02



彼の横の席のまま二か月が過ぎて日本語もだいぶ理解できた。
そして今日は日直で先生にノートを集めるよう言われたので、集め最後に彼に声をかける。


『あー、御堂筋君? ノート下さい』


平然を装い声をかければ、机からノートを出したので上に乗せ持ち上げた。
そのまま職員室に運んで教室戻ってから黒板を消す。
先生上に書くから届かなくてジャンプして必死に消すが、届かない。


「あーあ、みど、あんたも日直やで」

「御堂筋やろ」

「……忘れとったわ」


必死に腕を伸ばしていれば貸し、と言われ振り返れば彼が居た。


「ボクがやるからキミ戻っててええ」

『あ、ありがとうございます』


お礼を伝え席に戻れば二人がああいうんは男にやらせればええんよ、と言われた。
そう言うものなのか、と思いながら戻って来た彼にお礼を伝える。


「……」

「フランス語や」

『あ、ありがとうございます』

「ん」


そこからまた授業を受け黒板消しは彼がやってくれた。
放課後先生に挨拶すれば、せや、御堂筋と言われ二人で返事してしまう。


「まあ、どっちでもええんやけど、日誌書いて持ってきてな」

『私やります』

「ほんなら、これな、書き方わかるか?」

『分かります、朝日やってたの見てました』

「おん、なら頼んだで」

『はい』


先生から日誌を受け取り二人は今日用事があるらしく帰り、私は一人教室で日誌を書く。
邪魔な髪の毛を耳にかけて書いて行くが日本語が思い出せない。
んー、と唸って頭をとんとん叩く。


『んー、ごちそうさまでした? 違うな』

「…頂きましたや」

『あ、そうです』


頂きました、と書いてん? と顔をあげ横を見れば彼が居てびしっと固まる。


「後ここ漢字まちごうてる」

『あ、はい』


すぐさま消しゴムで消して書き直す。
なんでいるのだろう、いつもなら部活行ってるのに、完全に油断していた。
じっと書いているのを見られて恥ずかしくて動かす手を止める。


『あの、やっておきますよ? 部活あります?』

「ボク君に部活してるなんて言うたっけ?」

『あ、いや、朝日が言ってました』

「あいつか」

『なので、いいですよ』


だから早く行ってくれ、と願っていれば彼が動いた。
よし、とまた書き始めれば机に何か置かれ見れば昨日無くしたボトルケースだった。


『っあ、これ』

「君の?」

『はい、そうです』


昨日登った山の駐車場に忘れて居たらしく、見つけたので持ってきてくれたらしい。


「キミ持ち物全部デローザやから、そうやろうな思うて」


お礼を伝えればフランス語な、と言われたので言いなおし、ボトルを取ろうとしたら取りあげられ、あえ、と声をもらす。


「お礼は何くれるん?」

『あ、お礼、あ、えっと』


鞄を開けて探せばチョコがあったので、これでいいですか? と聞けばいらん、と言われた。


『あ、何が欲しいですか?』

「キミの時間や」

『……はい?』

「昨日、キミのお父さんにおうた、キミチャリ乗ってる奴の欠点が見えるんやってな」

『あ、ああ、そんなたいしたことではないです』

「お父さんにもアドバイス出しとったって? お父さん有名人やね」

『そうですね、フランスでは』

「そのお父さんのアドバイスしとったキミの時間をお礼に欲しいんよ」

『えっと』

「キミ、今日からマネージャーな」


持って居たシャーペンを落として彼を見れば二っと笑う。


「ほんなら、これ返して欲しかったら部室来るんやな」


そう言って彼はボトルを持ったまま行ってしまい、私は一人頭を抱える。

ダメでしょ、これ、こんな関わったら、うあぁああぁあ、どうしよう。

心臓煩いし、もうやばい、可愛いし格好いいし、もう、と一人あらぶってから、なんとか自分を落ち着かせ日誌を書き上げた。
先生に出してから鞄を背負い、靴を履き替えて自転車を押して自転車部の近くに行く。
どうしよう、マネージャーは無理だ、絶対心臓止まる。
かといってボトルはお父さんにもらったものだし、どうしようと一人うろうろしていればドアが開いてぞろぞろ人が出て来た。
石垣君達が出て来て、見て居れば石垣君が気づいて顔を上げ、私を見る。


