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「応援上映に行きませんか」


それはそんな一言から始まった。

なんて、ちょっと仰々しい言い方したけど別にそんなものではない。飛鳥に応援上映に行こうと誘われたのだ。

え、てか俺?俺でいいの?


「いいけど……なんで俺?」

「ジョージと行きたいんだジョイ」

「飛鳥の推しがユキ様ってことは知ってるんだからな」

「いやあ……声って、大事ですよね…」


そう言うと何故か遠い目をした飛鳥。

「サイリウム貸してあげますから」と言う飛鳥は珍しく笑顔だった。女性声優なんてみんなにこにこしてるのに、こいつ笑わないもんなあ。貴重だ。

たしか恥ずかしくて上手く笑えないとか言ってたような気がする。せっかく可愛いのに勿体無い、なんて俺が思っても仕方ないのである。


「平日の昼間なら人も少ないですし、よくないですか?」

「飛鳥様の頼みなら行きますよ、俺は」

「へへ、ありがとうございます。嬉しいです」


なんだこれ、癒しか。

てか俺が大丈夫か?飛鳥と歩いてたら犯罪と思われそう。誘拐ではありません。彼女はれっきとした成人女性です。








都内の劇場に入ると、やはり平日だからか人は少なかった。適当に飲み物だけ買ってスクリーン2に入る。人は疎らだ。3人組の女性と、男性が何人か、それと俺のようなおっさんもいた。本当にこの作品はいろんな人が観てるなとつくづく思う。

俺らの席はわりと前の方。幸いにも近くには他に客はいなかった。


「周り気にせず応援できますね」

「けっこう声出す派?」

「んー、普通です。お決まりのところと歌とユキノジョウのところだけですかね」


ガチだよこの子。普通って言ったけど普通ではないよ。


「さっきはああ言いましたけど、ジョージけっこう好きですよ、私」

「えっ」

「顔が好きです」

「顔かよ!わからんでもないけどな!」


高田馬場ジョージなんてふざけた名前してるのに顔は良い。なんてったって歌唱はこばたつくんだしね。いや、なんかもうイケメン要素しかなくね?あれ?もしかしてジョージイケメン?

いや、ジョージはイケメンだよ。


「杉田さん?大丈夫ですか?」

「だ、大丈夫……」

「実は私もガヤで出てるんですよー、知ってました?」

「え!それは知らなかった!」


もともとプリリズのほうにちょっと出てたので、と鞄をゴソゴソと漁っている飛鳥に少しだけ驚いた。そうだったんだ。じゃあそれにも注目して観よう。

はい、と渡されたサイリウムはプリパラのライブのやつだった。まあ、飛鳥出てるしな、うん。


「楽しみですねー。もう何度か観ましたけど」

「ちなみに何回?」

「今回のは忙しくてあんまり行けてないんですよね…今日でまだ7回です」

「うん?もう感覚麻痺してるぞ?」

「応援上映は久々です」


やっぱりガチじゃん飛鳥さん。それほど中毒性があるのは理解できる。俺らが同じゲームを何回かやるのと同じなんだろう。


(せっかくだし、俺もちょっと声出してみよう)


勝手はわからないけど、合いの手くらいならいける。たぶん。

ちらりと隣を覗き見ると、心なしか目が輝いてるように感じた。茜飛鳥、やっぱり可愛いんだよなあ…。俺本当に一緒にいて大丈夫だろうか。後ろから刺されない?四方八方から石投げられない?大丈夫?


「あ、そろそろ始まりますよっ」


……今は無心で煌めきを浴びることだけを考えよう。そうしよう。