02
翌日学校について昇降口で靴を履き替えて居れば、横に石垣君が来て、おはようさん、と挨拶してくる。
無視して歩き出したのに石垣君は私の横をついて来て、べらべら話しかけて来て鬱陶しい。
一階までは我慢したが耐えきれず横に居る石垣君の頬を掴んで、壁に押しやる。
『ええ加減に煩い、私に構うな言うたやろ、朝から気分悪いわ、日本語分かる? 話しかけるな言うとるんよ』
石垣君は何故か頬を赤くして目を泳がせるので顔を近づけた。
『目見ろや、話しかけるな、近寄るな、分かったん?』
何も言わず視線を逸らすのでなあ、とより顔を近づければ、いやん、と夜の声がしたので見れば朝日と夜が階段を上がってくる。
「朝から積極的やね」
「何してるん?」
『話しかけるな言うてるんに、話しかけて来るから躾してるんよ』
「エッチやな」
『エッチやろうか?』
「躾って言葉がエッチや」
そうやろうか? と首をかしげつつ石垣君から手を離し離れた。
『分かったな、二度と話しかけるなや、おはようさんやで、二人共』
「「おはようさん」」
「おはようさん!」
石垣君は笑顔で私を見ていて殴ってやろうかと思ったがぐっと堪え、無視して歩き出せば二人もついて来て両脇に並ぶ。
そしてちらちら後ろを見るので、あれは無視してええよ、と伝え階段を上がり教室に入った。
教室に入れば石垣君は直ぐに他の男に囲まれたのではあ、とため息を吐いて自分の席にリュックをかけ教室の後ろで三人お喋りをした。
お昼、いつもの位置で食べて居ればおったおった、とあのウザい声がして昨日勝負した男が入って来る。
「あれ、光太郎は?」
『知らん』
「まあ、ええか、で、昨日の事やけど」
『勝負は勝負や、私の負けでええ』
「やけど、昨日は体調不良やったんやろ?」
『関係あらへん、ロードレースやったら体調悪いからもう一回なんてことはないんや』
「そうやな、潔いいな」
不本意やけどな、と言えばそいつは笑う。
「マネージャーやけど、来年からして欲しいんよ」
『なんでなん?』
「ん、今年はマネージャーおらんでええって、キャプテンが言うてな、やから来年から頼むな」
『……』
「まあ、今からやりたい言うなら話は別やけど」
『やりたないわ』
「そうやろ、やから来年からな」
はいはい、と返事をすればそいつは携帯を私の前に出した。
「連絡先教えてや」
『ハア? 嫌や』
「ええやんか、俺とお前の仲やろ?」
『ウザ、キモ』
「ええね、もっと悪態ついてええよ、俺そういうん興奮する」
「ドMなん?」
「相当なMやな」
「どっちかって言うとSやけど、まあ、Mでもええな、女の子に合わせるで」
ウィンクして来たので呆れた顔で見れば、その顔もええよ、と言われる。
「まあ、連絡先は来年でええな、ほな、来年からマネージャ−よろしくな」
漸く教室から出て行ったので顔を隠しため息を吐く。
朝から石垣君もあいつも本当に鬱陶しい。
なんで私に構うのか分からない、マネージャ−ならもっと他に居るだろう。
ただ自転車乗っているだけで目を付けられ、最悪な事に負けて、来年からマネージャ−しなきゃいけない。
日頃の行いは決していい方ではないのは分かっているが、あまりにも酷い仕打ちだと思う。
本日何度目か分からないため息を吐いて、残っているお弁当を平らげた。
そして五限と六限、一年全体でミニ球技大会が行われる。
私のクラスはもう一クラスとドッジボールになり、二人が見てくる中一人空を仰いだ。
先に外野を数名決めるのだが女の子がやりたい、と数名手を上げたのでもう定員オーバーで、私は泣く泣く内野としてコートの中に入る。
相手のクラスには自転車部に居た二人が居て、石やん勝負や、と楽しそうだ。
『最悪や』
そう囁けば、先生が笛を吹いてドッジボールが始まる。
そうそうに当たって出ようと思ったのに、ボールのスピードが速すぎて当たったら痛そうなので朝日の後ろで震えた。
「大丈夫やで、アキナはウチが守ったる!」
夜は女子が投げたボールに当たりに行って、外野で手を振っている。
朝日の後ろに隠れ隠れ、その結果、朝日はボールに当たり外野になってしまい、気づいた時には残っている女子は私しかいなかった。
残るは石垣君含め男子が数名で、向こうに残っているのは男子だけ。
絶望していればアキナ! と呼ばれ見れば凄い速さのボールが飛んで来る。
