◎第拾壱話


なぁ、名前。
お前は今一人で何を考えてるんだ……?

名前が消えた後、直ぐ幹部が広間に集められた。
そして千鶴は泣きながらポツポツと話してくれた。

「名前ちゃん部屋が一緒だったら隠しておけないから、って話してくれたんです。」

自分は鬼の家系に生まれたけど、母親が人間だったから夜、月の光が当たったら鬼になってしまうらしいんです。
最初見たときはびっくりしました。
でもすごく綺麗で……。
この事がみんなに知られたらここにはいられないから絶対秘密にしておいてほしいって言われました。
理由を聞いたら

「鬼は人間と一緒にいてはいけない存在だからって………。」
「でも風間はあいつのこと月ヶ峰って言ってたんだよな?」
その場にいなかった平助は土方さんに尋ねる。

「あぁ。月ヶ峰と言えば最近頭角を現した商人だろう。
月ヶ峰なんてそういる苗字じゃねぇからな。」
「でも名前ちゃん曰く、鬼ってのは人間と一緒にいちゃあいけない存在なんだろ?
じゃあなんで鬼が人間と関わる商人なんかやってるんだ?」
新八の言う通りだ。
なぜわざわざ人間と関わるような仕事をしているんだ…。

「とりあえずあいつを探しに行かねぇとなんもわかんねぇしな。」
「そうだ、探しに行こうぜ!」

新八と平助が立ち上がったとき、土方さんが強い声で制止をかけた。

「名前は追わねぇ。
あいつは自分の意思で出ていったんだ。
それに今の新選組にあいつの捜索に割く人員はいない。」
「でもよ!」
「平助、副長の言うことが正しい。
最近、不逞浪士の動きが活発になっている。
苗字を探している暇はない。」
「一くんは心配じゃねぇのかよ!」

斎藤に掴みかかろうとしたとき、土方さんが立ち上がって睨みをかけた。

「これは副長命令だ、いいな。」

それだけ言って土方さんは部屋を出ていった。

「ひでーよな、土方さん!
ちょっとの間だけだけど名前は仲間だったんだぜ。
心配じゃねーのかよ。」

平助が縁側に座って足をばたつかせる。
その隣では千鶴が小さく膝を抱えていた。

「名前ちゃん、大丈夫かなぁ…。」
「あいつは強いからな、無事ではあるだろうよ。」

そう言って千鶴の頭を撫でたが千鶴はさらに膝に顔を埋めた。

「でもきっと一人で寂しい思いをしてます…。」
「……………そうだな。」

ここ最近、顔にはあまり出ないが名前楽しそうだった。
それがこんな終わりなんて、

「なぁ、俺らだけでも探そうぜ。
巡察中とか、非番の日とかさ。」

平助が千鶴を慰めるように少し大きな声で言った。
その言葉に千鶴が無言で頷く。

「それ、僕も手伝うよ。」

いつの間にか後ろに立っていた総司も笑顔で頷く。

「お前は土方さんに反抗したいだけだろ。」
「えー、そんなことないですよー。
ただ遊び相手がいなくなっちゃったからつまんないなぁって思っただけです。」

まぁ、嘘ではないんだろうが半分以上は土方さんを困らせたいのだろう。

「じゃあ俺、今から巡察だから見てくるよ!
行こうぜ千鶴!」
「うん!」

平助は千鶴の手を引いて走って行った。

「俺達も手掛かりを探しに行くか。」
「………………そうだな。」

絶対、お前を探し出してみせるからな。

ーーーーーーーーーーーーーー

私は河原に生えている木の上にいた。

これからどうしようか。
バレてしまった以上私は新選組には帰れない。
こんな得体の知れない鬼なんて置いてもらえるはずがない。千鶴は別だけど。

「……………楽しかった、なぁ。」

沖田さんや平助と試合をして、斎藤さんに助言をもらったりした。
土方さんは怖かったけど大勢を引っ張ってすごかったな。
近藤さんはときどきお菓子くれたり優しかったな。
千鶴とご飯を作ったり洗濯したりお喋りしたり、普通になれた気がした。

原田さんは、兄様のように頭を撫でてくれた。
優しくしてくれた。
それがすごく嬉しかった。

いつの間にこんなに私は馴染んでしまったんだろう。
私は孤独で、主の為だけに生きていたはずなのに。
こんなにも帰りたいなんて。

「私にもこんな感情がまだあったんだな…。」

いや、あそこにいてから生まれたものなのかもしれない。
感情は殺せ、それが幼い頃から言われていたことだから。
今は、無性に泣きたかった。

「これが、悲しいってことなんだね、兄様。」

私は生まれて初めて、泣いた。



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