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いつもより早く起きてしまった朝、なんだか頭がぼんやりしていた。起き抜けだから当たり前だと思ったけど、なんだかそれとは感覚が違う気がする。体が熱い。
そこまで行き着き、あ、と声が出た。
たぶんこれ、風邪だな。
風邪なんて滅多に引かないんだけど、と軽くため息が出た。幸いなのかわからないが、今日の予定はボイトレのみ。これくらいだったら大丈夫だろうと考え、もう1時間くらい寝ることにした。
「あれ……」
目が覚めると外は明るくなっていた。時計を見ると1時間はとうに過ぎていて、あれから2時間くらい寝てしまったとわかる。廊下から足音が聞こえるし、壮馬くん起きたんだ。
ベッドから起き上がろうとするも、体が言うことをきかない。それになんだか、さっきよりだるい気が、
「あ、こら、起きちゃ駄目だよ」
「……?」
「首、触るね。……うん、けっこう熱いな」
壮馬くんの少しひんやりとした手が首に添えられた。よくわからないままその様子を見ていると、何故か苦笑されてしまった。
「はい、体温計。それと、ボイトレはキャンセルしといてくださいってマネージャーに言っておいたから」
「っえ、なんで」
「寝てる間も咳してたし、喉やられてるときにやっても壊すだけだよ。今は薬飲んで寝ること」
「で、でも……」
「今日はだめ。わかった?」
叱られてしまった。
有無を言わせぬ壮馬くんに、思わず布団を口元まで引き上げる。
「うう…はい……」
「ん。いい子だね」
壮馬くんは私の頭を数回撫でると「薬持ってくるから」と部屋を出ていってしまった。
だめだ、風邪のときって意味なく感傷的になってしまう。こみ上げてくる何かに、少しだけ涙が出た。
壮馬くん、壮馬くんごめんね。でも、ありがとう。
「持ってきた。飲めそう?」
「うん…ありがとう」
「はい。あとうどん作っておいたから食べれるときに食べてね」
「うう…何から何までありがとう…壮馬くんすき…」
「ふふ、はいはい。こちらこそありがとう」
熱は37.8度だった。そこそこ高めだ。そのまま体温計を壮馬くんに渡すと心配そうな顔をされてしまった。そんな顔しないで。はやく治すから。がんばるから。
「俺は仕事行っちゃうけど、」
「うん。大丈夫。いってらっしゃい」
自称、体は丈夫な女だったんだけどな。もうそんなふうに言えないよこれ。
風邪のとき人肌が恋しくなるのは本当みたいで、現に部屋を出ようとした壮馬くんの服の裾を掴んでしまった。は、としてすぐに手を離す。やばい、ちょっと恥ずかしいかもしれない。
「う、あ…えと、ちがくて……」
「…大丈夫。終わったらすぐ帰ってくるよ。約束」
「ごめん、ごめんね…でもうれしいです…」
「ふ、あはは!ほんと今日は素直だなあ」
「っ…も、もういいよ!はやく行きな!」
いたたまれなくなってついには布団を頭まで被ってしまった。とてつもなく恥ずかしい。子供みたいだし、なんかむず痒い。確実に風邪以外の熱も感じてしまった。
「もう寝るよ。おやすみっ」
「ふふ、うん。おやすみ。困ったらラインして」
「りょーかいです……」
案外、あっさり眠りに落ちてしまった。
風邪が落ち着くのが先か、壮馬くんが帰ってくるのが先か、できれば今日中に熱は下げておきたい。仕事に支障が出かねない。
起きたら壮馬くんが作ってくれたうどんを食べて、それから汗が気持ち悪いから、余裕があったらお風呂も入りたい。あともっと余裕があったら台本チェックも。
でもきっと壮馬くんの前でやったら怒られそうだなあ。
(……あつい)
微睡みの中、いってきますの声が聞こえた気がした。
いってらっしゃい、壮馬くん。ちゃんと安静にしてるから、早く帰ってきてね。