04




学校についた時にはもう準備体操が行われていて、それが終わって皆が席に戻ったのでクラスの場所に行けば朝日と夜の間に私の椅子が置いてあった。
リュックを下ろし二人の間に座ればおはようさん、と笑いかけてくれたのでおはようさん、と伝えムスっとしながら腕を組む。
石垣君は先生に送れました、と言いに行き、自分の椅子に座って振り返って私が居るのか確認して満足そうに前を向いた。
先生が私に気づいて近寄って来てしゃがんで私を見上げる。


「御堂筋も来たんやな」

『お節介に捕まっただけです』

「?」

『あそこの馬鹿が家に来て拉致られました』


石垣君を指させば振り向いて、すまん、と頭を下げて来た。


「お前、それで遅れたんか?」

「す、すいません」

「まあ、遅刻はあかんけど、許したる、御堂筋ほんまに無理そうやったら言うてな」

『はい』

「どないする、何か競技でるか? 借り人とかどうやろうか?」

『……それなら出ます』

「ほな、ウチ借り人出てるから、ウチの代わりに出てや」

『そないするね』

「分かった、これしおりな」


先生から体育祭のしおりを受け取ってお礼をすれば、立ち上がって教員席に戻った。
しおりを開いてみれば、借り人は次の次で、もう待機場に集まらなきゃいけない。
行って来るな、と二人に伝え待機場に行って一番最初にやる二人三脚を眺めた。
本当は出たくないけど、ここまできたのだから一個くらい出ておいてもいいだろう。
それに、少しでいいから石垣君から離れた場所に行きたかった。
家に石垣君が来て話てから心臓が煩くて煩くて仕方ない。
いい迷惑なのに、本当にうざったいのに、それなのに嬉しく思ってる自分が居てもうよくわからない。
二人はインハイ終わった後でいいと言って居たが、そうそうに解決し方がいいんじゃないか、と思ってしまうほど、頭の中は石垣君でいっぱいだった。


二人三脚が終わって、次は借り人競争でコースに出て位置に着く。
ピストルの合図が鳴って皆凄い速さで走って行く中、最後にお題の紙が入っている箱に手を突っ込む。
ビリだろうな、と思って居たが、先に出た子達はお題の紙を広げ頭を抱えていて、誰一人走り出そうとしない。
私もお題の紙を広げればそこには、頼りにしている異性をお姫様抱っこするかしてもらい校庭一周、と書いてあった。

何で異性限定なのだろう、同性じゃダメなのか、そう言えば安君が借り人競争ってお題内容がえぐいって言ってたな、と思い出す。
紙を持ったまま固まっていれば石垣君の声がした。


「御堂筋ー! ファイトや」


紙と石垣君を交互に見てから私は石垣君の傍に走って行く。
そして腕を掴んでコースに引っ張って抱き上げようと思ったが、重くて持ち上がらない。


『んんんん』

「み、御堂筋、無理やで」

『はあ、はあ』

「お題なんやったの?」

『教えへん!』


何て言っていれば別のクラスの女の子が、彼氏と思われる人にお姫様抱っこされ走り出す。
あ、あ、と声を漏らせば石垣君が私の目を見てくる。


「取り合えず、どうすればええんや?」

『お姫様抱っこで校庭一周や』

「よっしゃ!」


石垣君が動いて私をお姫様抱っこして、そのまま猛スピードで校庭を走る。
私を抱き上げて居るのに先を走っていた男子に並んだ。
石やん頑張れ、と応援の声が聞こえる中、ゴールテープを切って石垣君ともう一人の男子が同時に声を上げた。


「「俺が一番や!」」


ゴール横の審判が判定するのだが、心配は一位は、と言って指をさしたのは石垣君だった。


「っやぁあぁあ!」


私を抱き上げたまま石垣君は大きな声を上げ、びくっ、とすればすまん、と笑う。
地面に下ろしてもらい、審判にお題の紙を見せる。
審判が内容を見て合否を発表するのかと思って居た、お題内容までは言わないと思って居たが。


