■ ■ ■

「テニミュ、今立海なんですね」

騒がしい居酒屋。
彼女の手もとにはたまたまコンビニにあったテニミュのチラシ。

「へえ、そうなんだ」
「もう全然離れちゃったからあんまり知らなかったです」
「俺もだなあ。でも懐かしいね」


「すごい今更だけどあの頃、瑞希って彼氏いたの?」
「え?」
「なんか、最近えぐと付き合ってからさ、雰囲気がすごく柔らかくなったじゃん?なんか懐かしくってさ。なんでかなあって思ってたんだけど、テニミュやってた頃の雰囲気と似てるなあって思い出してさ。だからあん時も彼氏いたのかなあって思って。当時そんな話微塵もしなかったなあって」
「ずっと芝居の話してましたもんね」
「そうそう。馬鹿真面目にね。」
「そうだなあ」

いましたよ。

彼女はそうやって綺麗に笑った。



俺にとってはいつまでも彼女は高校生なのだ。
学校指定のジャージを着て、稽古場の隅に体育座りをして俺らの稽古を眺めている。
受験なんですっていいながら単語帳片手に英単語を呟いてる日もあった。

いつも俺らより少し早く来て稽古場のモップ掛けをしてくれていたのも彼女だった。

演じるキャラクターについて聞いたときだって、いつでも真剣に考えてくれたし、ファンがどういう風に見てるかだって女の子ならではの意見もくれた。

彼女も稽古場の欠かせない1人だった。

そんな彼女もまた、普通の女子高生で、普通に女の子で、普通に青春を謳歌していたのだ。

なにも特別なことはない。


「今も、変わらないなあ」

「そうですか?」
「江口氏の話、瑞希の口からそんなに聞かないなって」
「はは、たしかにそうかもしれないですね」

あれからもうかなりたった。
彼女はもう学校指定のジャージ姿ではないし、もちろん俺だってもうラケットを振らない。
お互いジョッキを片手にあの頃の話を笑って懐かしめるほど月日はたった。

「ずーっと、瑞希はそのまんまでいてね」

「なんなんですか、急に」

少し照れたように眉をひそめる彼女に、「なんでもないよ〜」と笑ってやった。