「あ! あの時の子や」

「あの帰国子女の子や」

『あ、あの』

「うあぁああぁ、目青いんやな、宝石みたいや」

「髪の毛も金髪さらさらや!」


御堂筋君居ますか? と聞いたが皆で首を傾げるので私も首を傾げれば御堂筋君が出て来た。


「フランス語になっとる」

『あ、すみません、御堂筋君いますかって聞きました、居ました』

「来たんやね」

『あ、あのボトル返して下さい、マネージャーできないです』

「そんなら返さへん」

『おう、ほ、他にお礼します、あー、そう、んー、あの、違うあのパーツとかあの、グローブとか、大きいサイズで出来ないのあるので』

「いらん」

『あ、そ、それじゃ、あの』

「ボクが欲しいんは時間や、キミのそれ以外はいらん」


おう、と囁けばどないするん? と聞かれ答えれば御堂筋君はフランス語や、と答える。


『きょ、今日だけとか』

「駄目や」

『おう…私役立ちませ』

「それを決めるのはボクやキミやない」


っああぁああぁ、ナニコレやばいんですけど。
興奮のあまり全部フランス語で喋っていて、わからん、と言われた。


『お家遠いですから』

「ほんなら、四時まででええ」

『おう』

「キミ家どこなん?」

『あっちです』


指させば馬鹿にしとるん? と言われ何度も首を横に振る。


『あの、あ、えっと』


携帯を取り出して住所を見せれば、彼は数秒悩む。


「ここから二個先ボクの家や」

『……』

「終わったら、ボクが家まで連れてったる、それでええやろ」


いやだめです、本当、無理です、をフランス語で伝えた。


「わからん言うとるやろ」

『あ、むっ、あ』

「じゃあ、ボトルはなしや、帰ってええよ」

『おう』


作業を始めるので、おう、どうしよう、と囁く。
その場をうろうろして数秒悩んで電話をかける。


「はいはい」

『帰り遅くなる』

「何時ごろ?」

『んー、多分七時にはつくと思う』

「はいよ、了解です、後フランス語だぞー」

『あ、じゃあ、ばいばい』


電話を切って仕方なく準備している御堂筋君にあの、と声をかけた。


『今電話したので、今日はあの残るので』

「……まあ、ええわ」

『なにします?』

「ローラー回す、変なとこあったら言うて」

『わかりました』

「キミの自転車ここかけとってええから」

『はい、すみません』


自転車をかけさせてもらい、私はリュックを下ろしベンチに座る。

うわあぁああぁ、どうしよう、もうなんでボトル忘れたの。

これ以上関わったら絶対やばいって、もう既にクラス一緒な時点でやばいのに。
そうか、今日で役に立たないと思わせればいいのか、と我ながら頭が働いた。
アドバイスしないでおこうと、見て居ればもう気になって気になって頭がおかしくなりそうだ。
数分我慢して顔を隠し我慢したがもう無理だ。
立ち上がってなってない、と声をかければ皆漕ぎながら見る。
だめ、と言えば、御堂筋君がフランス語や、と囁く。


『あ、違う、そうじゃないの、勿体ない』


そう言って近くに居た水田君に近寄る。


『そうじゃない、こことここ、力いれる、ぐっとして、そう、それで、前向いて、そう、そのまま動かない、慣れるまでずっとそのまま』

「きつっ」

『そうじゃなきゃ早くならない、また曲がってる、真っすぐ』

「うあぁあぁ」

『そうそう、いい感じです』


拍手して次の人に回って最後に御堂筋君の横に立つ。


『御堂筋君は素晴らしいです、けど、あえて言うのなら』


無意識に触ろうとしてはっっとして腕を引っ込める。


「なん?」

『ここ』

「わからん」


覚悟を決めて、ここです、と手をおいて、ここに力入れて、ここも、と説明した。
それからしばらくくるくる回りながら戻っていれば指示出した。


*********


やってしまった、馬鹿だ、アドバイス出さないと決めたのに、ちゃっかりアドバイスだしていた。
しかも皆タイム縮んで、凄いな、と石垣君達に褒められる中、おう、と心の中で思う。


