■ ■ ■
何度目だろうか。
彼女が乗る電車も、最寄駅も、駅から家までかかる時間も、Suicaをカバンのどこに入れてるかさえも、当然のように覚えてしまった。
「電車、混んでそう」
「次のに乗った方が空いてますかねえ」
「終電だからなあ。タクシー使えば?」
「それもありですねえ」
ほわほわと微笑みながらマフラーに顔を埋める瑞希ちゃんの足取りはいつもより浮ついていた。タクシー乗り場への階段を降りながらさりげなく、彼女へ手を伸ばす。そっと、平静を装って。
そっと触れた手が、控えめに握られる。ひんやりとしたその手が俺の熱を冷ましていく。
「ねえ、付き合わない?」
顔を上げた彼女が目を丸くする。
「瑞希の、一番そばにいたい。だめかな」
丁度よくタクシーが俺たちの前に止まって扉が開く。
目を伏せた瑞希ちゃんが口を開くのが怖くて、彼女の手を離して運転手に彼女のマンションの住所を告げて適当にお金を渡した。
呆然と立ち尽くしたままの彼女をタクシーに押し込んで扉を閉めようとした瞬間、グッと右手が引かれる。
「 だめじゃない、です」
「え、?」
「わたし江口さんに、一緒にいてほしいです、」
それじゃあ、また明日。早口でまくし立てて扉が閉まる。
通り過ぎていくタクシーを見送ってその場にしゃがみ込んだ。
「 あ〜、」
人気の無いタクシー乗り場に白いため息が溶けていった。