■ ■ ■
楽屋の戸を叩くと、舞台メイクのままの瑞希ちゃんが「えっ北村くん来てたの!」と素っ頓狂な声をあげる。
「喉からすなよ」
「ははーばれちゃってたか」
「本業声優なんだからしっかりしてよね」
コンビニの袋に入ったままの龍角散を差し入れ代わりに渡したら「雑すぎでしょ」とあからさまに顔を歪められた。
「浅沼さんからもハチミツもらったんだよね。喉が潤うよ」
彼女が指差した先にあったのは明らかにスーパーで買ったハチミツのボトル。どうやらみんな考えることは同じみたいだ。
当の本人は、まだ枯らしてないのにみんな大袈裟すぎだとふて腐れている。
「あっ刀ステ再演おめでとう」
「あざっす。また来てよ。今度は俺がチケットあげるからさ」
「わたしあれ大好きだから行きたい。小夜ちゃんかわいすぎてDVD何回も観ちゃった。年末休みとれるといいな〜」
舞台のアドレナリンのせいか、珍しく表情がコロコロ変わる。イキイキしてるなあ。
刀ステのエンディング曲をハミングしながら化粧を落としている彼女を眺める。
「舞台、よかったよ。久しぶりとは思えない太刀捌きだった」
「ほんと?よかった〜ブランクは言い訳にならないからねえ」
「その薄っぺらい身体のどこにあんな殺陣できる力あんの」
「北村くんにそのまま返すよその言葉」
「あんたは女でしょ」
それじゃあ明日も頑張って、と楽屋を後にする。
最後に見たへらっとした笑顔に明日は大丈夫だといいな、なんて。
そういえばどこかで#伊織#ちゃんに彼氏ができた、という信憑性がなさすぎる話を聞いたきがするけど確認し忘れちゃった、と電車に揺られながら少し後悔した。