「頼りにしている異性をお姫様抱っこするかしてもらい校庭一周、合格です」


審判がお題内容を発表して、後ろに居る石垣君を見れば、顔を真っ赤にしながらも嬉しそうに笑っていた。


「むっちゃ嬉しいな」

『た、たまたまキミが声かけてきたからやで』

「声かけて正解やったな」

『ウザ』


二位だった子のお題も発表され、世界一好きな人にお姫様抱っこしてもらい校庭一周、という凄い内容。
私だったら間違いなく棄権している内容だが、二人は気にしてないようだ。


「すまん、二位やった」

「やけど、私の中では一位やで」

「照れるな」


凄いやり取りにぽかん顔で石垣君を見れば、苦笑いする。


「ま、まあ、仲ええんやな、ほら、一位のとこ行き」


頷いて一位の旗の下に座れば二位の子が横に座り、石垣君と彼氏はそれぞれ自分のクラスに戻った。
競技は六人で行われたのだが、ゴールしたのは私を含め三人で残りの三人の子は棄権していた。
多分、私のお題内容はまだましな方だったのだろうな、と思いつつ競技が終わったので席に戻り座る。


「おめでとうやで」

「よう頑張ったな」

『頑張ったんは石垣君やけどね』

「正直、濡れたわ、パンツぐしょぐしょ」

『濡れんでな、パンツ変えておいで』

「このままおるな」

「誰も得しない情報やな」


彼氏は得なんやろうね、と笑いかけ、私はクラスの子が頑張るのを見ていた。
そして、午前の部の最後、部活対抗の仮人競争で石垣君が出る。
部活対抗だけは二回行われるらしく、それぞれの部活の人達が応援していた。


「石垣君出るんやね」

『クジで決まったんよ』

「まあ、足早いし、ええんやない」

『内容がえげつないらしいけどな』

「ああ、そうやね」


なんて言っていればスタートの合図がかかって石垣君が走り出す。
お題を引いて、皆うあぁああ、と声を上げ頭を抱える中石垣君は走り出した。
石垣君は迷うことなく三年の場所に行って、安君がコースに出て二人で手を繋いで、何か言いながら校庭一周していた。
聞こえて来たのはなんで男同士で手繋がなあかんのや、可愛い子にチェンジしてや、と言って居たような気がする。
ゴールした石垣君は再びお題箱からお題の紙を出し、今度はこっちに走って来た。
そして紐の前まで来て御堂筋、と手招きするので椅子から立ち上がり紐を越えてコースに出る。


「もう一回抱っこするで」

『え、嫌や』

「我慢や!」


石垣君は私をまたお姫様抱っこして走り出す。
心臓が煩くなって、顔が熱くなって見られたくないので顔を隠した。
石垣君はそのまま一位でゴールして、審判にお題の二枚の紙を渡す。


「まず、尊敬できる先輩と手を繋いで校庭一周、合格です」

『ああ、だから安君』

「死ぬほど恥ずかしかったけどな」

「二回目が」


どうせ、くだらん内容なのだろうな、と思いつつ発表される。


「守ってあげたい異性をお姫様抱っこして校庭一周、合格です」


石垣君を見れば頬を赤くしながらも真剣な目で私の両手を握って来た。


「俺が御堂筋を守ったる、絶対に、やから」

『……』

「やから一緒にクラス対抗リレーも出て欲しい」

『……い、嫌や』

「絶対守るし、俺が一位取ったるから、俺が御堂筋からバトンもろうて、必ず一位取る、やからお願いや」


あまりにも真剣な目で頼む、と言うので嫌だ、と言えない。
本当は出たくない、私のせいでビリになって後々うだうだ言われるのは面倒だ。
でも、石垣君が守ってくれて、一位になると言うなら、その言葉を信じたい。


『…絶対一位取るん? 私の事守れるん?』

「絶対一位取ったるし、守ったる」

『やったら……出てもええよ』

「ほ、ほんま?」


一回頷けば石垣君は嬉しそうに笑うので、釣られて私も笑ってしまう。
石垣君の指をぎゅっと握れば、審判がいちゃついてないで一位の場所に移動してください、と言うのでやかましい、と怒鳴りつけた。


