◎鬼とキセキ+αの遭遇

「あんたが赤司か。会えて嬉しいぜ。」

キセキの世代が集まる中黒子の後ろから火神が現れ、ニヤリと笑い赤司を睨んだ。

「………真太郎ちょっとそのハサミ借りてもいいかな?」
「?なんに使うのだよ。」

突然の申し出に緑間は疑問に思いながらもハサミを赤司に手渡す。

「ちょっと髪がうっとうしくてね。
ちょうど少し切りたいと思っていたんだ。
まぁ、その前に。」

赤司は階段を降り火神の前まで来ると、

「火神くんだよね?」

いきなりハサミを火神の顔めがけて突き刺した。

「うお?!」
「火神くん!」

火神が寸でのところで避ける。
頬には血が一筋流れた。

「へぇ……。よく避けたね。
今の身のこなしに免じて今回だけは許すよ。
ただし次はない。
僕が帰れと言ったら帰れ。」

赤司はジョキジョキと躊躇なく自分の前髪を切っていく。

「この世は勝利がすべてだ。
勝者はすべてが肯定され、敗者はすべて否定される。
僕は今まであらゆることで負けたことがないし、この先もない。
すべてに勝つ僕はすべて正しい。」

切り終えたハサミを返し、火神を見て冷笑する。

「僕に逆らう奴は親でも殺す。」
「征十郎くん。」

突然階段の上に少女が現れた。
なんの前触れもなく。
元からそこにいたかのように自然に。

「ミスディレクション?!」
「黒子っち以外にも使える人がいたんすか?!」

バッと声が聞こえた方を向く。
赤司は溜め息を吐いて火神から離れた。

「………何の用だ名前。」

そのまま振り返らずにそれが当たり前かの様に答える。

「伶央姉が呼んでたよー。
早く戻って来いって監督が呼んでるらしいから。」

少女がにこりと笑うとそこにいた赤司を除く全員が目を見開き肩を揺らした。
なんなんだ、この少女は。
今赤司が火神を刺そうとしたところを見ただろうに平然と張本人に声をかけた。

「へぇ、この人達が噂のキセキの世代、それに火神大我くん。」
「俺の事も知ってんのか?!」
「まぁね、君結構派手に活躍してるみたいだから。
噂はかねがね聞いてるよ。」

それにしても、と少女はキセキ達を見回す。

「話に聞いていた通りイケメンさんばっかりだねー。
そりゃ会場も盛り上がるよね。
それに………………。」

少女はある一点に目を止め、階段からふわりと飛び降りそこへ着地した。

「君が黒子テツヤくんだね。」
「黒子っちを一発で見つけた?!ほんとこの子何者?!」

隣で盛大に驚いている黄瀬に目もくれず、少女は黒子の耳元に顔を寄せた。
そして周りには聞こえないよう小声で話かける。

「ねぇ君ってさ、闇口の人間?」
「!?」

黒子の肩が大きく跳ねた。

「名前、テツヤから離れろ。」

少女ははぁいと間延びした返事をし、黒子から離れた。

「別に何かするわけじゃないから安心してよ。
ただ征十郎くんの周りの人間はどんなのかなぁって思っただけ。」

それでも黒子は警戒を解かずに少女を睨む。

「あなた、何者なんですか?」

少女は首を傾げてにこりと微笑む。

「殺人鬼。」


絶句。


赤司だけが呆れて溜め息を吐いていた。


「それにしてもこうやって見ると征十郎くんちっちゃいねー。
主将なのにー。」

少女は赤司の方に振り返りけらけらと笑う。

「うるさい。黙らないと殺すよ。」
「あはっ、征十郎くんが私を殺そうなんて100年早いよ。」

その会話にとうとう黄瀬が堪えきれなくなったのか、恐る恐る挙手した。「あのー、赤司っち?ほんとにその子は誰なんすか?
聞いちゃダメなんすか?」
「説明するのだよ赤司。
赤司にそこまでずけずけと物が言える女などただ者ではないのだよ。」

