03
私がマネージャ−を始め二週間、一年も入って来て賑やかになったが、練習が始まればお喋りは消える。
一年生やメンバー以外の部員は終わるころには皆へばっていて、喋る余裕もない程だ。
インハイメンバー五人は他の部員よりきついメニューをやらせているが、だいぶ慣れて来たのかタイムも伸びているし、疲れの度合いが初日に比べて軽くなっていた。
もう一週間同じメニューをこなしてもらい、次からはまた新しく考えよう。
そろそろ最後の一人のメンバーを決めてもいい頃だし、明日は五人以外に外周させて、タイムが早く今後伸びそうな奴を決めてこっちの練習に参加させるか。
部室の中でペンを顎に当てて考えて不意に足元を見れば、少し大きめの蜘蛛が居て悲鳴を上げ持って居たノートとペンを放り投げ、近くにいた石垣君に飛びついて腰に足を回した。
『い、いいい、石垣君、はよはよ、そいつ外に出して!!』
片手を首に回しながら見ないよう蜘蛛を指さす。
『はよ、はよ』
私の言葉に石垣君は蜘蛛に近づくので、近づかんでや! と言えば動きを止める。
『誰でもええからはよして!』
石垣君の首に顔を埋めたまま待っていれば井原君が逃がしたで、と言うので見れば居なくなっていた。
はあ、と息を吐いて前を見れば至近距離に石垣君の顔があって、湯でタコくらい赤くなっていて、それを見た私も釣られて頬に熱が溜まる。
無意識とはいえ石垣君に抱き着いて、至近距離で顔を見て心臓が煩くて、直ぐに離れてそれを隠す様に軽く井原君のお尻を蹴り上げた。
「いたっ! 理不尽や!」
『さっさと外出せや』
「俺のせいちゃうやろ!」
『知らん』
「ほら、御堂筋これノートとペンな」
落としたのを辻君が拾ってくれたようで、受け取って一応周りを確認して居ないのを確かめる。
大丈夫そうなのでノートを開いて、一年生とインハイメンバー以外呼べば私の前に集まった。
『明日、軽く練習した後キミら全員で外周してもらうで、そこでタイムが早くて伸びそうな奴一人決めて、インハイメンバーに加えるで、やから、その覚悟で明日の外周挑むんやで』
私の言葉に大きな声で返事したので、びくっとなる。
『私には大きな声で返事せんでええし、するな吃驚する』
「はい」
一発で学習したのか小さな声で返事したので、頷いて出たいなら明日死ぬ気でペダル回せ、と伝えノートを閉じた。
『ほな、私は帰る』
「おー、お疲れさん」
安君から活動日誌を受け取り、リュックに入れ部室を後にした。
****
翌日三人でお昼を食べて居たら、隣のクラスの女の子が来て顔を真っ赤にして私の前にかいらしい封筒に入った手紙を出してくる。
そして私の耳元で小声で囁く。
「これ、部活の時に石垣君に渡して欲しいんよ」
『ああ、ええよ』
「お願いな」
頷いて手紙を受け取れば女の子は教室を後にして、それを他の手紙が沢山入ったファイルにいれてリュックにしまう。
「今日で何人目や?」
「五人やったかな?」
『七人やで』
「モテるな」
今日だけで石垣君にラブレターを渡してくれ、と七人の女の子に手紙を渡された。
私がマネージャ−をやっている、と女の子の間で広まったようだ。
下駄箱にいれたりとかより、私に頼んだ方が確実だと彼女達は思ったのだろう。
この中から石垣君は誰かとそう言う関係になるのだろうか。
想像してみたら、少しだけ胸が痛くなって、心臓が痛くなる理由もそんな事考えて居る自分が居ることも、いくら考えても今の私には分からなかった。
だから、私は考えることを止めて、残っていたお弁当を食べた。
放課後、昨日言っていた通り五人以外に軽い練習をさせてから、校門の横に集まってもらう。
『昨日言うてた通り、この外周で一人決めるで、死ぬ気でペダル回せ』
小さく返事をしたので、それぞれにボトルを渡し、スタート地点に並ばせストップウォッチを持つ。
『いくで』
合図を出せば皆一斉に走り出し、私は端に寄ってノートを見ながら帰ってくるのを待つ。
今日までの練習と外周のタイムから言って、今回一番に戻って来るのは水田君だろう。
別の練習させれば今後も伸びるだろうし、もし水田君が最初に戻ってきたらそれで決まり。
でも、別の奴が戻って来場合は、そいつを加え、水田君をメンバーから外す。
