6
「君、好きな人がいますね。」
息ができなかった。
居ない、とか、違う、とか。何か言えたはずなのに。
その真っ直ぐな目を見たら、嘘はつけなくて。
俺はただ口を閉じることしかできなかった。
そんな俺を見て、名前ちゃんは怒ることもなく、笑うこともなく、いつもの顔で言葉をつづけた。
「いい、いいのよ。隠さなくていいのだ及川徹よ。
私は及川くんに怒っているわけでもないし、呆れているわけでもない。仕方ないと思ってる。」
なにが、仕方ないんだろう。
なんで怒らず、呆れもしないんだろう。
なんで、”仕方ない”の一言で、彼女は済ませてしまうんだろう。
「及川くんが好きな子みたいに、私はかわいくない。顔だって声だって、性格だって、あの子のほうが何倍も可愛いと思う。名前わかんないけど、たぶん名前すらも可愛いと思う。
及川くんが好きになっても仕方ないと思うよ。そもそも私自身がずっと及川くんと付き合ってられるなんて思ってなかったし。」
彼女がアイスミルクティーをストローで混ぜるたびに、氷がカラコロと音を立てる。
「疑うとかいやで、でもなんか気になっちゃったから、申し訳ないけど、ちょっと隠れて二人の会話とかも聞いたりしてた。
でもやっぱりそうだよなあ、って思った。」
ケーキを一口、彼女が口に含んで、『めちゃくちゃおいしい』と小さく漏らす。
俺は始終彼女を見ているだけ。
「そこで私は考えました。私はどうするべきなのか。
わかった以上、君とこのまま同じように関係を続けることは不可能です。よって。一つの結論にたどり着きました。」
再び彼女が俺と目を合わせる。
続いて吐かれる言葉が予測できてしまって、きっとそれはあっているけれど、耳をふさぎたかった。彼女の口を防ごうかとも思った。
でも俺の手は動かない。
彼女の口は、そんな俺の気持ちを知ってか知らずか、動いてしまう。
吐かれた言葉は、
「別れるしかないと思います。」
今日何度目の、その言葉。