◎部下の人と受付嬢
大変なことになった。
あの日から降谷さんが苗字さんに多大なる迷惑をかけていることが判明し(勿論証拠はしっかり揃えてある)、お詫びをしなければと思っていたところ、この男所帯に幻のロールケーキを差し入れた要人に感謝し、ありがたく差し入れさせてもらうことにした。あいつらにやったって味も分からず糖分摂取になるだけだ。勿体無い。が、なんと彼女はあろうことか一緒に食べようと言うのだ。降谷さんにバレたら殺されるかもしれない。
ちらりと時計を見ると彼女の終業時間の6時。幸い今日は降谷さんは登庁していない。
「久保田、少し席を外す。1時間ほどで戻るが何かあれば携帯を鳴らしてくれ。」
「分かりました。」
部下に一言告げて席を立つ。うわなんかドキドキする。俺は高校生か。
食堂へ行くと私服の苗字さんが窓際の席に座ってスマホをいじっていた。イメージしていた可愛い服装ではなくラフなズボンにTシャツにカーディガンを羽織っていた。ちょっと意外だが似合っている。じゃなくて。
「すまない、待たせた。」
「お疲れ様です。待ってないですよ。それに仕事なんですから大丈夫ですよ。さぁさぁロールケーキ食べましょう!」
事務所の冷蔵庫で冷やしてたんですよーと箱を開けていく。もう切り分けてくれているらしく紙皿とディスポのフォークも持ってきてくれていた。なんと準備のいい。
「いただきまーす。」
行儀よく手を合わせてから一口。その瞬間目が輝いた。どうやら言葉にならないらしい。悶えている。そんなに美味いのか。俺も一口食べてみるとおぉ、確かにこれは美味い。甘過ぎないクリームに少し甘めのふわふわなスポンジが絶妙にマッチしている。
「これは半年待つわけだ。」
「あー幸せ…。風見さん本当にありがとうございます。」
「残りは持って帰るといい。家でじっくり食べてくれ。」
「え、同僚の方いないんですか?持ってってもらっていいですよ?美味しいものは共有すべきです。」
「じゃあ俺にも分けてもらっていいか?」
突然のブリザード。部屋の温度が一気に氷点下に下がった気がしたのはきっと気のせいじゃない。
振り向くと背後に般若を従えた笑顔の上司。
「お前、いつの間に苗字と仲良くなったんだ。」
「いえ、あの、」
「風見さんは上司が迷惑かけてるからってこれ持ってきてくれたんです。」
「風見?」
俺、死んだ。
苗字さんは俺に構わずさっきのキラキラした顔から死んだ魚のような目で降谷さんを睨む。
「あなたにあげるロールケーキはありません。お帰り願います。」
「風見と俺とで態度が違いすぎないか。」
「胸に手を当てて理由を考えて下さい。」
てかなんでこの人ここにいるんだ?今日登庁の予定は無かったはずだが。
「ある奴から風見がデートに向かったと密告があった。」
久保田ぁぁぁぁぁぁ!!!!!帰ったら覚えてろよ。無事に帰れたらだが。
「なんかややこしくなってきたんで私帰りますね。紙皿とフォークは置いとくので皆さんで食べて下さい。本当に美味しかったです。ありがとうございました!」
そう言って苗字さんは逃……帰って行った。
「さぁ風見、詳しく聞かせてもらおうか。お前なんで名前で呼ばれてるんだ?」
(苗字さんよくこの人の相手してられるな…)
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