どうなるかはこの外周で全部決まるし、出たいのなら私が言った練習以外も自主練していればいいだけの事。
ちらっとストップウォッチを見れば、そろそろ戻って来そうな時間だったのでスタート地点に行って待つ。
少し先に見えたのが水田君で、その後ろから山口君が走って来る。
決まりやな、と一歩後ろに下がれば、ゴール手前ぎりぎりで山口君が水田君に並び、そのまま同着で過ぎて行き、私はノートにタイムを書き込む。
その後からも他の奴らが戻って来てタイムを書き込み、全員戻って来たので部室の前に移動する。
ベンチに座っている安君を呼んで部室に入ってタイム表を見せた。
『水田君と山口君が同着やった、二人共練習すればもっと伸びるはずや、インハイメンバーはサブ枠もある、二人をメンバーに加えて、今後の練習で水田君か山口君をサブ枠に入れよう思う』
「そうやな、あの二人はよう頑張っとるし、俺もそれでええ思う」
『ほんならこの二人で決まりや、明日から別途メニューに変える』
「分かった」
『キミから部員に伝えてな』
安君が頷いて部室を出たので後に続いて出れば、休んでいる奴らに声をかけ、直ぐに安君の前に皆集まる。
「言うてた通り残りのメンバーが決まったで、今から名前呼ばれた奴は明日から御堂筋が作った別途のメニューしてもらう」
大声で返事が来ると分かっていたので耳を塞げば、はい、と聞こえた。
「一年、水田」
「は、はい!!」
「もう一人、山口」
「え、あ」
山口君が驚いた顔をしていて、ちらっと私を見るので安君の横に並ぶ。
『ほんまは一人でええ思うたけど、キミ最後の最後で頑張って水田君に並んだ、同着やったし、練習すれば伸びる』
「はい」
『キミ、人一倍努力してたやろ、やから、まあ、頑張ったご褒美や、要らんなら外すで』
「やります! ありがとうざいます!」
「この二人は明日からもっとハードになるから気合入れるんやで!」
「「はい!」」
『今選ばれんかったキミらも練習怠るなや、もしかしたらメンバー入れ替えもあるかもしれん』
ええな、と見れば小さくはい、と言ったので報告と休憩終わりや、と告げればそれぞれ動き出した。
夕方、練習が終わったので使ったボトルを水道で洗ってから部室に戻れば、皆着替え終わっていてお喋りしている。
ボトルを片付けリュックから手紙の入ったファイルを出して石垣君の前に行く。
『石垣君』
「ん?」
『これ、キミに渡して言うて頼まれた』
「全部?」
『せや、七人の女の子から、皆かいらしい子やしええ子やで、ちゃんと読んでな』
石垣君はベンチに座って、一枚の手紙を開いて読む。
他の奴らが見ようとしたので、それは石垣君に書いた奴やからお前等は読むな、と止める。
手紙を読み終えた石垣君は顔を赤くして、顔を隠す。
「ラ、ラブレターやった」
『やろうね』
「ほんま石やんモテるな」
『断るにしても付き合うにしても、ちゃんと返事せえよ』
「分かっとるよ」
「この前も部活前にむっちゃ美人に告白されとったよな、三年生やったんやろ?」
「ああ、そうやね」
「何で断ったんや、美人で胸でかい人やったのに」
井原君の発言に呆れつつベンチに置いてあるリュックを持つ。
「俺好きな子居るんよ、やから断ったんやで」
「え、石やん好きな子居るん!?」
石垣君の言葉に胸が一度だけ痛くなって、でも直ぐに気の迷いだと自分に言い聞かせ、石垣君を見て笑う。
『へえ、キミ好きな子居るんや』
「居るで」
『やったらその子に告白でもしたらええんやないの、キミ、モテるやから、その子もええ返事くれるんやない』
「どうやろうか、その子あんまり俺の事好きやない思うで、よう怒られるしな」
『なんでそないな子好きになったん? アホなん?』
「しゃあないやろ好きになってしもうたん」
『ふうん、どんな子なん?』
「黒髪で長いけどさらさらしとっていつもええ匂いしてて、よう怒っとるけど根はええこで、笑うとむっちゃかいらしい子や」
へえ、と囁けば井原君と辻君が私を見てから石垣君を見て、変な顔をしている。
『なんやの?』
「え、あ、何でもあらへん」
『まあ、ええわ、ほな、帰る』
安君から日誌を貰えば、そっと髪の毛を掴んで来た。
「御堂筋はほんま髪の毛さらさらしてるな、ええ匂いやし」
『ウザキモ、触るなや』
安君の手を叩いてベーっとやって部室を後にした。
