06
安君達三年生が引退した日に私もマネージャーを辞めた。
そこからは私は自分の練習に精を出し、新キャプテンになった石垣君は部活を頑張って居るようだ。
あの日自分の気持ちに気づいたが、特に自分から何か起こすわけでもなく、朝日と夜に報告だけして終わった。
そして二年生の夏休みが終わり、新学期、教室で朝日達と話しをする。
夏休み二人がどう過ごしたか、とかおばあちゃん家に行ったからお土産をもらったり。
インハイで広島に行ったので、そこで買ったお土産を二人に渡した。
「あ、そや、今年も稲荷神社でお祭りあるやろ?」
『ああ、そう言えばユキちゃんが言うてたね』
毎年、朝日と夜と言ってる花火大会のお祭り。
どうやら今年は二人共彼氏と行くようで、ごめん、と謝られる。
『ええよええよ、楽しんでくるんやで』
「アキナも誰かと行ったらええんやない?」
『いや、ええわ』
二人が行かないならどうしても行きたいわけじゃないし、人込みは鬱陶しいから行かない。
誘う相手も居ないし、翔に言ってあんず飴と人形焼きだけ買って来てもらえればいい。
なんて思って居れば、石垣君が教室に入って来て、二人が石垣君を呼ぶ。
「どないした?」
「あんな、今週の土曜日稲荷神社でお祭りあるやろ?」
「ああ、花火大会の」
「それやそれ、毎年私らアキナと行ってるんやけど、今年は彼氏と行くんよ」
「やから、アキナ一人になってしまうんやけど」
二人の言葉に石垣君は笑って頷く。
「俺が御堂筋と一緒に行くから平気やで」
「そら安心やな」
「なあ」
『いや、私行かへん言うたし、石垣君そういうんは好きな子と一緒に行った方がええよ』
ねえ、と二人を見れば、そうやな、と笑って頷いて私を指さす。
「やからアキナと行くんやで」
「やでー」
首を傾げれば石垣君は顔を赤くしたまま兎に角、今週の土曜は俺と祭り行こうな、と言って来る。
予定もないし、石垣君がそう言うなら行くか、と頷けば約束な、と小指を出すので自分の小指を絡めた。
『約束な』
「待ち合わせの時間と場所は後で連絡するな」
『んー』
石垣君は笑ってその場を後にしたので、二人を見れば凄い顔で笑っていた。
「ええよええよ」
「そうやって触れ合うのも大事やで」
「アピールして行かなあかんよ」
『いや、石垣君好きな子居るし』
「だから何や、関係あらへん、アタックしてアタックして自分を好きにさせればええんや」
「そうやで」
『……その考えは無かったな』
確かに石垣君がその子を好きなだけで付き合ってるわけじゃないし、なんなら嫌われてるかもしれない、と言っていた。
それなら、私が頑張ればもしかしたら、私を好きになってくれる可能性がある。
『頑張ってみるわ』
「それがええね」
だが、私はそういうアピールというのが分からない。
なので、学校が終わって直ぐ、近場にある本屋に向かった。
そこでユキちゃんがよく立ち寄る少女漫画のコーナーの前に立って、沢山ある中から良さそうなのを探す。
どれがいいんだろう、と色々見て居れば背後に気配を感じ振り返れば、学校帰りの翔と花が居た。
「何してるん?」
『勉強しようかと』
「ハア?」
『なんでもええやろ、さっさと帰り、私は今この中から良さそうなん探してるんやから』
「これ、これ、おススメ」
花が何冊か取って私に見せて来るので、それを受け取る。
「他にもあるけど、それ短編で続き物じゃないからおススメ、続き物ならこっちがあるけど」
『いや、これでええ』
「他には? まだあるよ」
『取りえずこれでええよ、ありがとな』
「うん、何か見たかったら言って」
そないするね、と伝えおススメ、と渡された漫画を買って家に戻った。
お昼を食べてから自室でその漫画を読んだが、どれもこれも私には到底できそうにないモノだ。
初っ端から告白してるのもあればもう既に付き合ってる話だったり、凄い優しい女の子の恋愛ものだったり、私には向いていない。
はあ、とため息を吐いて最後の漫画を読み終えた。
いくつか頑張れば実践できそうなのはあったが、それがアピールになるのか分からないし、恋愛って難しいな、と思う。
私も翔も自転車馬鹿だが、多分翔の方が私より恋愛には詳しい。
小学校の頃から花と居て、結婚する約束までしてるし、家に遊びに来ればいちゃいちゃしてるし、死ぬほど悔しいが翔に聞くしかないか。
