06

我愛羅君無断外出事件から一週間経った。
あれから勝手に出歩く事は無く、私も落ち着いて仕事に行けたし、私の言うことをちゃんと分かってくれたみたいだった。

ナルトの世界へ帰る術を調べるお手伝いは出来ていないが、というより全く情報もなにも無いだろうけど、特に何か調べたいとか駄々をこねる事も無く平和に過ごした一週間だった。


「我愛羅君、明日から私三連休なんだよね」
「だったらなんだ」


口の悪さは相変わらず。
行儀も良いし顔も良いのに、口だけは悪い。


「プチ旅行でもしようよ、毎日家にいるだけじゃ暇でしょ?」

私がいない間、第三の目を使って外の様子を家から見ているのは知ってるけど、流石にそれだけだと遠くまでは見られないだろう。
身体も鈍りそうだし。
そこで私は祝日を足した三連休を使って車でドライブのプチ旅行を提案した。


「我愛羅君が最初ここに来た時興味持ってた鉄の塊あったでしょ。それ、車で、どっか行こうよ。ていうか行くからね。だから明日は早起きだよ。準備は私がするから」
「……」

行こうよと提案をしたが、私の中では行くことは決定しており、有無を言わさず、もう遅いから寝るからねと就寝の準備。
明日起こしてね6時に。と、目覚まし替わりになって貰っている我愛羅君に言ってベッドへ入る。

この旅行でもうちょっと仲良くなれたら良いなあ、名前も呼んで欲しいし。
いつまでもお前呼ばわりは嫌だしね。と、目の前に見える赤髪に手を伸ばし、ひと撫でしてから目を閉じた。


◇◇

「しゃー!レッツゴー!」
「……」
「ゴー!」

晴天。雲ひとつない晴天。旅行日和。我愛羅君と旅行日和。
旅行行くからねと一方的に言ってから一夜、準備を整え家を出れば最高の天気が出迎えてくれた。
こんなに晴れてて私はワクワクしてるけど我愛羅君は相変わらずの無表情。
ま、仕方ないか。そんなもんだよねこの頃の君は。
私だけでもテンションブチ上げマックスで行こうじゃないの!


家の近所でレンタカーを借りてから、我愛羅君を助手席に乗せ走りだす。
休みを存分に使った二泊三日のプチ旅行へ出発。
どこへ行こうと迷った結果、車で数時間はかかるが都会の喧騒から離れた山の奥。言うなれば木の葉の里の様な緑が多くて穏やかな田舎町へと決めた。
あまり人が居ない方が、我愛羅君ものんびり周りを気にすること無く過ごせると思ったからだ。


「ねえ、我愛羅君がいた世界のこと、改めて聞かせてよ」

車を運転しながら静まり返った車内で我愛羅君に話しかける。
我愛羅君が来てからのこの一週間、私も仕事があったしあまり会話も無かったので今回の旅行で少しでも我愛羅君との距離が縮めばいいなと考えた。
我愛羅君の過去を知っている私からしたら安易で平和ボケした考えだけど。
我愛羅君の口から過去を聞いて、そこから何か私がしてあげられる事があればしてあげたい。


「俺がいた世界は憎しみに満ち、争いが耐えない平和とはかけ離れた世界だ」
「……我愛羅君は平和だなって感じた事はないの?」
「俺は里の脅威だった。まず俺がいる事で平和など、周りの人間が思う事は無い。そんな中で俺が平和だと感じると思うか」


……そ、そうですか。
まだ十代そこそこの少年の返事にぐうの音も出なくなってしまう二十代の私はなんと弱いものか。
我愛羅君の壮絶な過去がそうさせているんだろう、平凡に育った私には想像もできない。


「我愛羅君はさ、自分が里の脅威じゃ無かったらとか考えた事ある?」
「……質問が多い」


あらま、拒否られちゃった。
まあ、平和ボケしたみたいな、しかも会って間もない女からそんな質問されてもって感じだよね。

それからは会話という会話は無く、お腹空いてない?とか、トイレ大丈夫?とか業務的なやりとりしかなくて、普通なら息が詰まりそうな時間なんだろうけど、そんなに苦じゃないのは大人しく助手席に座って流れて行く窓の外を眺めている我愛羅君が可愛い……、のも勿論あるが少しでも警戒を解いてくれつつあるからだろうと勝手に解釈している自分の平和的考えがあったからだった。