翌日のお昼、お弁当を食べながら昨日からずっと考えて居る事を二人に聞いてみた。
『なあ、この学校で黒髪で長くてさらさらしとっていつもええ匂いしとって、よう怒るけど根はええ子で、笑うとむっちゃかいらしい子って誰やと思う?』
「急にどないしたん?」
『いや、気になって』
「その子がどうかしたん?」
『…石垣君の好きな子やって』
誰か心辺りない? と聞けば二人は数秒固まってから、顔を見合わせ再び私を見てくる。
「どうやろ、分からんな」
「難しいな」
『そうやね』
「気になるん?」
『分からん、ただずっと誰なんやろうか考えとる』
二人に、最近は石垣君の事ばっかり考えているし、好きな子がいるって分かった時心臓が痛くなったことも話した。
笑った顔を見ると心がぽかぽかしてつい頬が緩んでしまう事も、全て話し、なんでだと思う? と聞けば二人は何故だか嬉しそうに笑う。
『なんで笑うん?』
「ん? そうやな、アキナがようやっと私らと自転車以外に興味持ってくれたからやろうか」
『興味…持ってるんやろうか、よう分からんのや、今までそないな事思った事ないし感じたこともない、私変なんやろうか?』
「変やないよ、女の子は一度くらい体験することや」
「そうや、ウチも体験したことあるし、変やないよ」
『そうなん? なんでそないな事思うん? どないしたら治るん?』
「んー、難しいな」
『今のところは自転車のタイム遅れたりせんからええけど、今後どうなるか分からんし、怖いんや』
マネージャーを始めてから自分の練習時間も限られてきていて、その中でタイムを落とさないように必死で、正直石垣君の事を考えて居る時間なんてないのに、気づけば頭の中に居る。
今はまだ考えて居てもタイムが落ちたり練習に支障をきたしているわけではないからいいが、今後もしそれが原因でタイムが落ちたりしたら、と思うと不安でもある。
考えてしまう理由が分かれば解決できるのだろうが、今ままで生きて来て、そういう事になったこと無いから、理由が分からず困っている。
『分かるなら教えて欲しいんよ、したら、解決できる思うし』
「うーん」
「そうやな」
『今後インハイ出ることになれば練習ももっと厳しなるし、私もそれに合わせなあかんから、忙しくなる、その前に解決しておきたいんや』
「私はお互いの為にインハイ終わってからがええ思うよ?」
『へ?』
「今はまだタイム遅くなってないんやろ? したら、インハイ終わってから解決すればええと思う」
『やけど、インハイ前に解決せな』
「大丈夫や、解決せんでもきっと支障はでえへんよ」
「寧ろ前に解決する方が大変かもしれんしな」
『そうなん?』
二人が頷いたので、それならインハイ終わった後で解決した方がいいか。
『分かった』
「それまでは今まで通りでええから」
「まあ、またなんかあれば言うてくれれば一緒に考えるから」
『ん、そないして』
お礼を伝えれば二人は、今後もなんでも相談するんやで、と笑ってくれ、私も二人に笑いかけ頷いて、お弁当を食べた。
**********
二人に言われた通り今まで通り石垣君と接して、頭の中に浮かぶが特に自分のタイムとかに響かないまま時が流れる。
インハイ出場をかけたレース、今回は角田君はお休みで安君、石垣君、井原君、山口君、水田君で出た。
途中で安君の自転車がパンクしてしまい、遅れを取った安君を水田君と山口君が引いて先頭集団まで戻り、最後、石垣君と井原君のアシストで安君が一位になり、インハイ出場が決まった。
部室で全員でその報告をすれば皆大声をあげて喜び、びくっとなってしまう。
『喜んどるとこ悪いけど、それが当たり前やからね』
「相変わらず厳しいな」
『何のために君らは今日まで努力したん? インハイに出るためやろ?』
「そうやな」
『やったら、あのレースは勝って当たり前やし、そうなるようにメニューやって組んだんや』
「感謝してるで」
『感謝はいらん、やけど、そうやね頑張った六人と角田君には私からプレゼントがあるんよ』
そう言ってリュックを開ければ皆で驚いた顔をしていたので、笑いかける。
『喜んでくれるとええな、一生懸命作って来たんや』
リュックからノートを取り出し開いて見せた。
『明日からのインハイ向けての今までの五倍キツイ練習メニューやで』
