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(モブ視点)
その日は何だかついてなくて、朝は寝坊するし、だと思ったら時間を大幅に間違えてすごく早く来てしまったり、挙句の果てに昼食を取るためにファミレスに入ったら注文を間違えられた。もったいないから持ってきてもらったものを食べたけど。とにかく本当に散々だった。こんなについてない日があるのか、と思うほどに。
だけどそれもこのあと起こる出来事のためだったんだと考えると少しだけ、いやだいぶ納得できた。
ていうか正直、これでとうとう運を使い果たしたと思う。
「はぁ……」
急用ができた友人と分かれ、街中を重い足取りで歩いているときだった。ふ、と何の気なしに横を見ると何処かで見たことがあるような、ないようなカップルがいた。カップル…カップルだよね?距離近いしなんかユルい雰囲気出てる。
まあ、今の私にカップルなんて苦いものにしかならないけど、どうしても既視感が拭えなくて思考を必死に手繰り寄せていた。
美男美女だなあ…この間行ったイベントで見…………
!?
(あっ……あー!?)
私は馬鹿か。
何が何処かで見たことある〜だよ。推しじゃん。推しだよ。斉藤壮馬と茜飛鳥だよ。え?嘘でしょ。こんなところで遭遇って…まじで?
普段から仲が良いということはファンの常識だ。だから何もおかしなところはないんだけど、そんなことより頭が追いつかない。
重苦しい気持ちはいずこ、一気に覚醒したように目の前が明るくなった。え、こわ。そんな自分に恐怖した。
「次のイベントってあれじゃん、異世界モノじゃん。やっぱりちょっと寄せた衣装のほうがいいかなあ」
「あ、じゃあ俺が選んであげようか?」
「いいの?やった、手間が省けたー」
「何言ってるの?俺のは飛鳥が選ぶんだよ」
「えっ……プレッシャー……」
「お互いさまってことで」
(うわー…うわー…!)
会話が生々しい!
そんなことより普段からあんな感じなんだ。いや待って、壮馬くん、飛鳥って…呼び捨て…ごめん正直かなり燃えた。萌えじゃない、燃えだ。
こんなに会話がはっきり聞こえる位置にいる私って何なんだろうか。え、私って?そもそも何?
なんだかゲシュタルト崩壊しそうだった。
やっぱり話しかけるのはマズい、よね。プライベートっぽいし、休みの日くらいは気心知れた人とのんびり過ごしたいよね。本当は握手したかったけど、そういうイベントがあったときのために取っておこう。
(見れて、しかも会話が聞けただけでじゅうぶんご褒美だ…!)
もう行こう、と思い、最後にひと目だけとさり気なくちら見すると、飛鳥ちゃんと目が合ってしまった。錯覚ではなく、確実にバッチリ合わさった。まさか目が合うなんて思っていなくて挙動不審になる。う、うわ、どうしよう、引くに引けなくなった。
まあでも、そこはさすが神対応だよね。
飛鳥ちゃんは人差し指を口元に持っていくとシーッという動作をした。なんだよそれ可愛いかよ。真顔だけど私には少しだけ微笑んでるように見えた。
私は頷くことしかできなくて、必死に頷いていると今度は本当に微笑んで「ありがとう」と口パクで伝えてきた。
(……っ〜〜!!)
こちらこそだよ、という意味をこめて、大きくお辞儀をするとその場を早足で後にした。周りにいた人には不審な目で見られたけど気にしない。だって今の私はとても舞い上がってるからだ。
推しが、尊すぎます。
今日はついてないって言ったけど、前言撤回。神級についてる日でした。
(しあわせ!!)
「飛鳥?」
「うん?」
「どうしたの、にこにこして」
「すごく可愛らしい子がいた」
「……?」