立ち上がって翔の部屋に入れば、花とお喋りしていたのでそっと二人の間に座る。
「なん?」
『聞きたいことあるんやけど』
「どうしたの?」
『……好きな人にアピールってどうすればええ?』
「……アキナちゃん好きな人居るの?」
『お、居らんけど参考までにや』
「なんだ、残念」
「…いや、どう考えても、あのなんやっけ?」
『い、石垣君のことやろうか』
「それや、その石垣君好きなんやろ」
翔の言葉に顔が熱くなったので隠せば花がそうなの? と聞いて来るので一度だけ頷いた。
「あの夏休み中に来た人?」
「そうや」
「成程、えっと、アピールっていうのは、その人」
『好きな子が居るんやって』
特徴を伝えれば花は翔を見て、翔が首を振って何か納得した様子だ。
「分かった、じゃあ、そうだな、今週の土曜日お祭りあるから誘ってみるのは?」
『一緒に行く約束した』
「……翔、もう言っていい?」
「駄目や」
『なん?』
「なんでもないよ、じゃあ、えっとそこで手繋いだりはどうかな? はぐれないようにとか言えば大丈夫だろうし」
『私と手繋ぐの嫌やないかな?』
「一緒にお祭り行く時点で嫌じゃないと思うけどな」
『そ、そうやろうか、ほんなら頑張ってみるな』
「それかもう告白しちゃうとか」
花の言葉に無理や、と囁き体育座りして膝に額を乗せる。
今はまだ話せているけど、告白なんかしたら今の関係が壊れてしまう。
それは嫌だ、私はまだ石垣君と話したいし、笑った顔とか見て居たい。
例え他に好きな子が居たとしても、その子と付き合うまでは今の関係を壊したくないのだ。
「花火上がってる時に言って、好きな子居るって言われたら凄い我慢して花火が好きなんだよ、とか言って誤魔化せば」
『死んでしまう』
「アキナには無理やで」
「翔、アキナちゃんの学校行ってどうにかしてきてよ」
「いやや、何でボクがそないな事せなあかんのや」
「弟でしょ」
「嫌や、自分でせなあかんやろ」
「昔はよく庇ってもらってたくせに」
「……」
『ええよ、自分でなんとかする、アドバイスありがとうな』
告白は絶対できないけど、手を繋ぐくらいならできるかもしれないし、それを目標に頑張る。
もう一度お礼を伝え、これ以上二人の邪魔しちゃいけないから部屋を出た。
よし、と気合を入れてから自転車の練習に取り掛かった。
*******
お祭り当日。
五時に神社近くのコンビニに集合で、今は三時で朝から練習していたから汗が酷いのでお風呂に入る。
体と頭を洗ってから下着を着けタオルを巻いてリビングに行く。
『お風呂出たで』
「はいはい、こっち来てな」
おばさんが奥で手招きするので行けば去年も着た浴衣が置いてある。
白い生地に赤い花が描かれているお気に入りの浴衣だ。
それをおばさんに着つけてもらい、髪の毛もやってもらい薄く化粧してもらう。
浴衣についていた巾着にお財布とハンカチ、携帯をいれ部屋にかかっている時計を見れば四時半になっていたので、玄関に行く。
「気を付けてな」
『うん』
下駄を履いておばさんに手を振って、一人待ち合わせの場所に向かう。
この格好見て少しでもかいらしいとか綺麗だとか思ってくれるだろうか。
石垣君も浴衣で来るのかな、とか色々考えながら待ち合わせの場所に行けば、人込みの中に石垣君の姿を見つけた。
人の間を通って行けば人の足に躓いて前に倒れる。
こける、と目を瞑れば誰かに抱きしめられ顔を上げれば、石垣君だった。
目が合うと顔を真っ赤にさせ、それを見て私の頬にも熱が溜まる。
「け、怪我しとらん?」
『へ、平気や』
そっと起き上がり少しよれた浴衣を治し石垣君を見れば、黒い浴衣を着ていて、いつもと違って大人っぽくてドキドキした。
「御堂筋いつもかいらしいけど、今日は綺麗やな」
『ピッ! そ、そ…うやろうか』
「むっちゃ綺麗やで」
恥ずかしくて石垣君に背を向け顔が見えないようにする。
『そ、その、い、石垣君も、その、格好ええ思うで』
返事が無いのでちらっと後ろを見れば目を隠し、見えて居る頬は真っ赤になっていた。
『どないしたん?』
「むっちゃ嬉しいし、照れとる」
アホやな、と笑えば石垣君は目から手を退け、頬を赤くしたまま嬉しそうに笑う。
「よっしゃ、祭り行くか」
『そうやね』
石垣君と一緒に歩き出し、人込みに紛れる。
肩がぶつかったりして、少し石垣君から離れてしまえばすぐに気づいて横に並ぶ。