安君の真似をしてウィンクすれば、七人は頭を抱えて座り込んだ。
「うあぁああ、ちょっとお菓子作ってきてくれたんやって期待した!」
「俺等が間違ってたわ!」
『え、嬉しない?』
態とショックを受けた顔をすれば安君達は嬉しいです! と悔しそうな顔で言う。
『プクク、そうやろ? ほな、明日から頑張ってな』
「なあ、一回でええ、一回でええから、何か飴くれや、いつもムチはいくら俺でもきついで」
安君の言葉に数秒悩んで、部室の片隅に隠してあるエロ本を取り出して開く。
その中からドッグイヤーがついてるページを見て、同じポーズをして少しスカートを捲った。
『皆頑張ってな』
「「うあぁああ、ありがとうございます!!!」」
安君と井原君は泣きながら喜んでいて、石垣君は顔を真っ赤にしている。
角田君と山口君、辻君は視線をそらして水田君はそんな皆をきょろきょろ見て驚いていた。
『これで満足やろ』
「ありがとうございます」
『あほらしい』
雑誌を元の場所に戻せば安君達は立ち上がり涙を拭う。
「よっしゃ、本題に入るで」
『本題?』
「そうや、今日はな体育祭に向けての話合いや」
そうかもう体育祭の時期か、と各々ベンチに座ったりして椅子が埋まった。
仕方ないのでベンチに座っている石垣君の膝に座れば、安君は気にすることなく話を始める。
「去年もそうやけど、今年も部活対抗のリレーがあるで、人借り競争や、出たい奴おる?」
誰も手を上げず安君は俺も出たない、と嫌そうな顔をした。
去年、私は体育祭を休んだので、そこで何があったのか分からないが皆で絶望した顔をしている。
『なんでそんな顔してるん?』
「あ、そうや、御堂筋は去年居らんかったな」
『休んだからな』
「人借り競争はな、地獄の競技やねん」
『へえ』
「お題の内容がえぐい」
『例えば?』
「好きな子とか、彼氏彼女、とか校長お姫様抱っこで校庭一周とか」
『うわ』
「その変わりやないけど、優勝した部には部費が五万出るんよ」
へえ、と囁きながらちらっと後ろの石垣君を見れば、真っ赤な顔したまま私の背中を見つめていた。
重いのかな、と立ち上がろうとしたら、お腹に腕を回されたので今度は私が固まる。
二人で顔を赤くしていれば、クジで決めよう、という話になっていた。
「マネージャーも参加できるんやけど」
『悪いけど、私今年も体育祭は出えへんよ』
「また休むんか?」
『そうや』
「なんでや!?」
先ほどまで顔を赤くしていた石垣君が声をかけて来たので、前を向いたまま答える。
『なんでもや』
「去年は風邪引いたきいたで」
『ほんなら今年もその日に風邪ひく』
「一緒に体育祭やろうや」
『無理や』
「なんでや」
『…小学五年生から運動会でとらん、ずっと休んでる、先生にも言うてあるし、私は出えへんよ』
自転車以外の運動は全くできない。
バスケもサッカーもリレーも全部下手くそで、自分でもそれは自覚している。
四年生までは運動会に参加していたが、五年生の運動会の練習の後に男子に言われた、お前が居ると遅くなる、と。
その頃の私は引っ込み思案で言い返すこともできず、男子全員に責められそれが怖くて泣いて、それ以来運動会は休んでいる。
今は言い返すことも出来るが、面倒事になりたくないし、少しトラウマになっているから、出れない。
「なんでや?」
『なんでもや』
「そういえば御堂筋は体育祭の練習も端っこで休んどったもんな」
『キモ、何見てるん』
「キモイ言うな」
「どっか悪いんか?」
『そうやない、ずる休みや、石垣君には関係ない事や』
「やけど、心配やし、俺は御堂筋と一緒に出たい思うてる」
そう言いながら石垣君は私のお腹に回す腕に少し力を入れ、ほんまに一緒に出たいで、と囁く。
ここが部室で皆居るのを忘れているようで、石垣君は我の世界に入っている。
『キミ、ここ部室やで』
呆れた顔で石垣君を見れば、ばっと私から手を離したので立ち上がって頭を叩いた。
『私は出たないから出えへん、諦めてや』
「嫌や」
『安君、この我儘どないかして』
「まあ、出たない理由言えば光太郎も納得するんやない?」
『言いたない』
「光太郎、あれや生理と重なるんや」
安君の言葉に近くにあった誰かの荷物を持ち上げれば、冗談や、と手を上げたのでそっと置く。
「先生はええ言うてるんか?」
