてムードのかけらもないこと言いながら泣くもんだから、泣くか笑うかどっちかにしようよって俺もつられて笑ったのに、鼻の奥がツンとして目頭が熱くなった。
「この舞台が成功したら、籍を入れよう」
最後のシーンでは彼女をお姫様抱っこして暗転。カーテンコールではお互い結婚式典の装い、つまり名前は真っ白なドレスで、手を取り合って中央の階段を降りる。すでに舞台上に並ぶ全キャストが道を開け、頭を下げる中本当にここは城のパーティー会場なのではないかと錯覚する。これがいつもの決まった演出。まるで絵に描いたようなハッピーエンド。
「こんなに幸せなことないや」
いつもより高い位置から彼女が幸せそうに笑った。
「びっくりしたんだよ、いつも抱き上げて終わりなのに圭くん千秋楽突然まじでキスするから」
「ロマンチックなことやるつもりなかったけど衝動でついって、アドリブ許されるのイケメンの特権だよなあ」
「カテコでふたりが登場したときもうスタンディングだったもんね〜あれは完全に結婚式だった」
「もう式しなくていいだろ」
千秋楽の余熱が残る中、アメリカに旅立ったふたりのSNSに投稿された写真と添えられた「Just married!」。
いつものようなキメ顔の自撮りなんかじゃなくて、子供のように無邪気に笑ったふたりは、間違いなく世界一幸せなふたりだ。