◎第拾陸話


起きて歩けるようになったのは三日後のことだった。
私は朝一で幹部のいる広間に呼び出された。
原田さんはああ言っていたけど土方さんがどんな処分を下すかは分からない。
私は必要とされたい。
その気持ちを言えば大丈夫と原田さんは言ってくれた。
なら私の気持ちをぶつけてみよう。
こんな事は今まで無かったから怖いけど、
でも、きっと……


広間に入るなり千鶴が抱きついてきた。

「名前ちゃん、名前ちゃん……!」

臥せっている時は千鶴に会えなかったから帰ってきて初めて千鶴に会った。
私にもこんなに心配してくれる人がいるんだな。

「ごめんね、千鶴。
心配してくれてありがとう。」

ぎゅっと抱き返すと千鶴はさらに力を込めた。

「ううん。
名前ちゃんが無事に帰ってきてくれたならそれでいいの。」

もう一度ありがとうと言うと千鶴は離れ、涙を拭って笑ってくれた。

「感動の再会は済んだか?」

奥には鋭い眼をした土方さん。
その横には近藤さんがいて幹部の皆さんは脇に並んでいる。
私は土方さんの前まで歩み出て、

「すいませんでした!」

土下座をした。

「逃げたことは許させることではないのは分かっています。
局中法度により士道不覚悟で切腹ということも知っています。
ですが私は、」
「名前。」

土方さんの声が私の言葉を鋭く遮った。
恐る恐る顔を上げると土方さんの眉間のしわは増えていた。
あぁ、やっぱり許してもらえないのか……。

「名前、お前は何に対して謝っているんだ。」

突然の質問に驚く。
え、だから局中法度を破ったから……。

「お前は千鶴を守るために戦った。
それなのに何故逃げる必要があったんだ。」
「それは、私が鬼だから皆さんに迷惑がかかると思って……。」

質問の意図が分からず曖昧に答えると溜め息を吐かれた。
な、なんなんだ……。

「新選組は身分関係なく腕さえあれば武士になれる場所だ。
それがたとえ鬼であろうと俺達の味方なら、仲間だろ。」

「……ありがとう、ございます!」

ああ、帰ってきてから泣きっぱなしだな。
見られるのが嫌で顔を伏せると上から何かが降ってきた。
手に取ってみると、

「これは……。」
「これでお前は歴とした隊士だ。
しっかり働けよ。」

誠の文字を背負った浅黄色の隊服。
来たときはただ巡察について行っているだけだったから羽織は着ていなかった。
これで私は本当の仲間に認められた……。

「はい!
この苗字名前命に代えても、」
「違うだろ。」

原田さんが突然遮った。
なんだろうと振り向くとふわりと笑った。

「お前が死んだら、意味ねぇだろ。」

すると他の人達も口々に言い始める。

「そうだよ!
俺、名前がまたいなくなるとか嫌だからな!」
「僕も面白い鍛練の相手がいなくなるのは楽しくないなぁ。」
「そうだそうだ!
これ以上新選組の華を無くしてむさ苦しくなるのはごめんたぜ!」
「……隊士不足の上に戦力を削がれるのは困る。」

そうだ、私はもう捨て駒なんかじゃない。

「……この命続く限り、新選組の為に刀を奮わせていただきます!」

仲間も自分も守るんだ。

「うむ。よろしく頼むぞ苗字君!」
「しっかりやれよ。」
「はい!」

兄様、私はここで新しい仲間と生き抜いてみせます。
「そら、会議は終わりだ。
各自解散してさっさと仕事につけ!」

土方さんは立ち上がると他の皆さんも立ち上がり部屋を出て行こうとする。
すれ違いざまに原田さんが私の頭にポンと手を置いた。

「おかえり、名前。」

思わず見上げると優しく笑っていた。
他の皆さんも笑っている。

「……ただいま!」

私の帰る場所はここです。



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