「優勝は自転車部です、おめでとうございます」


審判の言葉に安君達が走って来て、そのまま石垣君事抱きしめられる。


「光太郎ようやったで!」

「偉いぞ光太郎!」

「流石や石やん!」


わーわー、と騒いでいて、石垣君にくっついてもみくちゃにされた。
数秒もみくちゃにされ皆離れ、私も石垣君から離れる。


『さ、最悪や』


ぐちゃぐちゃになった体育着を手で治し、髪の毛も手櫛で整えた。

部の代表として安君が校長から五万貰っていて、自分の席で一応拍手しておく。
午前の部は今ので終わったので休憩時間になり、それぞれ動き出し、私はリュックから水筒を取り出す。


「移動面倒やし、ここでええ?」

「ええよ」

『ええよ』


お茶を飲んでいれば石垣君が来てこれ、御堂筋に弁当、と袋を渡して来た。
袋を開ければ、おにぎり二個とまさかの初代のププキュアのお弁当箱で固まる。


「うわ、すまん、それ昔妹がつこうてた奴や」

『……』

「お、俺のと変えたるな」

『これでええ、これがええ』

「ええんか?」


何度も頷けば二人が石垣君を見上げた。


「アキナな、ププキュア好きなんやで」

「内緒やで」

「あ、そう言えば服もそうやったな」

「初代から今期のまで全部見てるんやで」

「良かったな、お弁当箱かわええな」

『かわええ』

「良かったら、もう使ってへんし、あげるで」

『ええの!?』

「ええよ」

『あ、ありがとう』


素直にお礼を伝えれば石垣君はにっ、と笑い、行くな、と手を上げたので手を振った。
お弁当箱を開ければ、唐揚げと卵焼きとハンバーグが入っていて、私の好きなおかずだ。


「全部アキナの好きなおかずやね」

「愛やな」

『愛?』

「あ、なんでもあらへん、食べよ食べよ」


そうやね、とおにぎりのラップを外し、いただきます、と囁いてお弁当を食べた。
家によって味は違うけど、私好みの味で美味しい。
無理矢理だったけど、こうして連れて来てもらい、お弁当も貰ったから今度何かお礼をしよう。
石垣君が何好きか知らないけど、何か作って渡せば喜んでくれるだろうか。
いや、石垣君の事だから例え嫌いな食べ物渡してもきっと嬉しそうに笑って、むっちゃ嬉しい、と言ってくれる。
後で好きな物でも聞いて作って渡そう、と思い、お弁当を食べた。


*******


午後の部、クラス対抗リレーで、私はアンカーの石垣君の前を走る。
定位置に座って皆が走って行くのを見て、朝日と夜の時は応援した。
現時点では私のクラスは一位で、皆頑張って差を開いている。
前の子が走り出し、先生に呼ばれコースに出て待つ。
私にバトンを渡す男子が一位で走って来て、ゾーンの一番前でバトンを受け取って走り出す。
自分の中で限界の速さで走っているが、小学生からタイムは変わっておらず、一位だったのに最下位まで下がった。
ああ、出なきゃよかったな、と遠ざかる背中を見て走っていれば石垣君の声がした。


「御堂筋、俺が絶対一位なったるから、ここまでは頑張るんや!」


その言葉に真剣な目に私は必死に走って石垣君にバトンを渡す。


「よっしゃ、御堂筋見といてな!」


石垣君は凄い速さで走り出し、私のせいで離れた距離を埋めて行く。
アンカーは一周で、石垣君はどんどん人を抜かし、最後借り物競争と同じように一位の人と並んだ。
遠くから走って来る石垣君、私は自分の手を握りしめて大きな声を出した。


