シンパシー・シンドローム




「彼ね、本当に凄いんだ。この間もね──」


都内の洒落たジャズバーにわたしたちはいた。
ヒーローの端くれとして平和を守る一因をになっているわたしと、そんなわたしのはるか上、視界にも入らないほどの位置にいるNo.1ヒーロー・オールマイト。そんなでこぼこな位置関係のわたしたちがなぜ一緒にお酒を飲んでいるのかといえば、それは単に高校の同級生であり現在、同僚でもあるからだろう。

そんなわたしに出来たばかりの彼の惚気話を聞いてくれるのは俊典しかいない。
酒が入ったわたしは自分でも驚く程に口が回る。それも惚気話という聞いている側は甚だ興味のないことばかりだ。けれども俊典は嫌な顔一つせずずっとうんうんと頷き時には絶妙な合いの手を入れて話を聞いてくれる。それが心地良いからわたしは幾度となく俊典を飲みに誘ってきた。

わたしはアルコール度数の弱いカクテルを、俊典はいつもカフェモルトをミストで舐めるように飲んでいる。成人したばかりの頃は浴びるようにビールばかり飲んでいた男が、歳を重ね嗜好も変わったらしい。

相変わらず惚気話という名の彼の武勇伝をぺらぺらと語り続けるわたしに、俊典がグラスを置く音が嫌に耳についた。


「なに?」
「…あかね。君はずっと、彼がどれだけ凄いかと私に話してくれているよね」
「うん」
「その話は誰から聞いたんだい?」
「えっ…彼からだけど」
「そうか」


そう言って俊典は、再び一口、カフェモルトを舐めた。


「確かに、私の耳にも彼の活躍は入ってくる。新進気鋭の若きヒーロー。確かにそうだね、私もそう思う。けれどね、あかね」
「…うん」
「私と君の仲だから、言葉を選ばずに言おう」
「…」
「自分の活躍を堂々と語る者は、大成しないと私は思うよ」
「!」


そう言っていつかよりぐんと迫力の増した俊典の蒼眼がわたしを射抜き、そしてわたしは項垂れた。

確かにそうだ。そんなことは私も知っている。
彼はわたしよりも数段若い。輝かしい未来もあれば、それに浮かれる歳でもある。だからこそわたしは、彼を自慢するしか自分の立場を憂わない方法がなかったのだ。ただでさえ離れた年、下手をすれば親と子であったかもしれないほどそれは離れている。だからこそわたしは、新進気鋭の若きヒーローを、わたしが恋をしている人を、誰かに肯定して欲しかったのだ。

図星を言い当てられたわたしは、黙ってカクテルを煽った。


「君の気持ちはわからないでもないよ、あかね。不安だったんだよな」
「!」
「彼に捨てられるかもしれない、歳も離れているからと。いろいろ君なりに考えて、その結果がこうだったんだろう。けれどね」
「…」
「そんなことで君を捨てるような男は、いつか君から別れていたさ」
「俊典…」
「君のと彼との付き合いより、私と君との方が存外長いはずだぜ? 君の性格はその彼より私の方が知っている。だから、あかね──」





俊典の二の句に、わたしは言葉を失った。

fin.