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その日、事務所ではちょっとした騒ぎになっていた。


「え、飛鳥さんが浮気?」


にわかには信じられないような噂。なんでもこの女性スタッフの人が言うには飛鳥さんが知らない男の人と腕を組んで歩いていたらしい。身長は高めでイケメン、どこか気だるげでクールな雰囲気の青年だったという。
飛鳥さんは親しい人でも一定の距離があったりする。まあ、例外はいるけど、無闇にベタベタするような人ではないはずだ。


「でも浮気って……」

「私も考えたくなかったんですけど、あまりにも恋人同士みたいで。……いや、こういう話はよくないですね」

「……そう、ですね」


もやもやが晴れないまま、台本を受け取って事務所を後にする。もし本当にそうだとしても、何故という感情が大きい。
そんなことをする余地はないはずなんだ。いや、細かいところまではわからないけど。それでも俺は飛鳥さんを信じたかった。

はあ、と小さくため息をつくと背後から『あれ?』というよく知った声が聞こえた。


「宏ちゃん?」

「飛鳥さ、ん……!?」

「えぇ、そんなに驚く?」

「えっ、ぁ、えー……っと、」


飛鳥さんの隣には身長は高めでイケメン、どこか気だるげでクールな雰囲気の青年が立っていた。
ひと目でこの人だってわかる。目元の小さいホクロがまた涼し気な印象を醸し出していた。


「飛鳥ちゃん、」

「ん?あ、宏ちゃん。西山宏太朗」

「声優さん?」

「そうだよ」

「ふんふん……はじめまして、飛鳥ちゃんの本命の咲良ですー」

「ほ、ほんめい?」

「こら、咲良」


にんまりとゆっくり笑った咲良と名乗る青年を小突く飛鳥さん。それだけで仲の良さが垣間見えて一気に体温が下がった気がした。


「宏ちゃん、宏ちゃん?大丈夫?」

「……え?」

「咲良は弟だよ。あまり似てないけどね」

「そうかな。俺は似てると思うけど」

「そんな身長して……?」

「じいちゃんの血が濃いんだって」


目の前で繰り広げられる会話についていけない。ちょっと待ってくれ、弟だって?

よく見ると鼻のシュッとした感じとか口元とか表情があまり変わらないところとか、似てるかもしれない。ていうかそう言われると見れば見るほど似てくるから不思議だった。


「西山さんすいません。嘘言っちゃって」

「い、や、ある意味本当というか……」


飛鳥さん弟大好きって言ってたし、と言うと弟くんは口元を手で隠して驚いていた。心なしか嬉しそうにも見える。
あぁ、紛れもなく飛鳥さんの弟だわ。壮馬相手に同じ仕草をしていたのを思い出した。


「飛鳥ちゃん本当に……?」

「ほんとほんと。でも恥ずかしいからもうやめて」

「はあ、うれし。嬉しくて夜しか眠れない」

「夜眠れるならじゅうぶんだよ」


弟まで真顔でボケるのか。

最初に浮気と疑っていたのが恥ずかしいくらい有り得ないことだったと再確認した。恐るべし茜家の血。遺伝子レベルで強い。





「っていうことがこの間ありまして、」

「大人っぽい弟に子供っぽい姉か!」

「江口さあん、私ここにいますよ」

「やべっ、つい口が滑った……」


噂のさっくんはいろんな意味で飛鳥さんに似てました。とりあえずスタッフの誤解は解かないと。あれは弟でした、なんて、笑っちゃうよ。