『頑張れ石垣君!』


石垣君は一瞬私の方を見て笑うとそのまま横に並んでいる人を抜かし、一位でゴールした。
皆石垣君のとこに走って行き、夜と朝日が両脇に来る。


「よう頑張ったな」

「お疲れさんやで」


二人の言葉と石垣君が本当に一位になった事、六年ぶりに体育祭に参加してクラス対抗リレーで走れたこと。
全てが嬉しくて、石垣君が凄く格好よく見えて、色々堪えきれず初めて朝日と夜以外の前で泣いた。


『うあぁああん』


声を上げて泣けば騒がしかったのに静かになって、目の前に誰か来る。


「ど、どないしたん御堂筋」

『い、いじがきぐんっ…ほっほんまに、い、一位なった』

「約束したやろ? 守ったるし、一位なるって」

『ろ、六年ぶりにっ…たっ体育祭でたっ…はしったんもっ…ひ、ひさしぶりでっ』

「うん」

『わ、私のせいでっ、また最下位なるおもうたっ…い、いじがきくんがっやぐっ、約束まもってくれたっ』

「御堂筋とした約束なら死んでも守るで、これからも絶対や、やから、困ったことやヤな事あったら俺に言うて」


頷けば石垣君は親指でそっと涙を拭ってくれた。


「御堂筋は俺が必ず守ったるから」

『ん』

「やから、笑って欲しいんや」


その言葉に自分で涙を拭い、にっ、と石垣君に笑いかければ、石垣君も笑う。


「俺な御堂筋の笑ってる顔むっちゃ好き」

『変やね石垣君』

「そうやろうか?」

『うん、変や』

「じゃあ、変なんやろうな」


二人で笑い合ってから席に戻り、残りの競技を二人の間で眺めた。

石垣君や朝日、他の人達の頑張りで私のクラスが全学年で優勝した。
代表して体育員の人が表彰状を貰っていて拍手する。
六年ぶりの体育祭は、楽しい思い出で終わった。


********


朝日と夜が石垣君に私が体育祭に出ない理由を話したらしい。
それを聞いた石垣君は、俺が当日私を連れて行く、と二人に約束して、本当に私が来たのには驚いたし嬉しかったそうだ。
二人も私と体育祭をしたかったけど、理由を知っているから言い出せなくて、石垣君になら任せても平気だと思ったらしい。


「まあ、結果正解やったね」

「なあ」

『無理矢理やったけどね』


体育祭の振り替え休日を終えた火曜、お昼を食べながらその話を聞いた。


「でも、来てよかったやろ?」

『……まあ、そうやね』

「ウチも楽しかったしな」

「なあ」

『私も、楽しかった』


体育祭の日に貰ったププキュアのお弁当箱を閉じて袋にしまえば、クラスの女の子が来る。
凄く楽しそうな顔で、こそこそ話して来たので耳を傾けた。


「アキナちゃん、石垣君と付き合うてるんでしょ?」

『……ん?』

「皆噂しとるで」

『私が石垣君と?』

「そうや、体育祭で皆そう思ったみたいやで」

『……私、石垣君とはそいう関係やないよ?』


そう言って女の子達を見れば驚いた顔をする。
逆にこっちがそんな噂がたってる事に驚いている。
なんで、私と石垣君が付き合っているなんて、そんな変な噂が流れたのか不思議でしょうがない。


