むせるほどのマグル、マグル、マグル
子供連れ、老夫婦、腕組む恋人たち
このくだらない雑踏の中に
さらには、世界中に
1000年先を生きる者は、生きる価値のある者は
1人でもいるだろうか

天才を受け入れず、
嫉妬と畏れを寛大さの仮面で隠す
あの滑稽で老いぼれた正義の太陽は
生きる手段を知っていながら、
周りに同調して死を選ぶだろう
自ら高みを目指そうとせず、孤独を恐れる臆病者!

彼らの屍を足元に敷きつめた
僕がおさめる世界
穢れたものを排除し、
どこまでも美しさを追い求めたその未来に
彼女、whoがいるのも悪くない
そう思っていた
つい、昨日までは


昨日、例の豚女、
ペプシバのところで僕が出会ったのは
ハッフルパフのカップ、
そしてあろうことか
スリザリンの、ロケット

とんだ笑い話になるところだった
あの女、whoは僕を騙したのだ
whoに渡されたあのスリザリンのロケットには
確かに余計な懐中時計が含まれていた
それの持つ力が何なのか、いまだ分かっていない
懐中時計にかかった古い魔法は
どれだけこじ開けようとしても
ゆるやかに僕を阻み続ける

罠だ
全てはwhoに仕掛けられた罠だったのだ
僕がそれに気を取られている隙に何をしようとしたのか知らないが、大方ダンブルドアの手先だったのだろう

瞬間的に思考はそこにたどり着いた
怒りより先に
心臓を握りつぶされるような苦痛を感じて
同時にそれを恥じた
ヴォルデモート卿、お前はまさか、
あの女自体に興味があったわけじゃないだろう
血筋もはっきりしないあんな女に!
彼女の持つ不老不死の力
それさえ手に入れれば、あの女に用はない
制裁を!
彼女に罰を与えなければいけない
だが、今はまだ駄目だ
自らが力を手にするまでしばし待とう
そうして、
彼女が最も好まない方法で苦痛を与えてやろう
あぁ、そうだ
僕が味わった苦しみを彼女にも感じさせてやりたい
そうすれば、
死ぬために生きている彼女も僕を見ざるを得ない
いつも僕を通して他の誰かを見ている彼女でも!


アンティークを売る露店が多く集まっている
その一番端の店。
頭1つ分、抜きん出た
見覚えのある顔が女に囲まれていた

「これ?あぁ、16世紀フランスのものだよ
誕生祝いなら、銀食器は喜ばれると思うし、
何もひと揃い全部買う必要はないんだ
銀のスプーンから始めて
毎年毎年1つ年を取るたびに買い足していく
その子が成人する頃には
立派なカラトリーが揃うって訳だね」

「わぁ、素敵!銀のスプーン下さい!!」
「私も!」
「私にも!」
「こっちにもお1つ!」

騒がしい群れが去り
もみくちゃにされたwhoが残った
僕は彼女のうしろにそっと近づいた

「ねぇ」

「うわっ!」

ぎょっと振り向いた彼女が
色気のない声をあげるのを眺めて満足する
いつかの仕返しができたと思う

「ちょっと!普通に声かけてよ、普通にさ!」

「女に囲まれて隙のできたお前が悪い」

「その言葉すっごい誤解が生まれそうで怖いんですが」

「少なくともあの女たちは、お前を男だと思ってたんじゃないか?」

「さぁ?
商売繁盛にご協力いただいてんのは確実ですからな。余計なこと口に出す必要はないっしょ?」

それには答えず
whoを睨みつけてやれば
彼女はアンティークを見栄えよく並べ直しながら
おもむろに口を開いた

「どうも分かりませんな
キミのことは」

「僕が?」
わからないのはお前だと
言い返したくなるのを堪えた
彼女が自分から何か話し出すかもしれない

「そう、キミが。
あのロケットのカラクリについても
中身の懐中時計についてもキミは何も聞いてこない
それを知るためにワタシが多少勝手な真似をしても黙っているんだろ?
かと思えば、時折キミは
ワタシに執着まがいのものを見せる
確かにワタシは、今、キミを計りかねている」

淡々とした調子だったが、ちらりと見上げた顔は
非難がましい色が躍っていた

思いがけない言葉だった
そうだ、僕がwhoを殺さずにいるのは
彼女から分霊箱を作るための知識を得るためだ
ただ、実在する不老不死である彼女に一時的な興味を奪われている
それだけの事のはずだが、
当初の目的とずれが生まれた理由を何故か上手く説明できる自信がなかった

「君の言うとおり、
君を殺さずにいる理由は
君がホグワーツ創始者やその遺品に関する知識を
持っているからだ
ただ、実在する不老不死にこれから先そう会えるとは限らない
僕が目指すものの1つに不老不死も含まれてるんだ
失敗する訳にはいかない
君が過去の記憶全てを渡すなら、
僕も今すぐ君を殺すことができる」

