「なぁ、ミルクないの?ミルク。
砂糖でもイイけどさ」
勝手に用意された二人分の紅茶カップ
誰かさんのせいで
割れた窓から吹きすさぶ風
凍えそうなほど冷えてしまったあの部屋から移動して暖炉に手をかざしつつ
女はそう言った
おかしな女
男にしては線が細く
女にしては丸みがない
13,4の少年みたいな身体つきだ
気に入らない
すんなり伸びた手足も、なめらかな象牙の肌も
黒い大きな瞳も
幼さを主張するその容貌
幼さは愚かさに通じる
愚かなもの、自らより劣ったものが僕は大嫌いで
大好きだ
1945年、12月31日
引っ越してきたばかりのこの屋敷で
荷をほどいていれば
窓を蹴破って突如、侵入してきた
これだけなら、僕は押し込み強盗として
魔法省に通報しただろう
しかし
この女は僕の血筋を知っている
加えてアバダ・ケタブラでは死なないらしい
レダクトを100回かけるとか
首をしめるとか
全ての殺人方法を試したわけじゃないが
金目当ての強盗よりは随分、質が悪い
なにしろ、興味を持ってしまう
「ね、冷めないうちに飲んじゃいなよ」
僕が向けた観察の目をものともせず
紅茶を飲み干した女が
二杯目を注ぎつつ
面白そうに言った
こんな東洋人が満足に紅茶の淹れ方を
知っているものか
見下しつつも
反射的にカップを受け取る
その途端、ふわりとあまい薔薇の香りが鼻をくすぐった
「砂糖の代わりに庭の薔薇、使わせてもらった
どうかな?」
隠す必要もあるまいと胸元から自ら調合した解毒剤入りの小瓶を取り出し、1たらし、2たらし
誘われるように1口飲めば
香りを飲んでいるような爽やかな風味と
舌にのこる、ほのかな甘酸っぱさ
咄嗟に文句が出てこなかった
「そう、良かった
それから、コレ、開けて」
感想なんて一言も言ってやらなかったのに
理解されて苛ついたが
女はグイグイ手元の箱をすすめてくる
「おい、お前」
「who」
「は?」
「だから、ワタシの名前はwhoだってば
ハイ、リピート・アフター・ミー」
「…どこから来た?」
「まさかのスルー!
ワタシはジャパンの大和撫子や!無視なんてしたら泣いてまうでー!デリケートにできとるんやさかいな!」
「ジャパン…?あぁ、あの世界の隅にある奇妙な国か。君も腹を切るのが趣味かい?」
「切るか、アホ!ってか早くこの箱、開けなよ」
「お断りだ」
「へぇー、コワイんだ?毒が怖くて紅茶1口飲めないヘタレだもんな?仕方ないよなぁ」
普通の人間ならまともに目を合わせていられないような睨みをきかせ
無言で、箱を引き裂く
ニヤニヤと笑う女が癪に障ったが、箱の中身を見て
そんなことはどうでもよくなった
古びた鎖
色褪せてなお高貴な金に輝くロケット
その中央
燃えるような緑の石で形づくられているのは
間違いなくようもなく
Sの文字
「…スリザリンのロケット」
自分が熱に浮かされたように口走るのがどこか遠くから聞こえた
「本物か?」
顔を上げて鋭く聞く
女は頷いて、造作もなく言った
「触ってみなよ」
震える指で思わず撫でると
まるで意思を持った生き物のようにロケットが開く
鈍い鉛色の金属に
コンパスと直角定規の模様
GとSがかけ合わさった文字が彫られている
ロケットと比べれば
あまりに質素な懐中時計が
不自然なほどぴたりと収まっていた
疑問に思った途端
僕の様子を終始あっけらかんと眺めていた女が
かすかに目を見開き、時計にじっと視線をおくっていることに気づいた
目線を感じたのか特に慌てた様子もなく時計から目を逸らした女が
不意にこちらを見て口を開いた
「18才の誕生日おめでとう、ワタシからの誕生日プレゼントってことでその時計は受け取ってもらえないかなー」
「ロケットは?」
「もちろん、それはキミのものだけど、ワタシからのプレゼントじゃない。サラザールからの預かり物だよ。でも、その時計はワタシの。ワタシがサラザールからもらったんだ。
ワタシの意思でキミにあげる。」
「理由は?」
「キミに頼みたいコトがあるんだ」
「何。」
「ヒトゴロシ」
「誰を。」
「ワタシを。」
「どうして。」
「死ねないんだ。昔かけられた呪いでね。
でもキミならたぶん、できる」
「なんで」
「呪いをかけた人の血をひいてるし、魔力も強いから」
「アバダ・ケタブラでは死ななかった」
「いんや?さっきのは当たってないよ。
いきなりアバダが来ると思わなかったからねー。避けちゃったんだ、思わず。あーあ、ホント惜しいことした!
ね、試しにも一回かけてよ」
「…いいだろう」
「マジか!あざーっす!!」
「だが、今すぐではない」
「…何その上げといて落とすスキル、お礼の言葉返せ!」
「who、お前には幾つか僕の役に立ってもらう」
「アレ、今、ワタシのことwhoって呼んだ!まさかのデレ期!?」
「うざい」
「ひどっ!」
「良かったな。…この時計はもらってやる」
「鬼畜かっ!って、え?」
驚いたのかwhoの目が再び少し見開かれて
すぐに笑って細くなった
「ヴォルデモートくん、改めてHappy Birthdayなのです
…それと、ありがとう」
「なぜ、」
「生まれてきてくれて。」
呟かれたその言葉に今度は僕が驚く番だった
同時にどこかが一瞬淡く満たされて
自分の飢えた感覚に気付かされる
何に対する飢えか
珍しく思考を後回しにして、紅茶を口に含む
捧げられたのではなく
与えられたのでもない
対等に渡されたその紅茶に
一人で守るしかなかった背中が
緩むのを感じた
It's easy to make a friend.
What's hard is to make a stranger.
(友人を作るのは簡単だ。難しいのは友人でも敵でもない人間を作ること)
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