「せや、まだ名前言ってなかったな、俺は石垣幸太郎や、三年や」

『あ、初めまして、御堂筋アリスです』


お辞儀すれば御堂筋君以外が固まっては? え? と御堂筋君と交互に見る。


「他人や」

「吃驚した」

『お父さんが御堂筋です、お母さんフランスです』

「ハーフなんやな」

『そうです』

「そっか、苗字一緒やと分かりにくいな」

『あ、今日で終わりですので、気にしないでください』

「ボトル返さへんよ」

『おう、御堂筋君、意地悪しないでください』

「お礼もろうてない」

『今日のがお礼です』

「駄目や」

『他にいい子います、マネージャー探します』

「いらん」

『あ、じゃあ、私もいらないです』

「キミは居る」


その言葉にぶわっと顔を赤くして顔を隠す。
御堂筋君は私に背を向けて居るので気づいていないが、石垣君達はおう、と囁いていた。


『あ、あの、でも』

「役には立ちそうや、せやからキミはいる」


再び顔を赤くすれば御堂筋君が振り返り、何赤くなっとるん? と首を傾げる。


「あ、あれやな熱いもんな」

「そうやな」

「暑いもんな」

『暑いですね』

「まあ、どうでもええけど、そう言う事やから、明日も来るんや」

『おーう』


空を仰げば、着替えるでというので、なら帰ります、と声をかけた。
時計を見れば六時で一時間で帰るためにもう出ないと。


「送る言うたやろ」

『いや、大丈夫です、お気になさらず』

「まあ、別に帰ってええけど」

『お父さん心配しますので、お先失礼します』


頭を下げれば、ほんなら明日な、と言われたのでおーう、と囁き自転車を下ろす。
デローザのヘルメットとグローブをして私は一足先に学校を出た。
サイコンを見ながら学校を出て10分、もう少し早めるか、と腰を上げようとしたら自転車の音がする。
割と早いスピードなので道を譲り手で合図を出す。
ここは車が滅多に通らない場所だからこのくらい避ければ平気だろう、と思って居れば自転車が来て横に並ばれる。
顔を上げれば御堂筋君であえ、と声が出た。


「どうせ追いつくから、先でてええよって意味や」

『あ、あいえ、あ』

「まあ、想像よりは先にいっとったな」

『あ、お気になさらずお先に』

「ボク自分で言うた事は守るで」

『いや、本当にお気になさらず』

「いやなん?」

『いえ、そういうわけじゃないです』


寧ろ嬉しいですけど!?
心の中で叫んで、ご迷惑なので、と囁く。


「どうせ帰る方向同じや」

『そうですけど、私遅いです』

「それ全力なん?」

『いえ』

「ほんならこここの時間車こうへんからスピードあげて平気や」

『あ、はー、い、その、分かりました』


そう言ってギアを変えてスピードを上げて走ればすぐに横に並ばれる。
これ行けるかな、と全力出せば平然と横に並ばれ、お父さんと走っている気分になってしまった。


『私まだまだ早いです、負けません』


笑って漕いで漕いで、それでも彼は横に並ぶ。


「ボクのが早いで」

『負けないです』


二人で走ってはあ、はあ、しながら気づいたら家についてしまった。


『あ、ありがとうございました』

「別に」

『楽しかったです』


自転車から降りて頭を下げれば、翔君、と声がして先の家からおばさんが出て来た。


「メール見てくれた?」

「みとらんです」

「やっぱり、ごめんな、おばちゃん達今からでかけなあかんくなって、お夕飯作れてないんよ、お米もたいとらんし、カップ麺もきらしとる」

「適当に買って食べます」

「ごめんな」

「ええです」

「あら」


おばさんが見たのでこんばんわ、と言えばフランス語や、と言われ日本語でこんばんわ、と頭を下げる。


「こんばんわ」

『御堂筋アリスです』

「あ、ああ、ここの子やね、吃驚や、ああ、時間ないんやった、じゃあ、おばさん達でかけるから、ごめんな」

「気を付けて」


おばさんはそのまま車に乗り込んで端に避けて手を振って見送った。
ちゃっかり私も手を振っていたが、まあ、いいだろう。
車が見えなくなったので、数秒無言の後、ご飯食べますか? と聞く。


