春のアルベド
「ご飯……一緒に食べよ?」
「乙女やーーん!!」
麗日さんのそんな叫びにくすりと笑いながら、誘いに来てくれたオールマイトと一緒に仮眠室に行きソファーに向かい合って腰を下ろした。
彼が手にするのは、女の子が食べるような小さなお弁当箱で、しかも包みはうさぎさん柄。
「オールマイト、お昼はそれだけですか?」
「あぁ。私は胃袋がないから、一度にたくさんは食べられないんだよ。でもこまめに何度か食べるから、トータルの量はきっとみんなより多いよ」
「そうなんですね」
すっかりトゥルーフォームに戻ったオールマイトは、包みを開くとしっかりと手を合わせ、「いただきます」ときちんと言ってから箸を伸ばした。
「オールマイト」
「ん?」
「ちょっと、気になったんですけど」
「なんだい?」
「そのお弁当って、ご自分で作ってるんですか?」
僕がそう聞くと、幸せそうにもぐもぐと動かしていた口を一瞬止めたオールマイトは、ごくりと飲み込んでから「はて」と顎に手を添えた。
「言ってなかったっけ?私、結婚してるんだぜ」
「…………えええぇぇぇ!?!?!?」
「だから奥さんが作ってくれているよ」
おおおおおオールマイトが、けけけけ結婚!?!?
知らなかった…。だってネットにそんな情報乗ってなかったし…。でも言われてみるとたしかに、個性のこともそうだけど、隠し事が多いオールマイトが結婚してることを隠しているのも頷ける。プロヒーローで、しかもNo.1だもんな…。たくさんの人を守っている分、ヴィランからの反感も買いやすい。きっとオールマイトは、奥さんを守るために隠しているんだろう。でも、なんで僕に教えてくれたんだ?しかも事も無げにさらっと何のためらいもなく。たしかに僕はオールマイトのフォロワーだし、個性を受け継いだ弟子のような立場にはあるけど…。い、いつか、会えるのかな…。オールマイトの、奥さんに…。
「おいおい、緑谷少年。心の声がだだ漏れだぜ」
「はぁう!?うわぁぁぁすみません!!」
「HAHAHA!相変わらず面白い反応をするな、君は」
そう豪快に笑ったオールマイトは、お弁当箱を手に持ちながら、ふと窓の外を眺めた。
「もう、三年になるかな、彼女と結婚して」
「…そうなんですか」
「ウン。だが、私は彼女と出会うまで、誰とも結婚するつもりはなかったんだ」
「え?」
「緑谷少年も知っているだろう?私がヒーローであることを第一にしていることを」
「……はい」
そう言って、オールマイトは手元のお弁当に視線を落とした。
「だから、きっと相手には我慢を強いることになる。幸せになるために結婚するはずなのに、相手を悲しませることになるのはおかしいだろう?」
「…」
「そう思って渋っていた私に、彼女がプロポーズしてきたんだ」
「!……逆プロポーズですか」
「あぁ。まさかの展開だろう?そのとき、彼女はこう言った」
今はわたしのことだけを見て。自分の幸せになる道を考えて、ってね。
奥さんのことを話すオールマイトは、見たこともない表情を浮かべている。
照れているような、喜んでいるような、呆れているような、幸せなような。
いろんな感情がひとつの表情から読み取れて、彼がこんなにも人間らしい表情をしているところを見ると、なんだか僕もホッとする。
「今度、私の奥さんと会うかい?」
「えっ、いいんですか!?」
「君なら構わないさ。彼女も緑谷少年に会いたがっているからね」
「ぜ、是非お願いします!!」
それじゃ、残りを食べようか。
そう笑んだオールマイトは、様々な幸せを噛み締めるような表情を浮かべていた。
春のアルベド
fin.