『ピッ! あ、あ』
頭を押さえ目を瞑れば、ばんっっと音がしたが痛みが来ず恐る恐る目を開けると、目の前に石垣君が立っていた。
ボールを持ったまま振り返り怪我無いか? と笑う。
「危なかったな」
『……別に頼んでへん』
「そうやな、俺が勝手にしたことや」
『そうや』
ふんっ、とやれば外野の夜が石垣君を呼ぶ。
「あんなアキナな、自転車は死ぬほど早いし、頭もめっちゃええけど、運動は全く出来へんから」
「縄跳びすら出来へんから、石垣君が守ってあげたな」
「もし誰かアキナにボール当てたら、朝日が殺しに行くで」
朝日は笑ってぼこぼこや、と言い女子もアキナちゃん頑張れ、といらない応援をしてくる。
石垣君が持って居るボールを投げ向こうの男子がキャッチして私を狙うので、震えれば男子はだらだら汗を流す。
目を見つめながら数秒の時が流れ、その男子はそっとボールを投げて来て、よたよたしながらキャッチしたが落としてしまう。
あ、と声を漏らせばすかさず石垣君が走って来て、地面すれすれでボールをキャッチした。
「セーフや!!!」
「ナイスやで石垣君」
「ええよー!」
そこからも男子同士の争いが続き、石垣君以外の男子が皆外野に行ってしまい、残るは二人。
もう早く終わってくれ、と願うが石垣君が粘って粘って、そしてあろうことかボールを落とした。
私の足元にボールが転がってそれを持って相手を見る。
向こうはまだ男子が五人も残っているし、ガタイはいいし、勝てるわけがない。
「頑張れアキナ、行けるで」
「そや、投げればええだけや」
二人の言葉にボールを投げれば男子に届く前に落ちて空を仰ぐ。
『うあぁああ、痛くせんで痛くせんで』
一番後ろまで下がってしゃがみ込めば、ボールが転がって来てそれをキャッチする。
「御堂筋、それ俺にくれ」
石垣君が外野から声をかけるので近くまで寄って投げればキャッチして、凄い速さでボールを投げ相手が一人アウトになった。
そして石垣君が戻って来て、また争いが続き、向こうの男子がボールを持ってちらっと私を見て軽く投げた来たが腕に当たり地面に落ちる。
もう解放されたいのに、石垣君がそれをまたぎりぎりで取ったので腹が立ってお尻を蹴り上げた。
「いたっ!」
『なんで拾うねん!!』
「やって」
『拾うな、外に行かせろや! ここむっちゃ怖いねん!』
「俺が守ったる!」
『いらんから落とせや!!!』
「いやや! 最後まで守ったる!」
そう言って石垣君はボールを投げ、向こうがアウトになり、残りは二対一の戦いだ。
二対一だが、ほぼ私は役に立たないので、二人の勝負が始まり、数分続いたのち、石垣君が買った。
終わった、とその場にしゃがみ込めば石垣君が振り返り私を見下ろす。
「最後まで守りきったで!」
べっとやれば石垣君は嬉しそうに笑い、直ぐに他の男子が石垣君を囲み、私は立ちあがって朝日と夜のとこに行く。
「濡れた」
「最後まで守りきったで、やって格好いいやん」
『どこが? 私は外行きたかったんに、余計な事』
「まあ、まあ、勝ったんやし」
『興味ないわ』
守ってもらった時、幸せの赤色が見えたのはきっと気のせいだ。
********
その日から石垣君はどんなに無視しても悪態ついても私に話しかけることを止めなかった。
その状態が一か月続き、私はもうほぼ諦めに近い状態になって、少しは石垣君と話すようになり、その辺りから他の男子に告白されることも増える。
恋愛、というモノに興味もないし、そんな感情も湧かないので全て断っているが鬱陶しくてしょうがない。
告白された翌日には毎回、石垣君が私に話しかけて来て、その内容もくだらない事を永遠に語っている。
返事もしないのに飽きもせず話しかけて来て、時たま聞いていないけど相槌をうてば嬉しそうに笑う。
時たま石垣君を見ると赤色が見えて、その度に気のせいだと思い長い時が過ぎた。
桜が散る四月、私は二年生になりクラス替えが行われた。
これでようやく石垣君から解放さると思った、相手するのは部活の時だけだと思ったのに。
「また一緒やで!!!」
私の席の前で石垣君が笑い、机に突っ伏す。
最悪や、と囁けば石垣君は前の席に座り、春休み何してたのかどうでもいい話を永遠に喋り続ける。
「ほんで、今日から部活やろ、安先輩がちゃんと来るんやで、って言うてたで」
『ほんまに最悪や』
「楽しみやな!」