緑間も眼鏡を上げる手が震えている。

「あいつ赤司が怖くねぇのかよ…。
恐ろしい女だな。」
「赤ちんがあんだけ言われたらほんとに殺しかねないのにのねー。」

青峰の呟きに紫原が頷く。

「あの、赤司っち?」
「うるさい涼太。」
「ヒドイ俺だけっすか?!
みんなも言ってたじゃないっすかー!!」
「彼女だ。」
「俺だけ怒るなんてヒドイ………え?」

ぎゃんぎゃん吠えていた黄瀬がピタリと止まる。
他の人達も赤司の方を見て固まっている。

「お、おい赤司。
悪いもっかい言ってもらってもいいか?」
「だから彼女だ。
大輝は頭だけじゃなく耳まで悪くなったのか。」

再び停止。
少女はニコニコと笑いキセキ達の方を見ている。

「………つまり赤司くんはその、彼女とお付き合いしているということですか?」
「そうだ。」

三度停止。
そして、

「「えー!!!!!!」」
「あ、あり得ないのだよ。」
「へぇーそーだったんだぁ。
赤ちん言ってくれればいいのにー。」
「聞かなかっただろう。」

火神はこそりと黒子に耳打ちする。

「なぁ黒子。赤司ってそんなやつなのか…。」
「いえ、想像もつきませんでした…。」
「いきなりハサミで刺してくるようなやつに彼女なんていんのかよ…。
あの女も普通じゃねぇな…。」
「………。」

火神はげんなりと少女を見る。

「改めまして。
私は赤司征十郎の彼女、零崎名前です。
以後お見知り置きを。」

そう言って少女、名前は礼儀正しく礼をした。

「えーっと名前は赤司っちが好きなんすか?」
「うん、大好きだよ。」
「脅されてるんじゃねぇのか?」
「そんなわけないじゃん。
ちゃんとお互いが了承してるよー。」

青峰があり得ねぇあり得ねぇと呟く。

「………伶央が呼んでるんだろう。行くぞ。」

ニコニコとしている名前の手を赤司は引っ張った。

「えー、私まだみんなと話したいー。」
「僕の言うことは?」
「………はいはい、ぜったーい、ですよ。
では皆さん、またどこかで会ったらお話しましょうね!」

名前は赤司に手を引っ張られたまま、手を振った。

「じゃあ僕はそろそろ行くよ。
今日のところは挨拶だけだ。」
「はぁ!?
ふざけんなよ赤司!
それだけのためにわざわざ呼んだのか?
彼女を自慢するために俺らを呼んだのかよ!?」

青峰が赤司に噛みつく。

「いや、それは誤算だ。
本当は確認するつもりだったけどみんなの顔を見て必要ないと分かった。」

赤司はキセキ達を見回して笑った。

「全員あの時の誓いは忘れてないようだからな。
ならばいい。次は戦う時に会おう。」
「みんな頑張ってね!ばいばーい!」

そう言って赤司と名前は去って行った。


「まさか赤司に彼女がいたとはな…。」
「しかも可愛いかったっす。」

緑間と黄瀬が頷き合っている。

「なんであの女は赤司と付き合えるんだ?
俺だったらまず死を覚悟するな。」

顔面蒼白な青峰に紫原がお菓子を貪りながらちっちっちっと顔の前で人差し指を振る。

「赤ちんがベタぼれなんじゃない?」
「まじかよ!それこそあり得ねぇだろ!」
「でも零崎さんが黄瀬くんや青峰くんと話してる時、すごい顔で睨んでましたよ。」
「「殺される!」」

黄瀬と青峰が抱き合い、悲鳴が木霊していた。


「なんか、キセキの世代って結構仲良いんだな…。」

キセキのやり取りを見て火神はポツリと呟いた。


「俺ミスディレしてる!」

そして降旗はぽつねんとキセキ達のそばに立っているのだった。


「名前、伶央が呼んでるなんて嘘だろう。」

キセキ達から十分離れた位置に来てから前を向いたまま赤司が言った。
その手はまだ繋がれている。

「だってキセキの世代見たかったんだもん。」
「見てどうするんだ。意味の無いことをするな。」
「あれ、もしかして妬いてる?」

赤司は答えない。
名前は嬉しそうにふふっと笑った。

「征十郎くんの友達が見たかっただけだよ。
私が好きなのは征十郎くんだけ。」
「当たり前だろう。」
「それに皇帝である征十郎くんと付き合うなんて殺人鬼である私ぐらいしか出来ないでしょう?」

すると赤司は立ち止まって名前の方を向いた。

「違うぞ。
皇帝である僕にふさわしい者は殺人鬼のである名前しかいない。
そうだろう?」

名前は苦笑しながら少しだけ頬を染めた。

「あんまり違いが分からないよ。」
「全然違う。
僕が名前を選んだんだ。
お前が僕にふさわしいから選んだんだ。」
「………やっぱりよく分からないや。
でも、」

大好きだよ征十郎くん、と嬉しいそうに言うと赤司は軽く名前にキスをして満足そうにニヤリと笑った。

「当たり前だ。」

僕は愛してるともう一度キスをした。



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