■ ■ ■

どこにも行かないで。
だいじょうぶ。ここにいるよ。ひとりで泣かなくていいんだよ。ねえ、オレじゃダメかな。



ふかふかな布団を抱きしめて寝返りを打つ。

ふとん?

きのうしごとして、そーまくんちにいって、スパークリングワインがおいしくて、梅原くんと花江くんも、誕生日を、

ん?

目を開けると見覚えのある天井。まだ日が出たばかりなのだろうか。薄暗い部屋、遠くのバイクの音、鳥の声。
もぞもぞと重たい身体を起こして周りを見渡すと、確かに自分の部屋で。もやがかかったような覚醒しない頭でぼんやり考える。なんでここにいるんだろう。送ってくれたの?花江くん?梅原くん?まさか。ありえない。

焦点の合わない目をこする。
ひたひたと裸足で歩く廊下はつめたくてきもちがいい。ふらつきながらリビングのドアを開けてもだれもいなくて。ソファーにカバンと昨日みんなからもらった誕生日プレゼントが丁寧に置かれていた。スマホの電源は切れていたから充電コードにつないでパソコンでLINEを立ち上げる。

「おはようございます、きょうの早朝の仕事は先方の都合で延期になりました、、か」

マネージャーからの仕事の話題が目に入って、だんだん頭が冴えてきた。

「あれ、起きたの、おはよ」
「えぐちさん?」
「うん、コンビニで買ってきたけどいる?二日酔いひどくない?」

江口さんが持っていた袋の中には薬とインスタントの味噌汁と牛乳プリンが入っていた。好きでしょ、牛乳プリンと問われて、なんで知ってるんだろうとぼんやり考える。言われてみれば、たしかに体も頭も重いや。どんだけ飲んだんだろう。

「すみません、送ってもらっちゃったんですね」
「好きでやったからいいよ〜まあ呼び出してきたのは壮馬だけどね」
「ご迷惑をおかけしました、、、なにも覚えてなくて」
「てか誕生日おめでと。せっかく誕生日だったのに行けなくてごめんな」
「いえ、誕生日ほんとは今日なんで、ある意味江口さんがいちばんめです。うれしい。ありがとうございます」

お湯まで沸かしてくれて、すっかり至れり尽くせりだ。まだなんだか夢でも見てるんじゃないかと思う。気だるい体で立ち上がろうとしたら、二日酔いの誕生日さまは座ってなさいなんて言われておとなしくソファーに埋もれる。

「そういえば電球、どこのが切れてるの?」
「ああ、、、台所の上と、ここの」
「替えの電球は?」
「あります、そこの棚の上にある、袋に、、」

女の子じゃあ届かないよね、なんて言いながらさも当たり前のように電球を替えてくれる江口さんの背中をぼんやり眺める。背、ほんとに大きいなあ。

「みんな、電球くらい替えられるだろって。この年にもなって、恥ずかしい話なんですけど」
「瑞希ちゃんは、もうちょっと甘えたらいいんだよ。困る前にさ」

埃を払いながら、俺は大歓迎だよ、と微笑む江口さんは優しい人だ。胸がぎゅっとする。

困る前に、か。

「仕事行けそう?」
「はい。午後からになったんで、だいじょうぶです。すみません。なにからなにまで」
「ううん、謝るよりもさ、ほら」
「ああ、ありがとうございます、、すみません」
「ほんとにこの子はもう!」

江口さんを玄関で見送ってから、そのまましゃがみこむ
「一緒にいてやるから、ひとりでがんばりすぎんなよ」、そう頭を撫でてくれた。
そのぬくもりがやけに鮮明で。あーあ、なんでだろう。弱ってたのかなあ。玄関を出て行くその背に手をのばしかけてしまった。

いかないでって。




クライア、ライア、ライア、本当のこときかないで、このままずっと、隣り合って、

仲間でいさせて
強がらずに心見せてよ

ぐるぐるとSolidSの新曲が頭にまわる。これに感情移入してるのはカリンじゃなくて、わたしかあ。

お味噌汁のあたたかさがなぜかよく沁みた。