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イヌイはドライアイがちでいつも疲れ目にも効く目薬を持ち歩いている。それをコトカに渡したということは眼精疲労というのが安易に想像できた。イヌイは案外そういうの目ざとく察するし、目薬を渡したのは頷けた。
デスクワークが多い部署でもあるから職病業と言ってもいいのかもしれないが、いかせんコトカは頑張りすぎる傾向にある。要領が良くテキパキと仕事をこなせる分、蓄積された疲労に対してはどこか鈍感な所がある。亥事業部で半年が過ぎた頃、コトカが泣いてしまった時のことを今でも鮮明に覚えている。
きっとコトカのことだから早く新しい部署に慣れたくて、迷惑をかけたくなくて必要以上に頑張ってしまっているのだろう。だからヒノトの付き人のような形で、というのはコトカの体にとってはセーブしてくれる人間がいるということで少しばかり安心したがそれでもコトカの仕事への意欲というか、周囲への配慮などがそのセーブを振り切ってしまうのだろう。
まあ他にも理由はありそうだが。それは飯でも食べながらゆっくりと聞くとするか。
「…積もる話は腹を満たしながら聞かせてくれ」
そう言ってもう1度コトカの頭を撫でると目的地である焼き鳥屋に着いた。
「焼き鳥屋さん?」
コトカは不思議と言わんばかりの顔をする。そんなに俺と焼き鳥屋が結びつかないのか、と思わず笑ってしまった。
「ここの焼き鳥、美味いんだ。それに個室もあるから気にせず話せる」
ほら行くぞとコトカを促し店内に入っていく。
親しくなった店員に個室を頼む、というと空いている個室へとすぐに案内してくれた。
「駅前にこんなお店があるなんて知りませんでした」
個室内を興味深げに見渡すコトカは少しリラックスしているように見えた。
「あんまり堅苦しい店じゃお前、緊張して料理の味分からなくなりそうだからな」
「ハナレ室長それはいくら何でも…!」
「いくら何でも?」
「……可能性はなくはないです」
少し拗ねたように言われた言葉に口元を抑えて笑えばコトカは『ハナレ室長なんだか意地悪になってませんか』とさっきと同じトーンで言ってきた。
ああ、このやり取りもなんだか懐かしい。そんなに月日は経っていないはずなのに、なんでだろうな。自分が思っていた以上に部下として、また妹的な存在としてコトカが大切な存在になっていたのかもしれない。
「そろそろ室長呼びやめていいぞ」
「あっ…」
自分でも気づいていなかったのかコトカは思い出したかのように目を少し見開いた。
「…ハナレさん」
「ああ。じゃあコトカの仕事モードも切れたとこで乾杯でもするか」
「はい」
「何でも好きなもの頼んでくれて構わないぞ」
「え?」
「1ヶ月、頑張った褒美に奢る」
「っ、だからそういうことされると!」
「泣きますから?」
「もう!!」
『なんで覚えてるんですか!』と言った後、コトカは恥ずかしさを隠すように顔をメニューで覆ってしまった。
いつになく笑っていないか、俺。コトカの反応が面白くて、可愛いせいだな。全く、部署を離れても目を離せない奴だよ、お前。
コトカはソフトドリンク、俺は日本酒を。料理は俺のおすすめが食べたいとのことでいつも注文しているものと旬なものをとりあえず頼んだ。
乾杯をして、運ばれてくる焼き鳥やサイドメニューを食べて口元を綻ばしながら『おいしいです』とコトカは1つ1つの料理に対して感想を律義に言ってくれる。
「コトカは美味そうに食べるな」
「だって、本当においしいですから」
たわいもない話をして、腹が満たされていって、そろそろ切り出してもいいタイミングか。
「…で、この1ヶ月で仕事以外に何かあったのか?」
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