コトカちゃんがこの事業部に異動してから早1ヵ月。視察以来少しだけどコトカちゃんの警戒心が薄れたような気がする。未だにエスコートとか女の子扱い、といった言動には戸惑いや不服そうな表情が窺えるけどそれはコトカちゃんがそういったことに慣れていないのだと観察と言っては失礼かもしれないけど、その中でそう感じ取った。

コトカちゃんは真面目で仕事熱心で、そして負けず嫌い。男とか女の子とか関係なく自分の実力を認めてもらいたい、そして学んだことをただ真っ直ぐに素直に、やっていく。失敗したらその理由を考え、自分でその答えを導き出せる。考えても答えが出なかったものに対しては相談してくる。

「(本当、知れば知るほど今まで見たことのないタイプの女の子だよね)」

無駄な動きが一切ない仕事ぶりを今日もしている彼女を見て心の中でそう思った。そんな彼女から学ぶことも多く、1人の人として信頼が生まれ、それが強くなっていく。なんとも言えない感覚。決して嫌なものじゃないけどこれをなんと呼べばいいのかまだはっきりとした輪郭が見えない。…まぁ今は分からなくても問題ないか。

「コトカちゃん、昨日頼んだ書類の進捗状況はどう?」

「今日中にお渡し出来ると思います。また後ほど伺いますので確認をお願い致します」

「本当、仕事が早いね。ありがとう。けど…」

思わず無理は禁物とまた言いそうになって言葉を飲み込んだ。あんまり言い過ぎるのも良くないよね。きっとコトカちゃんは「ご心配ありがとうございます。でも大丈夫です」と返してくる。そう、決まり文句のように。
言葉の続きが気になるのかコトカちゃんは手を止め俺の言葉を待っている。

「ごめん、なんでもない。じゃあ室長室で待ってるね」

「はい、分かりました」

軽く会釈をしてデスクに向かう彼女を背に俺は室長室に戻り、ゆっくりと座り慣れた椅子に腰を下ろすと思わず深く息を吐いた。

「…なんか過保護になってない?俺」

ぽつり、呟いた。
女の子が少ない会社だとか、今まで見たことのないタイプの女の子だとか、関係なく「コトカちゃんだから」そうなっている気がする。まるで親が子どもを、兄や姉が弟や妹を心配するような感じに近い気持ち。
そう、放っておけない。何故だか分からないけど放っておけないんだ、彼女を。

「…今は仕事に集中しなきゃね」

芽生えているまだ輪郭の見えない感覚を奥に押しやるようにデスクに積まれた書類に目を通したりクライアント先に確認を取ったり、仕事に打ち込んだ。

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