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手元の書類から目を離し、室長室にある掛け時計に視線をやると定時まであと15分といったところだった。仕事の区切りも良いし明日の仕事の確認をしつつ片付け始めるか。
「(コトカは元気だろうか)」
ふと脳裏に過ったのは1ヶ月前に亥事業室から未事業室へ異動した元補佐のコトカのことだった。
1年間と短い間に俺の教えられることを教え、それを身につけた優秀な部下。コトカがいなくなってからも変わらぬ毎日だがやはりどこか隙間が空いてしまったように思える。連絡を取ってもいいがコトカのことだ、新しい部署でも忙しなく動き、考え、疲労が蓄積しているだろう。少しでも体を休めてほしいと思うが故に躊躇われる。
あとはそうだな…ヒノトの悪い癖が出てないか心配だな。あいつは女性に優しいが…コトカはそういった言動には耐性がなかったからな。それにコトカの性格上、性別で色々と判断されるのは嫌だろう。
定時になったことを確認し、身支度を整え皆に挨拶し亥事業室を後にした。
会社の出入口の少し手前で先ほど脳裏に過った相手がいた。
「コトカ」
「ハナレ室長!」
疲れているような表情をしていたコトカの顔が声をかけた瞬間、嬉しそうに笑みを浮かべてくれた。それが嬉しくもあったがやはり気を詰めすぎていたようだ。
「コトカも定時退社か?」
「はい、ヒノト室長から直々に言われたので」
ヒノトの観察眼があればコトカの疲労は見抜けるだろう。だが何らかの違和感というか、不思議な感覚が走った。嫌な感じはしないからとりあえずは目の前のコトカのことを考えよう。
「そうか。この後何か予定があったりするか?」
「いえ、特にありません」
「なら久しぶりに飯でもどうだ?」
「ハナレ室長はご予定はないんですか?」
「あればお前を誘ってない」
口元を緩めながらそう言うとコトカは「では是非」と頷いてくれた。
そんなコトカの頭に自然と手が伸び、くしゃりとコトカの頭を撫でていた。目をぱちくりさせていたコトカだったがどこかこの感触を懐かしむようにしている。そんなコトカの頭をあと数回撫で、「じゃあ行くか」とコトカに言葉をかけ、一緒に会社から出た。
…疲れているコトカに対して申し訳ないとは思うが、1ヶ月振りにコトカとゆっくり話せるかと思うと少なからず心が弾んだ。
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