◎第漆話


新選組に来て一週間程経ったある日。
中庭で鍛練をしていると土方さんがやって来た。

「名前、巡察に同行しろ。」

始めての仕事です。

門の前へ行くと隊服を着た原田さんがいた。
どうやら原田さんの組に同行するらしい。

「よろしくお願いします。」

原田さんに頭を下げてから隊の皆さんに頭を下げる。

「仕事教えるから俺の横に付いて来いよ。」
「はい。」


へぇ、京の町はこんな風になってるんだ。
目だけで辺りを見回す。
いろんな店が並んでいて私の目にはどこもキラキラ輝いて見えた。

「新選組ってのは不逞浪士を取り締まるのは勿論の事、喧嘩や物取りを捕まえるのも仕事だ。
まぁ、つまり厄介事は全て新選組の仕事だ。」
「なるほど。」

新選組は人斬り集団だと聞いていたがそんな大きな仕事はなかなか無いらしい。
ただ大きな仕事が世の中に広まるだけ。
だから市井で嫌われてるんだな。

「じゃああんなのを取り締まるわけですね。」

少し先の方で店の主人にけちつけている浪士を指差す。
すると原田さんはそういうこと、と私の頭に手を置いてから浪士に近づいて行った。

「おい、どうした。」
「なっ!新選組!?」

チッと舌打ちをし、浪士は刀を抜いて原田さんに振りかぶった。
それを原田さんは槍で容易く受け止める。

「ちょっと新選組まで来てもらう、ぜ!」

すると苦虫を潰したような顔をしていた浪士がにやりと笑った。
怪しい。
そう思った時、原田さんの後ろからもう一人浪士が静かに刀を振り上げていた。

「隙有り!!」
「っ!!」

私は思いっきり地を蹴り跳躍し、原田さんと後ろ浪士の間に着地、そして斬る。

「名前!?」
「二人がかりなんて卑怯な人ですね。
武士の風上にも置けない。」

刀に付いた血を払い原田さんと向かい合っている浪士を睨んだ。

「う、うるせぇ!」

激情にかられた浪士は刀を滅茶苦茶に振り回す。
それを原田さんは槍の刃の反対で突き、気絶させた。

「おい、こいつを屯所へ連れて行け。」
「はいっ!」

原田さんが隊士の人に声をかける。

「あの、この人も連れて行きますか?」
「お前、殺したんじゃなかったのか!?」
「血は出てますが話が出来るくらいには生きてます。
話を聞き出さなければいけないのでしょう?」

いや、まぁそうだが…。
原田さんは何か言いたげな顔をしていたが、顔を反らして隊士にこいつも連れて行けと指示した。

「なぁ名前。
お前あんまりああいう事すんなよ。」

ああいう事?
心当たりが無くきょとんとしていると原田さんは溜め息を吐いた。

「強いと言ってもお前は女なんだからあんまり戦おうとするなよ。
傷でも付いたらどうすんだ。」

少し怒ったような原田さんに驚く。
どうしてそんな事を言うの?
戦えない私は必要とされない。
戦えない私に価値は無い。

「っても助けられてんだからそんなこと言う資格ないがな。」

そう言って原田さんは私の頭に手を置き苦笑した。

「いえ、原田さんなら一人で倒すことが出来たでしょう。
勝手に入ってしまい申し訳ありませんでした。」
「謝ることじゃねぇよ。ありがとな。」

そのまま優しく撫で、すぐに真剣な顔をした。

「でも無茶だけはするなよ。
何かあったら一人で解決しようとするな、いいな?」

とりあえず素直に頷く。

「よし、じゃあ帰るか。
土方さんに名前の活躍を報告しないとな。」

帰るという響きに少し心が暖かくなった。
そうか、あそこはもう私の帰る場所なんだ。

「はい!」

私は先を歩く原田さんの後を駆け足で追った。



しおりを挟む