■ ■ ■

「あの、」

一方的によく知った後ろ姿におもいきって声をかける。
ゆっくり振り返った彼女は不思議そうに「わたし?」と首をかしげた。
まるで私が見えるの?なんて言い出しそうなくらい。


「あの、ずっと気になってたんですけど」

昨日も今日も、気づいたら稽古場にいて演出家と仲よさそうに喋っていた。この人は一体何者なんだろう。

「そのスニーカー、どこのですか?」

「スニーカー?ああ、コンバースだけど、」
「限定色?」
「貰い物なので、、それがどうかしました?」
「あっいえ!俺もコンバース好きで、つい」
「ああ、」

俺一体何を口走ってるんだ

名前を、名前を聞きたいだけなのに。

「佐藤、流司くん、だっけ」
「えっ」
「財前光役の、」
「そうです!」

思わず食い気味に返事をしてしまい、彼女の顔が若干引きつったのをみてぐっと堪える。

「あの、1年くらい前、ワークショップきてましたよね?劇団ひまわりのやつ」

「ああ、殺陣の」

「そうです!あれ俺も参加してて。見かけたのであれっておもって、」

「覚えてます、佐藤くんのこと。」

稽古場でみかけた姿とは一転、おそるおそる口角を上げる姿はどこかぎこちない。

たしかに頼もしいほどに鮮やかな太刀捌きだったのに。まだまだそんなに経験がない俺に火をつけた張本人。そのワークショップの最中には、声をかけることなんてとてもじゃないけどできなくって。
まさかテニミュの現場でお会いできるだなんて夢にも思ってなかったけど。

「あの、」

言え、言うんだ。男だろ、佐藤流司。

「お名前は、」
「久保瑞希です」

よろしくお願いします、と軽く会釈をして立ち去る瑞希さんの姿に思わず見惚れて、我に返ったようにガッツポーズをする。

名前、覚えててくれた。




あの日の嬉しさと、そのあと瑞希さんが学生のときから主役を演じるようなすごい人だったことを知った衝撃は、今でも鮮明に覚えてる。