本当にそうだろうか
一瞬浮かんだ疑問は口に出さず、僕は目を閉じた
視界を遮断した暗闇の中でさえ、
光を感じとることはできる
彼女の答えを待って鼓動が大きくなった

「嫌だね。過去の記憶全てなんて、絶対いや。」

軽く椅子を揺らしてそう答えた彼女に安堵を覚えた

「そうか。なら、大人しく待ってろ。
いつかは必ず殺してやるから」
自分自身に確かめるようにそう言うと
彼女は横目で僕を見上げた

「ふうん。まるで先延ばしにするような言い方だね
キミは今日、特にワタシを殺したがるんじゃないかと
思ってたのに」

「どういう意味、」

「知ってるんだ、ワタシ」
彼女はごそごそとポケットを探り、
ストロBERRYと派手な印字の入った
棒付き飴をくわえた

「、何を」

「キミが昨日、ヘルガのところを訪れたことさ
見せられたんだろう、スリザリンのロケット」

「…あぁ、君が僕を裏切っていたってことに気づかせてもらったよ」

「結論づけるのが早いね
そのうち早とちりで死なないことを祈るよ」

「…他にどう受け取れと?君が渡したロケットには余計な懐中時計が入っていたし、わざとらしく僕が触ると開いたじゃないか」

「そう!問題はそこですな」
彼女は耳障りな音をたて、飴を噛み砕くと
少しの間黙っていた
そして、おもむろに肩をすくめると新しい飴をとりだしてくわえた

「ワタシはありがたいことに凡人だから
サラの考えたこと全てがわかる訳じゃない
ただ、ヘルガの持っているのは本物だし
ワタシの持っているのもそうなんだから
彼はおそらく2つのロケットを作ったんだろうね」

「君が持っていたのが本物だという保証は?」

「簡単さ。サラから直接預かったんだ。
我が子孫に相応しき者に渡せって
で、どうやって相応しき者とやらがわかるんだって聞いたら、ワタシにくれた懐中時計が現れた時だって言った気がする」

「気がするとはなんだ?」

「正直、混乱しすぎてて良く覚えてないんだ。理解はしたつもりだったんだけど」

「要するに、証拠は君の言葉だけってことだろ?」

「あれ?言わなかったっけ?」
彼女は本気で驚いたようだった
きょとんとした顔で僕を見つめてくる

「ワタシ、嘘がつけないんだよ。
魔法で縛られてるから。
いや、ホントホント。
だから隠したいことがあるとき、
言わない選択はできても、嘘はつけないよ。
例えば、ほら」

彼女は快晴の空を見つめて口を開いた
「今日は―」
口の形で雨だと言いたいのは分かるが、
声になっていない
からかわれているのかと少々腹がたったので
勢いよく頭をはたいてみる
バシッといい音がなったが
彼女が言葉を発することはなかった
痛みに弱い彼女のことだから本当かもしれない

涙目になった彼女に弱々しい手つきでかけられた呪文(タレクトアングラ 踊れ!)を避ける
裏切ったわけではない
彼女のごく単純な口約束でこんなにも
今にも笑いだしそうなほど安堵する自分がいた
胸がほっと温まったのを無視して、
しらじらしく質問を続ける

「サラザール・スリザリンが2つロケットを作った訳は知らないのか?」

「知らんよ、バカ!!マジで痛いんだけど!慰謝料プリーズ」

「ほら」
仕方なしに上着に入っていたボンボンをやると
目を輝かせて受け取った
つくづく単純なやつだと思う

「まあ、推測は出来んこともないけどね」
早速口に含んでもごもごし始めた彼女は
再び話し出した

「サラには1人弟がいた
彼に渡したロケットが代々スリザリンに受け継がれ最後に君のお母さんから、
ヘルガまで渡ったんだと思う
ワタシの持っているのは
サラから直接もらったものだよ。
弟に渡したのはサラは血を大事にする人だったから
子孫に何か自分の存在を誇示するものを
伝えたかったんだろうと思うよ
ワタシに渡したのは
まぁ今から思えばの話だけど
勝手に不死にした罪滅ぼしってとこじゃないかな
いつかワタシが死を望んだ時には死ねるように
でも、殺させるのは自分の認める子孫じゃなきゃ嫌だと、ワタシ自身にすら許しちゃくれないと、
そういう、あの人の、わがままを叶える為の道具」

彼女は一度も僕を見ず、そう言った

「つまり」
そう言って僕はしゃがみ、彼女をのぞき込む
奇妙な顔だった
初めて、彼女が1000歳を越しているのだと意識したほど、感情の読めない表情
彼女はりんごの香りがする

「僕は君自身すら殺せない君を殺すために選ばれた唯一の人間ってわけだ」




It's the lowest,it's the great.
(それ最低だね…最高だよ)







Main or Top
ALICE+