「大丈夫か? もしはぐれたら連絡してな、直ぐに探しに行くで」
石垣君の横を歩きながら、花が言っていた事を思い出す。
はぐれないようにって言って手を握る、心臓が落ちそうなくらいドキドキしてるけど、少しでも石垣君の中の思い出に残りたい。
私は覚悟を決めて、そっと石垣君の指二本握った。
『はぐれたら困るから、手繋いだらええやろ』
「そうやな、そないすれば安心やな、ほんなら俺が御堂筋の手握るから一回離してくれるか?」
手を離せばすぐに石垣君が私の手を握ってくれ、凄く温かい。
お互い顔が赤いまま神社について、あんず飴と人形焼きを買い、後は適当にたこ焼きと焼きそばを買って人込みから抜ける。
人があまり居ない端っこで勝ったたこ焼きを食べ、石垣君は焼きそばを食べて居る。
ふーふー冷ましていれば視線を感じたので見れば、石垣君が私を見ていた。
『食べたいん?』
「ええの?」
『ええよ』
もう一度ふーふー、して冷ましてからあーん、とやれば石垣君はたこ焼きを食べる。
マヨネーズが口の端についていたので指でふき取って舐めれば、どちきしょう、と聞こえ二人でびくっ、となった。
声がした方を見れば井原君達インハイメンバーが居て、井原君だけ死ぬほど悔しそうな顔をしている。
「皆、どないしたん」
「石やんが見えたから来たら、ふーふー、してたこ焼きあーんして、お口についたの取ってもろうてるの見てたんや!」
やかましい、と伝えたこ焼きを冷まして食べた。
石垣君は悔しがっている井原君や安君達とお喋りしいる。
その後ろで残っていたたこ焼きを食べ、ティッシュで口を拭い、近くにあったゴミ箱にそれを捨てた。
まだ皆とお喋りして居る石垣君の横に立って、少女漫画で見た台詞を思い出す。
彼氏と遊びに来ている時に別の女の子と話していて、それを彼女が邪魔する、という内容。
ちょっと揶揄ってみようと、石垣君の小指を掴めばこっちを見た。
『私と居るんやから、他の人とお喋りせんといて』
「……」
何にも答えない石垣君から手を離し笑いかける。
『どうや? 吃驚したやろ? 冗談やで』
そう言うと石垣君は顔を隠してしゃがみ込んでしまい、今のはあかんやろ、と囁く。
『あかんかった?』
「あかんよ」
「光太郎やなかったら、タってたな」
『何がや?』
「チ「やめろや」
安君の言葉を角田君が止め軽く頭を叩いていた。
石垣君は顔を隠したままで、横にしゃがんで石垣君、と言えば手から顔を退かし私を見る。
『プクク、顔真っ赤や、湯でタコみたいやな』
「誰のせいやと」
『私やろうか?』
「そうや」
『吃驚した?』
「いや、どきどきしたな」
『へえ、そうなんや』
揶揄うつもりでやったけど、どうやら少しはアピールになったようだ。
まだ顔が赤いままの石垣君の頬を一度だけ撫でて、笑いかけた。
そこから直ぐに石垣君は回復したようで一緒に立ち上がり、邪魔しちゃ悪いから行くな、と歩き出した安君達に手を振った。
巾着から携帯を出せば花火まで後20分で別の場所に行こうということになり、石垣君は残っていた焼きそばを凄い速さで食べる。
ゴミを捨ててからまた石垣君と手を繋いで、屋台が並ぶ通路を歩く。
最近の部活の話を聞いたり、私が家でどんな練習をしてるのか話したりする。
私が自分の事を話して居る時、石垣君は内容が別に面白かったり楽しい話じゃないのに、凄く楽しそうに私の話を聞いていた。
『今日も練習してから来たで』
「ほんま御堂筋は自転車好きやし努力家やな」
『好きや、何処までも前に進むしな』
「そうやな」
『自転車があればどこにだって行けるで』
「なあ、今度一緒にどっか行かへんか? 自転車乗って」
『……』
「頑張って御堂筋について行くから」
『ええよ、一緒に行ったるし、石垣君の亀さんみたいなおっそいペースに合わせたるわ』
ニッ、と笑えばそないに遅くないで、と石垣君も笑う。
きっと石垣君と一緒に何処かに出かけるのは、楽しいだろうな、なんて思って居れば石垣君に腕を引かれた。
「御堂筋、ええの見つけたで」
『なんや?』
石垣君は私を連れお面が売っている出店に来て、下の方に飾られているお面を指さす。
「二人居るはずなんやけど」
「ああ、青い方は売れてしもうたんよ」
「そうなんですか、残念やな」
「赤もこれが最後なんや」