『お父さん多く作るから残りますので、食べて行きますか?』

「……」

『あ、いや、いやならいいです』

「ボク行ってええの?」

『ええです』

「ほんなら、お邪魔する」


その言葉に頷いて玄関を開けて中に自転車をしまってもらう。
ただいま、と声をかけ靴を脱いで御堂筋君に上がって貰えば、リビングドアが開いてお父さんが顔を出す。


「フランス語だぞー、って、あれ?」

「こんばんわ」

「こんばんわ」

『御堂筋君、お夕飯食べる』

「ボク親が出かけてもうて」

「そうなの? いいよいいよ、いっぱいあるし、手洗っておいで」


その言葉に返事して御堂筋君を連れて手を洗い、リビングに行けば夕飯が多量に並んでいた。
御堂筋君に座ってもらい、私はリビングの奥にある和室に入ってお母さんただいま、と手を合わせる。


「フランス語」

『ただいまです』


立ち上がり戻れば御堂筋君の横にお茶碗が置かれていて、おう、と心で囁く。
仕方なく横に座っていただきます、と囁き食べ始める。


「遠慮しないで沢山食べてな」

「はい、いただきます」

「昨日山で会った子だね、どう自転車不備ない?」

「ないです、ありがとうございます」

「なら良かった、もし不備あったら言ってな、直す」

「どうも」

「んで、彼氏?」


お茶を飲んでいた私は咽て、違うクラスメイトで、違う、とフランス語で否定していた。


「フランス語ー」

『違う、クラス同じ』

「へえ、ふーん」

『嫌い』

「うそうそ」

「で? 御堂筋君? 苗字一緒だね親近感」

『うるさい、御堂筋君ゆっくりご飯食べたいから静かに』

「あ、はい」

「別に平気です」

「味大丈夫? 俺作ってるからさ、時たまアリスに味濃いって言われて」

「美味しいです」

「よかった」

「お母さん、具合悪いん? ボクおって平気なん?」


御堂筋君の言葉に笑って頷く。


『平気です、お母さん居ないです』

「今そっちで……堪忍」

『平気です』

「すみません」

「いいよいいよ、気にすんな」

「……」

『本当に平気ですよ』



御堂筋君に笑いかければ、お味噌汁を飲んでお茶碗を見ながら囁いた。


「ボクもおらん、お母さん、お父さんもおらん」

『……』

「おばさんにお世話になっとる」

『さっきの人ですね? そうなんですね、話してくれてありがとうございます』


そう言って笑いかければ別に、と囁きまたご飯を食べ始めた。
そこからは三人で自転車の話で、やっぱりデローザ一番、みたいな話をする。


「まだチームメートがあまりもん送ってくれるんだよ、あ、そうだ」


そう言ってお父さんは部屋から出て行き、私は四杯目のご飯を食べる。


「……」

『あ、お替り食べますか?』


その言葉に御堂筋君は五杯目のおかわりを求めたのでよそって二人で食べていれば、ダンボールを持ったお父さんが戻って来た。


「これこれ、御堂筋君身長あるから、これ着れるでしょ、アリスはぶかぶかだし」


段ボールの中にはデローザの競技服やグローブが入っていて、私が着れなかったやつだ。


「もしよければいる?」

「ええんですか?」

「いいよいいよ、俺も腐るほどあるし、アリスは着れないし」

「ボクお金ないです」

「子供からお金とりません、デローザ好きの友好の証だから」

「ほんなら、有難くもらいます」

「おう」


そこからもまた話、食べ終わり私がお茶碗を洗う。
そして御堂筋君とお父さんが玄関で靴を履くので玄関で手を振る。


『さようなら』

「さいなら」


ばたんとドアがしまったので私はリビングに駆け込んでソファでごろごろする。
うあぁあぁあ、ご飯一緒に食べちゃった、どうしようどうしよう、もう心臓が爆発しそうだ。
可愛かったな、うあぁああ、と思いながら起き上がり平然を装いお風呂の準備をした。