殆ど無言のまま運転をし始めて数時間。
途中休憩という名の寄り道をしたりで思ったより時間がかかってしまったが、ようやく目的地へ到着。

晴天で青々していた空は、既に少しオレンジがかっている。


「ん〜疲れた!あ、今日と明日はここの旅館に泊まるからね」

ド田舎、とまでは言わないが、自分が住んでいる場所よりも緑溢れるこの場所は温泉街。
その中にある、私たちが泊まる古風な旅館はご飯が美味しいというネットの評判だけで決めた。
山に囲まれた街が誇る川魚や山菜などの料理に釣られ、即座に予約ボタンを押した事を思い出し、ああ早くご飯食べたいと唸る。

とは言っても晩御飯の時間までまだ少しあるので、荷物を置きに私だけ旅館に入りチェックインを済ませてから、車を駐車場に置いたまま温泉街であるこの街を練り歩こうと決めた。


「いいねえ、この穏やかな雰囲気!あ!鮎の塩焼き売ってる!」
「あら、観光かい、お嬢さん」


わ〜うまそう〜!
美味しそうな匂いを漂わせながら売られている鮎の塩焼きを見つけフラフラと店に寄って行くと気っ風の良さそうなおばちゃんが声をかけてきた。

観光です、と返せば、そうかいそうかいとこれまたいい笑顔を向けてくれた。


「うちの鮎は美味しいよ、でももっと早い時間に来た方がいいかな」
「え?なんでですか?」

青い空の下、河川敷で座って食べる鮎が最高だからさ!都会じゃ味わえないそういう雰囲気を感じて欲しいねえ。と粋な事を言うおばちゃんに、なるほど!と思い切り頷く。

じゃあ明日、朝起きたらもう一度来ます!と空が晴れる事を願いながら約束をし、離れた場所に立っていた我愛羅君の元に駆け寄った。


「ねえねえ楽しいんだけど私」
「だったらなんだ」
「我愛羅君は楽しくない?」

腕組みをし、テンションが上がりつつある私を一瞬見た後、知らんとでも言いたげな視線を寄越してからスタスタと歩いて行ってしまう。

もう、可愛いなあ、そんな無愛想なところもス・キ!なーんて!

久しぶりに人と旅行して、楽しくなってきている私は気分上々である。
可愛い!ス・キ!なんて我愛羅君に向かって言ったらどんな顔をするんだろうか。
黙れとか言われそうだから言わないけど。

「待ってよ我愛羅くーん」
「……」

どうでもいい事を考えている間に離れてしまった距離を縮めようと小走りをし、我愛羅君の隣をゲットしたところでお土産を先にチェックしときたいから付き合ってと頼み、返事のない我愛羅君を半ば無理矢理連れ歩く。


「さっきのは同僚、これは部長に、あっ、このお菓子美味しそう〜!これは自分用に買って帰るかな、よしよし」
「……」


帰り際に買って帰るお土産を事前にチェックするという、なんとも要領が良いのか、暇なのか分からない行為を私はいつも旅行に行く時している。これはこれで帰り際慌てなくていいのだ。時間潰しにもなるし。

暫く店内を一人で見て周って気分は最高だが、先程からずっと感じていた視線をようやく無視できなくなり、その主に声をかける。

「我愛羅君、もしかして暇?」
「……」

なんだよ明らかに暇なんですけどみたいな視線向けてくれちゃって、話かけても無視するんだもんなあ。許すけど。可愛いから。

楽しい私とは正反対に、つーんとしている我愛羅君へ「ごめんごめん」と謝る気は特に無い上部だけの言葉を向け、そろそろ晩御飯食べに帰ろっか!と我愛羅君の手を引き旅館を目指して来た道を帰った。