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はじめは、なんだこいつ的な目を向けてしまっていたと思う。
小野さんがやけに可愛がってる噂の新人声優。そんな第一印象。
確かに顔もスタイルもよくてモデルかってくらい容姿は目立ってたが、自分から愛嬌よく喋るわけでもなく、挨拶を済ませると隅っこのほうで台本とにらめっこをはじめる。姿勢はいいけど、根暗なコミュ症の素質を感じた。自分のことを棚にあげるようだが、大丈夫なのか。
どういう縁か知らないが、小野さんはそんな彼女の世話を焼いていた。が、この現場には小野さんはいない。今日は俺と安元さんとあと1人と、彼女。うーん。さすがに。さてどうする?
「安元さん、あの子のこと知ってます?小野さんがよく世話焼いてる」
「ああ、久保さん?大沢事務所の子だって。現場一緒なのはこれで2回目とかだけど、律儀だし丁寧な子だよ。まあ話すのは苦手みたいだけど」
そんなんこの界隈いっぱいいるじゃんと笑う安元さんに、たしかになあと腕を組む。顔か?みんな顔で甘やかしてるのか?
今日も端っこに座る彼女をちらりと盗み見るとパチリと目があった。
ハッと目を見開いてぺこりと頭を下げる彼女に「おはよう」と声をかけると、「おはようございます、中村さん。よろしくお願いします」と上擦ったあいさつが帰ってきた。
ビビらせちゃったかなあ。
「あ!中村さんおはようございます!」
振り返るとひょろっとでかい影。江口だ。
「おお、おまえも一緒か」
「はい!あ、瑞希ちゃんだよね?よろしく」
「あっハイ、お願いします、江口さん」
知り合い?と聞けば、先週も一緒だったんですよ、と江口。
「かわいいって噂の新人だったんで小野さんに紹介してもらったんですよ。小野さんがお父さん面しちゃうほどいい子ですよ。演技もうまいし」
「江口よりうまいことは俺も保障するわ。びっくりすっぞー」
茶化す安元さんに顔が緩みっぱなしの江口。当の瑞希はとんでもないですと苦笑していた。
そのあともやたらと構いたがる江口と嫌な顔ひとつせず相槌をうつ彼女を眺めながら若いね、と安元さんが笑っていた。
収録ブースで、隣に立つ彼女を見るとさっきの小動物さはなく、堂々としていた。凛とした横顔に、あっ、こいつ役者か。直感でそう思った。
つられてこっちまで背筋が伸びる。
少し低めの、スッと伸びる芯のある声。
本人はコンプレックスで、と眉をひそめていたがいい声だと思う。
名も知らない女性陣が陰口を叩いていて、ああ生きづらそうだなあ、なんて。
「見た目普通なのに案外声量あるパワータイプなんだよな。猫の皮を被ったライオンってかんじ」
そう横で評価する安元さんに、うなづく。
一足遅れてブースから出てきた彼女が今にも消えそうな、まるで命を明け渡してきたかのようなかおだったので思わず笑ってしまった。
「早く慣れるといいな」
「はい、がんばります」
なんとなく、小野さんが気にかける理由がわかった気がした。