ハア、とため息を吐けばチャイムなるぎりぎり、ドアが勢いよく開く。
顔を上げて見れば朝日と夜が荒い息を繰り返していて、セーフやぁあ、と声を上げた。
「はあ、はあ」
「ほんま、初日に遅刻するかと思うた」
『おはようさん』
「「おはようさん」」
「おはようさん」
「また一緒やね」
「もう三年間一緒やな」
そうだ、二年でクラス替えをしたら三年はもうしないのだ。
来年も石垣君と同じかと思うと憂鬱だし、ほっとしている自分が居た。
前に座っている石垣君を見れば笑って首を傾げ、なんだか腹が立ったので頬を掴む。
『ほんまに最悪や!』
頬を掴んでいるのに石垣君は嬉しそうにしていて、その笑みを見て、少しだけ心臓が早くなった。
入学式やらHRを済ませ、本当は行きたくないけど二人と昇降口で分かれ自転車部に行く。
ドアの前でハア、とため息を吐いてノックすれば、ドアが開いて石垣君の友達の井原君が顔を出す。
『……来たで』
「安先輩、御堂筋がほんまに来ました!」
『やかましい』
ドアの前に居る井原君を退かし中に入れば、もう皆揃っていて椅子に座っている。
「おお、待ってたで、よっしゃ、俺の膝座ってええで」
『ウザ』
「ええよ、相変わらずやな、興奮するわ」
『キモイ』
「御堂筋やったか、そこの開いてる席座ってええよ、今日は今後の練習の話だけやから」
『私いらんやん』
「花が必要やろ」
『さいなら』
帰ろうとしたらウソやから座って、というので渋々、石垣君の横に座った。
キャプテンとエースは安浩君がやるらしく、取り合えず今のところは石垣君、辻君、井原君と二年の角田君らしい。
もう一人は今後決めるし、もしかしたらメンバーも変わるかもしれないとのこと。
『その五人はもう決めといてええんやないの、そんで明日から五人は別途で練習メニューした方が効率ええやろ』
「やけど、一年に凄いの入るかもしれんやろ」
『やったらその一年を六人目にすればええ、決めないままインハイメンバーも他も一緒に練習しとるのは時間の無駄や、タイム表あらへの?』
「あるで」
安浩君からタイム表を貰い捲って見れば、やはりその五人が一番早い。
『私はその五人で決めて練習した方がええ思うで、その気持ちで練習するんと出へんのかわからんまま練習するんや気持ちも変わる』
「ほんなら、そないしようか」
『私はそう思うだけや』
「マネージャ−が言うんなら従うで」
『キミがキャプテンやろ』
「そうやな、でも実力は正直言って御堂筋のが上やから、指示に従った方がええ思うてな」
『ほんならそないして、明日から個別にで練習した方がええな』
「練習メニューはどないする?」
『私が明日までに考えてくる、それに従ってもらうで』
ノートをテーブルに置いて安浩君を見る。
『約束通りマネージャ−はしたる、けど、私は私のやり方でやる、不満があるんならその時点で止める』
「ええよ、御堂筋の好きなようにやって」
『やるからには、私は甘い事言わへんし、血反吐はくくらい練習させるで』
「そら楽しみやな」
『あと、キミの事も先輩呼ばへんし、他の三年にも敬意払わんで』
「特別に許したるよ、俺のことは数君言うてくれれば」
『死んでも嫌や』
今日もいけいけやな、とウィンクして来たのでベーっとやった。
「舌長いな、しゃぶってええ?」
安浩君の言葉に横に居る石垣君の腕を掴めば、安先輩、と止めてくれる。
角田君も止めてくれ、安浩君は笑って謝って来たのでふんっと顔をそむけた。
「ほんなら、今後の練習メニューは御堂筋に任せるで」
『ん』
「一応自己紹介しとくか?」
『いらん、適当に覚える』
「じゃあ、皆には言うとくな、今日からマネージャ−してくれる二年の御堂筋や、つんつんしてるけど、根はええ子やと思うから仲ようしてな」
安浩君の言葉に全員で大きな声で返事するのでびくっとなれば、今のかいらしいで、とまたウィンクする。
「とろで下の名前なんやっけ?」
『……アキナやけど』
「ほんなら、アキナな」
『ハア? 名前呼ばへんで、キモイ』
「俺等の仲やろ?」
『…石垣君』
「先輩」
「なんや、光太郎とは仲ようして俺とはしてくれんのか? 差別や、マネージャ−なのに差別や」
『やかましい! キミ明日別途メニュー死ぬほどきついのにしたるからな、話はもうええの? ほんなら私帰るで自分の練習もせなあかんし、明日のメニューも考えるから』