『石垣君は好きな子居る言うてたし』

「え、え?」

『黒髪で長くてさらさらで、よう怒っとるけど根はええこで、笑った顔がかわええ子らしいで』

「それって」


女の子達が見て来たから首を傾げれば、朝日と夜が止めて来た。


「アキナは石垣君と付き合うてないで」

「そこまでな、後は二人の問題やから」


二人の言葉に女の子達はそうやな、ごめんな、と謝って行ってしまう。


『なんでそないな噂流れるんやろうね』

「皆コイバナが好きなんやで」

『へえ』

「気にせんでええよ」

『そうやね』


返事してお弁当をリュックにしまった。

夕方、皆座り込んで荒い息を繰り返す中、私はノートを書き込む。


『だいぶこの練習メニューに慣れて来たな』

「はあ、はあ、これ見てそれ言う?」

『一週間前よりは落ち着いてるで』

「鬼や」

『勝ちたいんやろ? 明日までに新しいメニュー考える、今日は終わりや』


そう声をかけ使ったボトルを水道で洗い、それを持って部室に戻る。
定位置に片付け、ベンチに座って下敷きで顔を仰いでいる石垣君を見た。


「どないしたん?」

『キミ、はよ好きな子に告白した方がええんやない?』

「……へ?」

『なんや、ようわからんけど、キミが私と付き合うとるって噂流れてるらしいで』

「あ、ああ」

『やから、好きな子に誤解される前に告白したほうがええんやない』

「今はインハイ前やし、終わってからでも遅ない思うとるから」

『その頃には誤解されとるやない? 私も今日女の子に聞かれたから違う言うたけど、噂なんてあっという間に広まるで』

「ええよ」

『まあ、キミが決めることやしな、ほな、私帰る』

「おん、また明日な」

『ん……忘れとった、石垣君、何好き?』

「え?」

『食べ物』

「春巻き」

『ん、ほな、さいなら』


部室を出て赤色に染まる道路を走って途中でスーパーに寄ってから家に戻る。
夕飯を食べてから、一人キッチンで春巻きを作ってタッパーにそれを詰める。


「それ弁当のおかずなん?」


背後に翔が立って指さすので、ちゃうよ、と蓋を閉めた。


『上げるやつや』

「あの煩い奴?」

『そうや』

「……へえ」

『食べたいんなら一個あげるで』

「別にいらん」

『そ、ほんなら食べんでな、明日持って行くから』

「ん」


一応タッパーに食べないで、と張り紙をして冷蔵庫に入れる。
使ったフライパンやらを洗っている間も翔は後ろに立ったままでどないしたん? と声をかけた。


「……」

『なん?』

「付き合うてるん?」

『ハア?』

「付き合うないんやな」

『なんでそうなるん? 今日学校でも言われたわ、意味が分からん』

「…そのなんやっけ?」

『石垣君』

「石垣君はアキナの事好きなんやないの」

『……は?』


洗い物する手を止め翔を見上げれば首を傾げる。


「やからわざわざ家まで来たんやろ?」

『いや、ちゃうよ、石垣君正義感強いから、放っとけんかったんやろ』

「そうやろうか」

『そうや、それにな石垣君は好きな子居るんやで、髪の毛長くてさらさらで、ええ匂いして、よう怒っとるけど根はええこで、笑った顔がかわええ子やって』

「……」

『朝日と夜に聞いたけど二人も分からんって言うんや、それにな』


翔にもずっと石垣君の事考えてるし、笑った顔思い出すとぽかぽかするんや、と教えてあげた。
体育祭では守ってくれると言って、一位になる約束をしたら本当に一位で、初めて体育祭で楽しいと思った事。
全部翔に話せば、凄い呆れた顔をして私を見ている。


「ボクが言うんもあれやけど、もう少し自転車以外の事も興味持った方がええよ」

『絶対に翔に言われたない』

「ボクのがまだ自転車以外にも興味持ってるで」

『花おるもんな』

「そうや」

『私には居らんし、興味ないで』

「興味ないわけやない、気づい取らんだけや」

『なにが?』

「それは自分で気づかんと意味ないんやろ、やから二人も言うてないんやろうから、ボクから言う事やない」

『なんやそれ』

「自分の気持ちに素直になれ、言う事や」


意味分からん、と翔を見れば分かるまで考え、とリビングを出て行った。
変な奴、と途中だった洗い物をして部屋に戻り練習メニューを考えてから布団に入った。


翌日、朝練を終えて部室から出て来た石垣君に昨日作った春巻きを渡す。


『あげる』

「え? なんやろう」


袋からタッパーを出し中を見た石垣君は驚いた顔をした。


『不本意やけど体育祭のお礼とププキュアのお弁当箱のお礼や、いらんなら捨てて』

「……」


石垣君は私が想像した通り嬉しそうに笑う。


「むっちゃ嬉しい」


同じ言葉も言って、それがおかしくて、でも嬉しくて私も笑った。