降り止まぬ雨に全てを流して

第一章



マスクの冷たい感触が頬から喉へ伝う。私は、マスクの感触と冷たさが嫌で、目の前の彼から降り注ぐキスの雨を手で受け止める。

「マスク越しじゃあ、嫌だ」

彼のトレードマークであるマスクをゆっくりと鼻の下まで上げると外されたマスクから彼の唇が姿を表す。ほんのりピンク色に色付いた彼の唇を彼女の白く細長い綺麗な指がスウっと伝う。そんな、彼女の手をジェドは強引に掴むとガリっと彼女の薬指を強く噛んだ。

「っつ…………」
「痛い?」

 表情こそは変えないが小さな痛みに息を漏らす彼女を、ジェドは、意地悪そうにニヤリと笑う。

「……」

 くっきりと歯形が残った薬指を見詰めた後、ゆっくりと視線をジェドの方へ向ける。相変わらず意地悪な表情を浮かべている。

「……」

 私は、そっとジェドの肩に手を置くと彼の唇を強く噛んだ。

「痛っ……」

 小さく彼の呻く声。私が、彼の唇を噛んだ故に小さな一筋の血が顎にかけて伝う。そんな彼の血を舌で拭う。

「ちょっと、くすぐったいよ」

 クスクスと笑いながら、ジェドは蓮の腰に手を回すと強く抱き締めて、彼女の小さな艶を帯びた形の良い桜唇へ、軽いキスを一つ落とす。

「やっと、好きなだけ君に触れられる」
「……私も、やっと貴方に触れ合えれる」

 彼の背へ腕を回して、ジェドの胸に擦り寄る。ジェドは、そんな私の頭を優しく撫でる。

「もう、僕から離れないでね。もしも、次に僕から離れた時は、どんな手を使ってでも君を探し出して、僕の手で君を殺してやる」
「……もう、ジェドから離れないよ」
「うん……決して、僕から離れないで。どんな時も僕の傍に居て」

 ジェドに抱き締められながら、私は違う事を考えて居た。彼の……ジェドの側に私が居ても良いのかと。彼を不幸にしてしまうのではないかと考える。きっと、この気持ちを彼に伝えれば、ジェドは「僕が不幸になる訳ないでしょ。誰だと思ってんの?」鼻で笑うだろう。でも、いつかは私と彼の間にも別れの時が来る。其れ迄は、ジェドから与えられる深い沼の様な愛に溺れて居たい。