「あ、じゃあください」
お面をそのまま石垣君は買って、おじさんから受け取ると私の前に出した。
「すまん、青い子おらんけど、赤い子のププキュアのお面やで」
『私、赤キュアのが好きや』
「じゃあ、よかったわ」
『貰ってえええの?』
「その為に買ったんや」
お面を受け取って、それを頭の横に着けて石垣君を見上げる。
『どうや?』
「かいらしいで」
『…私赤色好きやねん、やから赤キュア大好きや、ありがとな』
「御堂筋が嬉しいんなら俺も嬉しいな」
二人で笑いあえば、おじさんが青春やな、と囁いた。
そんなおじさんにお礼を伝え、手を握り花火が見える所に来て、人があまり居ない場所に行って携帯を見る。
花火まで後二分もないくらいで、もう上がるで、と石垣君に伝え携帯を巾着にしまった。
「御堂筋」
『ん?』
石垣君は空を見上げたまま呼んできて、何かあるのかな、と私も空を見る。
特に石垣君が見ている所に何かあるわけでもなく、真っ暗だ。
「来年も、一緒に来てくれへんか?」
『……』
「駄目、やろうか?」
『やから、そう言うんは好きな子に言うんやで石垣君、やけど、私でええなら来年も来たるよ』
「御堂筋がええんや」
『変やね』
お互い空を見上げたままで、顔を見てないけど、どんな顔しているのか想像できた。
きっと私も石垣君も同じくらい顔が赤くなっているのだろう。
人込みじゃないから手を離していたけど、同時に腕を動かしそっと手を握った。
その瞬間、真っ暗だった空に花火が撃ちあがって、綺麗に光り輝く。
石垣君が好きな子じゃなくて、私と花火を見ることを選んでくれて嬉しかった。
今年も来年も、私を選んでくれて、横に居てくれ、優しい言葉をかけてくれて、初めて好きになった人が石垣君で良かったと思う。
叶わない恋だったとしても、私は石垣君を好きになったことを後悔しないだろう。
「綺麗やな」
『そうやね』
夜空に撃ちあがる花火を二人で見上げた。
約30分の花火大会は終わって、空はまた真っ暗になった。
周りにいた人達はそれぞれ動き出し、少し先の通路は帰るだろう人達であふれ返っている。
花火も終わったし、私達も帰るかと思ったが、石垣君は動く気配を見せない。
ただじっと帰る人達を眺め、私の手を強く握っている。
私も早く帰りたいわけじゃないし、できるなら石垣君とまだ居たいから何も言わず、石垣君と同じように人を眺めた。
どのくらいそうしていたのか分からないが、もう人だかりは消え、まだ残っている人がぽつぽつ居るくらいだ。
「そろそろ帰るか?」
『そうやね』
名残惜しいけど遅くなってもおばさん達が心配するかもしれないから、手を繋いだまま歩き出す。
「御堂筋」
『ん?』
「ほんまに自転車でどっか行ってくれるんか?」
『ええよ、何処か行きたいところあるん?』
「海やろうか?」
『…何しに行くん?』
「釣り?」
『釣り!?』
海行ってやることといったら泳ぐことだと思って居たが、予想外の返答に少し大きな声が出てしまった。
石垣君はやっぱりあかんよな、と苦笑いする。
『なん、石垣君釣りが好きなん?』
「好きや」
『へえ、別に行ってもええけど、私釣り出来へんよ?』
「ええよ、俺が教えたるし」
『海行くんなら早めがええな、寒い時期に行きたないし』
「そうやな、九月中ならまだ平気やと思うんやけど」
『私はいつでもええから、石垣君が暇な日連絡して』
分かった、と頷いたので、石垣君から手を離して前に立つ。
もう待ち合わせしたコンビニの前についてしまったので、石垣君とはここでお別れだ。
『ほな、私あっちやから、今日はありがとな』
「家まで送ったるよ」
『ええよ』
「まだ一緒に居たいんや」
『……ほんなら、家まで』
私も一緒に居たかったから石垣君の言葉に甘え、家まで送ってもらう。
ユキちゃんに見つかると面倒なので、家には入らず敷地の外で石垣君を見上げる。
『ありがとな』
「こっちこそありがとな、楽しかったで」
『私もや』
「また学校でな」
『ん』
「海の予定は連絡するから忘れんでな」
『はよしないと忘れるかもな』
「なるべくはよ連絡するな、ほな、またな御堂筋」
『さいなら』
石垣君に手を振って、背中が見えなくなるまで見送った。
釣りは興味ないけど、石垣君と行けるなら楽しみだ。
早く行きたいな、と思いながら玄関の戸を開けただいま、と声をかけた。