◎7匹目

降谷モドキ来襲から一週間が過ぎた。あれから何もないからきっとあれは私の幻覚だったんだと思うことにした。いや、それはそれでやばいんだけど。ちなみに次の日病院には行った。健康そのものだった。解せぬ。もしあの人が本物なら異世界からのトリップだしそれこそやばい。私の手に負えない案件です。しかし私のお気に入りの薄い本が消えたことは事実だ。それだけは返してもらいたい。神絵師さんの御本なのだ。腹いせに抱えていたあむぬいを殴る。

「もーほんとあれはなんだったんだよぉー。」

いや待て仮に降谷が来たのならコナンくんが来る可能性もあるんじゃないかな!!

「それなら大歓迎だよー!!」
「痛いんだが。」
「……………。」

んん?さっきまであむぬい殴ってたはずなのにいつのまにか本物に変わってるんだけど。私のあむぬいどこにいったの。殴ってごめんね戻ってきて。出来ればこの人と代わってくれないかな?!神棚作って祀るから!!

「えーっと、こんばんは?」
「こんばんは。とりあえずはなしてもらえるか。」
「ウィッススイマセン。」

立膝して抱えてたから筋肉ゴリラに押しつぶされることはなかったけど向かい合った降谷モドキに抱きついている形になっている。言葉にすると恐ろしい状況。理解したくなかった。さっと手をのけるとため息をついて降谷モドキが離れた。

「二度目ましてですね。youは何しにここへ?」
「前と同様気づいたらここにいた。」
「前もそうだったんですか?」
「前は職場のデスクに座って多分、寝落ちたらここにいた。」

寝るとこっちに来るのかな?
今回はまだ落ち着いてるので降谷モドキをじっくり観察する。褐色の肌に金糸のようなサラサラヘアー。むかつくほどのイケメン。この世の者とは思えない美しさとはこういうことだろう。まぁ多分この世の者じゃないんだろうけど。

「確認です。この間名探偵コナンについて言ってましたがやっぱりあなたは安室透ですか?それとも降谷零って呼んだ方がいい?」
「こんなやつでも俺の本名を知ってるってことは本当に俺はここでは物語の登場人物なんだな…。」

こんなやつとは失礼な。まぁ私みたいな凡人が知ることはない情報であるのは確かだが。公安なんて組織コナン読むまで知らなかったよね。ちなみに今でも詳しくは分かってない!

「ちなみにこないだ安コ本でウハウハしてたってことはコナンくんとはもう会ってるってことですよね?」
「ウハウハなんてしてない!!!まぁあの少年のことは知ってる。お前はどこまで知ってるんだ?」
「主人公はコナンくんだからコナンが今まで経験してきたことならある程度。」

青山先生が描いた話は知ってるけどあなたや他の人、例えば部下の風見さん。彼が経験したことなんかは全く知りません。

「理解した。いや、したくないが理解した。なら僕の職業なんかも分かってるんだな。」

今更僕とか言って取り繕っても仕方ないですよ。諦めて。
もちろんアルバイター兼探偵、あ、逆?すいませんね。探偵兼アルバイターと黒の組織幹部と公安エース様のトリプルフェイスですよね。映画効果で最近人気急上昇だからみんな知ってますよ。もちろんあなたの恋人が日本だってこともね。

「ならお前はこの先起こることが分かるって事だよな。」
「不穏な空気感じるから先に言っときますけど、あなた達がどこまで進んでるかも知らないしあなたの仕事に関わることが必ずしも描かれているとは限らないし、間違った情報が後から正されることもあります。だから内容を話すつもりはありません!」

だからそんなお手本みたいな舌打ちしないで!私悪くないもん!!

「それにいつこっち来るかとか分かんないじゃないですか!もう来ないかもしれないし!」
「それはそうだ。いつ帰るかも分からないけどな。」

そんな卑屈にならないでよ。こないだも帰れたじゃん?背中を叩こうとしたら触れる前に弾かれた。慰めようとしただけじゃん!解せぬ解せぬ!!

「馴れ馴れしく触るな。」
「そんなピリピリしなくても…。ここは東都とは違って建物爆発なんて滅多しないし、殺人事件に遭遇することもない、平和な日本です。そしてあなたが身を粉にして守るべき日本じゃない。」

睨んでいた目が大きく見開かれる。だってそうでしょ?ここは別世界なんだから。

「あなたが元の世界に戻った時、時間は進んでましたか?」
「っ、そういや全くと言っていいほど進んでいなかった。」
「ならあなたの一日は24時間を超えるってことじゃないですか。じゃあここにいるときくらいゆっくりしたらどうですか?敵襲が来るわけでもないし何も考えず、好きなことしたり、あ、寝るのがいいと思いますベッド貸すので寝てください。」

目の下酷いクマです、と自分の目の下を指す。
ポカンとしてる顔可愛いな。

「お前、馬鹿か?」
「何でdisられなきゃいけないの。」
「警戒心無さすぎだろ有り得ないだろ。」
「この平和な日本で警戒心持てって方が難しいですな。」

ため息つかれた。でも雰囲気柔らかくなった気がするから警戒解けたのかな?
彼の前に手を出す。

「改めてまして苗字名前です。あなたは?」
「…………降谷、零だ。」
「降谷さん、でいいんですね?」
「あぁここで偽名を名乗る必要はないからな。」
「なら降谷さん。次があるか分かりませんがよろしくお願いします。」
「とりあえずベッド貸してくれるか?」

斯くして私の非日常は始まった。



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