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「コンビニ行ってくるけど何か買ってくるものある?」
夜の23時頃、急に思いついたように上着を羽織った飛鳥にはて、と首を傾げる。珍しいな。こんな時間にコンビニに行くなんて。
「ん、俺も行くよ」
「え、いいよ。もう遅いし」
「だからだよ。こんな時間に1人で行かせません」
「はーい、ママ」
「こら、せめてパパにしなさい」
「ふふ、それはいいの?」
いや、まあ、よくないんだけどな。だって俺、彼氏だし。過保護なのは自覚してるつもりだけど、それも本当に心配だからってことで。
コンビニは家から5分圏内の場所にある。だから心配することないと言われたらそれまでなんだけどね。
「わかったわかった。一緒に行こう」
「よし。あ、手繋ぐ?夜は冷えるよ」
「繋ぐ」
あら素直。
飛鳥は何を考えてるのか、前を向いたままふわりと微笑んだ。指を絡ませて繋がれた手はひんやりとしていて、冷え性の飛鳥の手だと綻ぶ。俺に触れてくる控えめな指先は相変わらずだ。
昼間は驚くほどに暑かったのに、夜はやっぱり冷える。頬を掠める風が体温を低下させていくようだった。
「今日さあ、村瀬さんにまたお菓子もらっちゃった」
「あはは、あの人定期的に餌付けしてるよね」
「"あ!飛鳥ちゃん!あげる!"って、」
「ふはっ、今のめっちゃ似てた」
「私も自分でやってて思った」
何気ない日常会話が楽しくて仕方ない。飛鳥も同じ気持ちだったらいいな。
青色がトレードマークのコンビニに着くと、カゴを持った飛鳥にそのままカゴを攫う。きょとんとして一瞬だけ止まったものの、すぐに「ありがとう」と返ってきた。今日はやけに表情が豊かな気がする。あと素直。
これは、あれだ。俺得ってやつ。
「アイス、アイスー」
「アイス買いに来たの?」
「ん。急に食べたくなって」
アイスのコーナーへ行った飛鳥を横目に自分はアルコールのコーナーへ行く。なんとなくビールが飲みたい気分。最近はあまり飲んでないから久しぶりかも。ああ、でもこんな時間に飲んだら明日大変かなあ。
うーん、と悩んでいるといつの間に飛鳥が横に並んでいた。
「なんか買う?」
「……うん、いっか。買っちゃう」
「お、ビール。じゃあ私も飲む」
「2本ね」
会計を済ませて、早々に家に帰った。飛鳥はアイス以外にも何か買っていたみたいだったけど、詳細は不明だ。
「かんぱーい」
「はーい。…あれ、アイスはいいの?」
「ん?ああ、アイス。あとで食べるよ」
しきりにスマホで時間を確認する飛鳥を見ていると目が合った。「なあに」と笑った姿に愛おしさが込上がってくるように感じる。うわ、久々にきた、この感じ。
気恥しさから飛鳥の飲んでいたビールに口を付ける。俺のとは違う甘さが喉を通って消えていく。あれ、これフルーツビールかな。
「……甘いね」
「たまには甘いのもいいかなって」
俺が飲んでいた缶を差し出すと、想像より苦かったのか少しだけ眉を寄せてビールだ、とよくわからない感想を述べた。そりゃあ、ビールですもの。
「あ、そろそろ時間だ」
「? 時間って、」
カチッ、と、時計の針の音がした。
「誕生日おめでとう。壮馬くん」
「っあ…りがとう。もしかして、それ言うためにスマホ見てた?」
「うん。いちばんに言いたくて」
いつの間に時刻は0時を指していた。4月22日。それは自分が生まれた日で、そんな日に彼女から一番に祝いたかった、なんて言われたら、何も言えなくなってしまうのが道理で。
今日なんか俺がめっちゃ照れてる気がする。あー、駄目だ。控えめに言ってもかなり嬉しい。どうしてくれるんだよ飛鳥さん。
そんな俺の胸中も知らない飛鳥は「いつもありがとうございます」と、横に置いてあったコンビニの袋をがさがさと漁って、ケーキを取り出した。あれ、ケーキ……あ、そっか。飛鳥、ケーキを買いにコンビニまで行ったのか。それなら納得だ。
「そうだよ。それなのに一緒に行くって言うからどうしようかと」
「ごめんごめん。知ってたらついて……いや、知ってても行ったな」
「なんてこった」
そこは譲れませんよ。
「プレゼント、どうしようか迷った」
「なんでもいいのに」
「それは駄目。えっと、考えても浮かばなかったから……壮馬くん」
「うん?」
「壮馬くんの1日、私にください」
は、と息が止まりそうになった。真っ直ぐ射抜くような視線に今度こそ頬の熱が上がってくる。錯覚ではない。
やだ…俺の彼女、男前すぎ…?
プレゼントと言うわりには"ください"と、はっきりそう言った飛鳥。どういう意図でその結論に辿り着いたかはわからない。わからないけど、面白いと思った。
「どこへだって行けるよ。1日中、一緒にいよう」
「飛鳥、」
「その後は好きにしていいから」
ぴくり、と耳が反応する。今、好きにしていいって言った?
「……言ったな?知らないぞ」
「いや、でも……語弊は、ある」
「飛鳥」
自分がどれほど彼女のことを好きなのかわからないところまで来ていたのには気付いていた。想いがカンストしてるなんて聞こえはいいけど実際はもう少し拗らせている。こんなの飛鳥に言ったら、きっと困ったように笑うんだろう。それはそれで見たい気もする。
好きの気持ちはこれからも伝えていくつもりだ。一種の毒のようなそれは、甘く侵食するように胸にしっかりと刻まれていた。
物語の世界だったらきっと俺は飛鳥に毒殺されて死んでいるな。
(でもそれも、悪くない。)
「ありがとう。楽しみにしてる」
「う、あの、でもあんまり期待しないでね。まだ何も考えてないし……」
「あれ、いつもの飛鳥に戻った」
「……や、恥ずかしいのは我慢してたんだよ」
「ふふふ。よく我慢しました。えらいえらい」
「だからそういうところだよ壮馬くん……!」
誤魔化すように唇を掠めると、びく、と肩が揺れた。