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書類の進捗を聞かれた時、ヒノト室長が何か言いかけたことにドキッとした。あの人はいやに観察眼が鋭い。ボロを出さないように振る舞うのもなかなか神経を使う。いや、もしかしたら、気付かれているのかもしれない。そうだったら嫌だなあ。だって弱みを握られてるみたい。ヒノト室長がそう言う人だとかそういうのではなくて、わたしはあまりそういう隙みたいなものを、人に見せたくはないのだ。
さっきの昼休みもヒノト室長に誘われたけれど、やんわりとお断りした。ボロが出てはいけない。それにしても、ヒノト室長が誘いを断ったときにしゅんと寂しそうに肩を落とすさまがすごく罪悪感を煽られるので、あれは本当にやめて頂きたい。
「(疲れ目かなあ……)」
目が乾いてヒリヒリと痛む。眉間のあたりがズキズキと内側から響いてくるような不快感。最近パソコンとにらめっこすることが多かったからだろうか。ハナレ室長のところにいたときは、パソコンに一日中向き合うことが続くことなんてなかったしな。ぎゅうと眉間をつまんでみても、マッサージしても、一向に直る気配はない。まあそもそも、ここ最近の目の違和感を放っておいたわたしのせいなのだけれど。
「(帰りに目薬でも買って帰ろう…)」
はあ、と目に手をやったまま角を曲がろうとすると、どん、と人にぶつかる感覚で背筋が凍る。完全にわたしの前方不注意だ。「おい、ちゃんと前見て歩け」ふらついたわたしの腕を持って支えてくれたその人を見上げる。
「い、イヌイ室長…!」
「あ?お前…」
わたしの視線の先にあったのは翡翠。切れ長のきつい瞳は刺すようにわたしを見つめている。戌事業室、楽器などを中心に事業を展開している事業部の長、イヌイ室長。彼も楽器に堪能だと風の噂で聞いたことがある。
「申し訳ありません。以後気を付けます」
「…ハナレんとこの敏腕か」
「敏…」
まさかイヌイ室長にまで知っていただいているなんて思わなくて。「今は未事業室におります」辛うじて引き出して返した言葉はカチカチに固まっていた。
「……イヌイ室長?」
掴まれていた手は離されない。遠慮なくわたしをまじまじと見つめる瞳は楽しそうで、興味の色に染まっていた。
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