「ええよ」
『ほな、先帰る』
椅子から立ち上がれば石垣君がまた明日な、と言うのでベーっとやって部室を後にした。
家に戻ってから翔とユキちゃんとおばさんでお昼を食べる。
『あ、せや、私明日から帰り遅くなる』
「え? どないしたん?」
『……マネージャ−することになった』
「アキナ姉ちゃんマネージャ−するん!?」
『不本意やけど』
「なんの!?」
『自転車部』
「なんや、また自転車か」
『明らかに興味ないみたいな顔せんで』
「なん、自転車部のマネージャーするん?」
『するん』
死んだ顔で翔を見れば何かを察したのか、ご愁傷様やね、と笑う。
笑い事じゃないし、本当に時間の無駄だが、約束は約束、きっちり守る。
それにマネージャ−するなら、インハイではいい結果残させたいし、メニューも死ぬ気で考えなくてはいけない。
それに加え自分の練習もするから今後の生活はハードになりそうだ。
お昼を食べてから翔と練習に出て、夕方家に戻ってからお風呂に入ってご飯を食べ部屋で練習メニューを考える。
個々にあったメニューを考えノートに書き込んで時間を見れば12時過ぎていた。
時間足りないな、と思いつつも全員分のメニューを書いて、布団に入ったのは二時だった。
翌朝五時に起きて朝の練習に出てからお弁当を作って学校に行く。
教室に入れば石垣君が挨拶して来たので頷いて椅子に座れば、前の席に石垣君が座った。
なのでリュックからノートを出して、石垣君の練習メニューのページを開く。
『今日から石垣君はこのメニューをこなしてもらうで』
「むっちゃびっしり書いてあるな」
『当たり前やろ、オールラウンダーでアシストのキミに合わせて考えて書き込んだメニューや』
「凄いな、見せて」
ノートを石垣君の方に向ければじっと見て、その顔は真剣だった。
昨日ユキちゃんがイケメン居らんの? と聞いて来たから居らんって答えたけど、石垣君って顔はいい方だと思う。
そう言えば夜が石垣君はモテる、言うてたなとじっと見て居れば石垣君は顔を赤くした。
「そ、そないに見られると恥ずかしいで」
『……ハア!? 見てへん!』
アホ、と石垣君の頭を軽く叩けば、笑ってすまん、と謝ってくる。
『馬鹿な事言うてないで、メニューしっかり見ろや』
「見たで、これやればええんやろ、頑張るな」
『死ぬ気でペダル回せ』
「おん!」
石垣君は笑顔で返事し、その顔が無邪気な子供の様に見えて私もつい笑ってしまう。
すると今度は大人びた顔で優しい笑みを浮かべ、少しだけ私の頬に熱が溜まった。
放課後、五人には別途のメニューをやらせ、残りの部員には私が考えたメニューをこなしてもらう。
ボトルを作ってローラーを回す五人を見て、フォームが変な奴には指示を出し、今までどんな練習をしていたかは知らないが、部活が終わる頃には五人を含め皆地面に座り込んで、荒い息を繰り返していた。
『タイムも縮んだな、明日も今日と同じメニューで行くで』
「はあ、こら死ぬな」
『死ぬ気でやらんと勝てへんやろ』
「厳しいね」
『勝ちたいんなら、これくらいのメニュー余裕でこなせるくらい体力つけ』
開いていたタイム表のノートを閉じ、座り込んでる部員を見る。
『今日はここまでにしたる、私は先に帰るで、自分の練習せなあかんからな』
「はいよ、お疲れさん」
『活動日誌は家で書いて明日渡すで』
「任せたで」
『ほな、さいなら』
部室に置いてあるリュックを背負い自転車を持って、手を振る石垣君の横を通り過ぎ、また明日な、と言われたので小さく頷けば、嬉しそうな声で石垣君が気を付けてな、と言った。
家に帰ってから直ぐに着替えをして、外に走り出てから家の中でローラーを回す。
ぼたぼた流れる汗も気にせず回していれば、ストップウォッチが鳴ったので足を止め自転車から降りる。
タオルで汗を拭い自転車を壁にかけ、私も壁に背を預け座った。
今も練習中も何故か気づくと石垣君の事を考えていて、笑った顔とか思い出すと心がぽかぽかするしつい頬が緩んでしまう。
どんなに突き放しても悪態ついても無視しても私に付きまとう、うざい存在なはずなのに暇があれば考えて居る。
それが何でなのか私にはよくわからないけど、多分、少なくとも自分の中で石垣君の存在を受け入れたからだと思う。
そう考えれば納得いくし、それ以外の理由が私には思い当たらなかった。