『言うてる、進路にも響かんようしてくれとるし』
「ほんなら、何かしら事情があるんやろ、光太郎、残念やけど諦めろ、御堂筋にも言えへん事情があるんや」
「……はい」
『角田君、今めっちゃ男らしかったで』
「いつもは違うんか」
『ちゃうな』
残念やな、と角田君が笑って、結局借り人競争はクジで石垣君になった。
********
体育祭当日、五時に起きて朝練に出てお風呂に入ってリビングでお茶を飲んでいれば、おばさんが玄関から名前を呼んだ。
返事して部屋着のまま玄関に行けば、そこには笑顔の石垣君が居て固まる。
「迎え来たで!」
『……ハア!?』
「今日体育祭やろ、やから迎え来たで」
にっと笑う石垣君に意味が分からずぽかんとしていれば、最悪な事にユキちゃんと翔が来て私の横に立つ。
「うあぁああ、イケメンや!!」
「誰や?」
「御堂筋と同じクラスの石垣光太郎や」
顔を隠せば石垣君は気にしてないようで、母ちゃんに言うて弁当も二個作って来てもろうた、とどうでもいい事を言う。
ため息を吐いて顔から手を退かして笑顔の石垣君を見る。
『あんな、石垣君、私言うたよね出ないって』
「おん、やからこうして迎え来たで」
『え、私変な日本語言うてる?』
翔を見れば首を横に振るので、石垣君がおかしいのは確かだ。
「俺は御堂筋と体育祭出た」
「うあぁああ、姉ちゃん行って来たらええやん」
「折角迎え来てくれたんやし」
おばさんとユキちゃんがにやにやしていて、最悪や、と囁く。
『まずなんで家分かったん』
「……部員の名簿みて」
『それ犯罪や!!!』
「す、すまん」
『帰れや!!!』
「いやや! 御堂筋が行くまで俺はここから動かん」
『ほんならそこに一生いろ!』
ドアを閉めリビングに戻って、コップに入っているお茶を飲み干す。
朝ごはんでも作ろうと冷蔵庫を開ければ、足音がしたのでおばさんだと思い振り返る。
『朝ごは……なんで中入ってるんや!!』
リビングの入り口に立って居たのは石垣君で冷蔵庫を閉めて、腕を引いておばさんと翔とユキちゃんの横を通り過ぎて玄関に連れて行く。
『学校行け』
「……」
『聞いてるん?』
「分かった」
石垣君は笑顔で頷くと後ろの方に居るおばさん達に頭を下げる。
急に素直になったな、と思えば失礼します、と言った後私を肩に担ぎ上げた。
『ハ!? な、何してんのや!!』
「このまま連れて行くな」
『離せや!!』
「お邪魔しました」
石垣君は靴を履き替えて玄関を開け翔が、その服で行くん? と私の服を指さす。
今私は部屋着で、しかも完全に油断していたのでププキュアという子供向けアニメの服で石垣君の背中を叩く。
『着替える、着替えるから離してや』
石垣君は私を地面に下ろしたのでお尻を蹴り上げ、離れの部屋に戻った。
このまま部屋に籠ってやろうかと思ったらドアの外から石垣君の声がしたので、よくわからない言葉を発して着替える。
体育着に着替えてリュックにタオルを詰め込んでリュックを背負い、グローブとヘルメットを持ってドアを開けた。
「行くで!」
『大嫌いや!』
石垣君にそう伝え自転車を持って離れを出ればおばさんが水筒を持って来て、リュックに入れてくれる。
「ほんまに無理そうなら帰って来てええから、今日はアキナちゃんの好きな唐揚げとハンバーグにしたるからな」
『……』
「な? 大丈夫やで、きっと石垣君が守ってくれるから」
『行ってきます』
「行ってらっしゃい」
自転車に跨れば石垣君も自転車に跨って横に並ぶ。
振り返っておばさんと玄関に居るユキちゃんと翔に手を振って、石垣君と走り出した。
無言のまま走っていれば、石垣君が横に来たのでべーっとやれば、今更自分の行動を反省したのか謝ってくる。
「ごめんな」
『謝るなら最初からするなや』
「そうやな、けど、俺はほんまに御堂筋と」
『キミ、好きな子居るんやろ、その子の事考えたらええんやないの』
「考えてとるで」
『やったら、二度とこないな事せんで、迷惑や』
「すまん」
『それと家にもこんで、今日見たのは誰にも言うなや』
「…言わへんよ」
『キミがそのおつむで理解したか知らんけど、同情もいらんし、何も聞くな』
「聞かんし同情もせえへんよ」
『……なら今日のは許したる』
そう言うと石垣君は嬉しそうに笑いお礼を伝えて来た。