◎砂で創られた虚構の城

夕御飯を一緒に食べたあの日から征十郎くんのスキンシップ?が激しくなった。
いや、過激になった。

「おはよう、名前。」
「お、おはよう征十郎くん…。」

突然の本人登場に思わず吃ってしまった。

「もう間違えないんだな。
折角キス出来る口実になったのに。」

征十郎くんはクスッと笑うその美しさに見惚れてしまう。
いや、その前に言葉がおかしい。
綺麗な顔してるからって何でも許させるわけじゃないぞ。

「可愛いな。」

その言葉に意識が戻ってきた。
………誰が?征十郎くんが?

「征十郎くんは可愛いより綺麗だよ。
寧ろ恰好いいが似合うよ?」
「それはありがとう。
名前に言われると嬉しいよ。
だが可愛いのは名前だ。」
「…………。」

せ、征十郎くんが……。


「征十郎くんがおかしい!伶央姉どうしよう!」
「あら、突然どうしたの?」

部活後の伶央姉を捕まえて相談してみた。

「最近征十郎くんが私を可愛いとか言ってくるの!
これって目がおかしいよね眼科を勧めるべきだよね!」

伶央姉は溜息を付く。
そして私の両頬を掴んで顔を近付けた。

「い、痛いよ伶央姉。」
「名前、あんた分かってんでしょ。」

伶央姉はちょっと怒ったような、真剣な声で言った。

「あんたはどうしたいの?」

そう、私だって鈍感じゃない。
征十郎くんが私に好意を持ってくれていて、それが友愛でないことも分かってる。

「わ、分かんない………。」
「はっきりしなさい!
そんなふわふわしてたら征ちゃん奪られちゃうわよ。」
「それはやだ!」

でも、私の征十郎くんへの思いは友愛なのか恋愛なのか分からない。
それに私はどんなに人間の中にいても殺人鬼。
それに変わりはないし変わることも無い。

「私に征十郎くんは勿体無い………。」
「あんたねぇ…。」

伶央姉が呆れた顔で何か言おうとした時、後ろから抱き締められた。

「伶央、僕の名前と何やってるんだ。」

いや、あなたのものではないのですが…。

「名前、帰るぞ。」
「あ、うん。伶央姉相談乗ってくれてありがとう。」
「はいはい。
自分はどうしたいのかをちゃんと考えなさいよ。」

自分……私はどうしたいのか…。
私は赤司くんとどうなりたいんだろうか。

「僕が一緒にいるのに考え事とはいい度胸だな、名前。」
「うん、ごめん……。
ちょっと考え事してて。」

すると征十郎くんは珍しい物を見るような目で私を見る。

「なんだ、名前でも悩みがあるんだな。」
「征十郎くんは私を何だと思ってるのかな?
悩み事ぐらい沢山あるよ。
でも今私の頭の中は征十郎くんの一杯。」

どんだけ私を悩ますんだ。
そろそろ頭がエンスト起こしそうだよ。
恨みを込めて睨むと征十郎くんは嬉しそうに笑っていた。

「何がそんなに嬉しいのさ。」
「好きな人の頭の中が自分で一杯だったら誰だって嬉しいに決まってるだろう?」
「………征十郎くんは一般人の常識に当てはまらない存在だから分かんない。」

その日征十郎くんの顔は終始柔らかかった。


それから数日後。
私は放課後学校の近くの公園に呼び出されていた。
周りに人気は皆無。
只目の前にはそんなに年の変わらないであろう名前も知らない青年。

「こんなとこに呼び出して何の用ですか?」
「放課後の呼び出しと来たら決まってるじゃないか。」

但し手には日本刀。

「告白だよ。」

そう言って相手は刀を構える。
この人は、殺し屋だ。

「その手の物騒な物は明らかに不要ですよね。」

私は袖に隠し持っていたナイフを出す。
どこで暴露たのだろう。
まぁ、


殺せばいいや。



「お前、何で学校なんか通ってんだよ…。」

青年は呟く。

「だって勉強は学生の本分じゃない。」

私はその言葉に鼻で笑ってやる。

「お前、只の殺し屋じゃ、ねぇだろう…。」
「そんな奴等と一緒にしないでくれる?
私は誇り高き零崎一賊よ。」

今度は青年が鼻で笑う。

「狂った鬼が何真面目に学校通ってんだよ!
お前等鬼は所詮鬼でしかないんだ!
それが何人間になった気になってんだよ、笑わせんな!
人間ごっこしてるだけじゃねか!」

青年は狂ったように笑い出した。
それを私は関心無く見下ろす。

「言いたい事はそれだけ?」

青年は顔を歪めて嗤った。

「お前は今すぐ裏へ帰れ。」

私は血塗れのナイフを構え直し、

「ご忠告どうも。ばいばい名も無い殺し屋さん。」

そのまま青年の喉に振り下ろした。


私は血の海に突っ立ったまま考える。

あぁ、そっか、やっと気付いたよ、伶央姉。
私は零崎。
征十郎くんは近いと言えどまだ一般人。
鬼と人は相入ることは出来ない。
なら今のうちに別れてる方がお互いの為にいいじゃないか。
そうだ、それがいい。
あんまり馴れ合うと離れられなくなるから今の内に決別しよう。
そうと決まれば早速実行に移そう。

「名前、何してるんだ。」
「何って、征十郎くんの首にナイフ当ててるんだけど。」

後ろからだから征十郎くんの表情は見えない。

「離れろ。」「私は殺人鬼零崎一賊。
殺人鬼が人を殺そうして何が悪い。」
「あの男も君がやったのか?」
「勿論。」

征十郎くんは淡々としている。
そうだ。鬼の気持ちが人間に分かるはずがない。

「これで分かったでしょ?
あなたと私は違う。相入れないの。
だから、」
「名前…」

征十郎くんは後ろを向こうとするのを更にナイフを突き立てる。

「動くな前を向け。後ろを向いたら殺す。
今から十分間動くな。」

動く気配が無かったから征十郎くんの身体から離れる。

「さよならだ、赤司征十郎。
もう一生会う事はない。」

「ばいばい。」


私は本気で全速力で走った。
さよなら征十郎くん。

大好きでした。


その日以来名前は学校から姿を消した。


それはいとも簡単に崩れ堕ちた
(ねぇ伶央姉、こんな感情気付かなければもっと一緒にいられたのかな?)



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