1946年1月1日

「面白い玩具が手に入った。見に来い」

ふくろう便で届けられた署名のないその手紙を
かじかんだ指で握りしめ、足早に歩く
森の入り口からお屋敷近くまでは保護呪文のために姿あらわしが効かない
あるいは、
マグルと同じ方法で移動せざるを得ない屈辱を
あじあわせるためと思えなくもない
皮肉な考えが浮かんだのは
保護呪文を通り抜ける際、
自らの左腕に刻まれた蛇と髑髏の紋章に
目がいったからかもしれなかった




大きな三白眼
黒目が小さいというより
白目が大きい

東洋人にしては高いくせに
先の丸い鼻

「へ」の字型の肉厚な唇

大人と子供の間でアンバランスなその顔は
彼女が動かすことで
退屈した少年のような表情を浮かべる

目測だが、170センチはある身長
スタイルはまぁいい

独特の光沢を持つ象牙の肌

髪は耳の横ぐらいまででクルクル巻いている
パーマではなく生まれつきのものだろう
色は黒

美人とは言えない
個性的とは言える

第一印象はそんなところだ

主の言わく「面白い玩具」を眺めて思う
不躾とは言えまい
主の机の上に座って
女も同じことをしているのだから

黙ってその様子を観察していた主が
ようやく口を開く
「新年早々ではあるが、いいものを見せてやろうと思うてな」
「光栄にございます。また、新年の御喜を申し上げます、我が君」
「ああ、めでたい。
人一人服従させることすら叶わぬ
無能な部下を持ってさえ
新年とは誠にめでたい。
そうであろう?」

額を汗がつたう。
ああ、今日呼ばれたのはこの為か
なぜ気付かなかった
知られているのだ、ペプジバ・スミスにまだインペリオがかかっていないことを。
いいものを見せるとは
私にとってか
私の心底欲するそこに腰掛けた不遜な女にとってか

「我が君、わたくしは、」

「言い訳か?この俺様に?
良い度胸だ、誠に良い度胸だ。
お前のその度胸を持ってすれば、クルーシオなど仕置にもならぬかどうか、試してやろう」

ガタリと机がきしむ
「なぁ、調教タイムは後にしなよ。
眠いんだけど?」
あくびをかみ殺した女の言葉に
今にもふられそうだった主の杖腕が少し下がる

「我が君、これまで以上に全身全霊を持って励んでまいります。何卒ご容赦を」

膝を床に擦り付ける勢いで跪く
長い数秒の後

「2度目はない」

主は短く言った

安堵すると同時に机の上から視線を感じ
顔を上げる
女と、目が合う

試すような
憐れむような
見下すような、笑み
主と酷似したその笑顔に
息を呑む

いつの間にか近づいていた主が耳元で囁く

「こいつは面白い。なにしろ、1000年の長きを生きている。」

「不老、不死…?」

「そうだ、試しに殺してみるがいい。呪文は知っているな?」

「…はい」

杖を構え、唱える

「アバダ・ケタブラ!」

緑の閃光に包まれた女は
何事も無かったかのように机に腰掛けている

「だから、いきなりそういうコトしちゃダメっしょ?こっちにも心の準備ってもんがあるんだしさ」

女は呆れたように呟いて主を睨む

思わず振り返れば
滅多に感情を表に出さない彼が
満足気な表情を浮かべて女を見つめていた

「気づいていたくせに何を言う」
「なんで、ソコわかっちゃうのかな?」
「避けずに受けたからな」
「あーね、まぁ一応波動みたいなのは来るんだし
予告はしといてよ」
「聞いてやる義理がどこにある」

肩をすくめ
机を飛び降りた女は
まっすぐこちらにやってくる

「ワタシ、whoっていうんだけど
あなたの名前、聞いてもいいかい?」

負けたと思う
何において?
あの方の側に存在することにおいて
私が長い年月を注いで作り上げてきた
彼の好む、下僕に相応しい人物
この女はそれを軽々と飛び越えて彼の隣に立つ
思わず跪いて、答える
「アブラクサス・マルフォイと申します」

Don't play with that gun.
it's not a toy .
(その拳銃で遊ぶな、玩具ではない)



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