通常seid
悠仁を下から静かに見届けた後、私も悠仁の後を追うかの様に、一階から四階まで気配無しに飛び越え、ゆっくり窓枠から降りる。
呪霊を貪り尽くす玉犬の側を通り過ぎ、恵の元へ向かうと恵の袖を軽く引っ張った。
「あ?」
「恵」
「蓮さん……!」
「あっ……さっきの」
先程まで震えていたのが嘘かと思うぐらい、案外けろっとしている悠仁を尻目に、私は恵の方へ視線を向けた。
恵へと視線を向けたは良いものの、恐ろしい表情を浮かべる恵から即座に視線を逸らす。
「一体何処に行ってたんですか! 心配したんですよ!」
鋭く私を睨み付ける恵へ「御免なさい」と一言謝る。
「はあ……。別に、謝ってくれれば其れで良いですよ。以後気を付けてさえくれれば」
慣れた手付きで私の頭を優しく撫でる恵の姿を見て、私は頬を緩める。
一方、悠仁は自分をそっちのけで二人の世界へ入り込んだ恵と私の姿を見ながら、「俺は何を見せられてるんだろ……伏黒の奴良いな。俺もあの子撫でたいな」そう呟きながら、何処か遠い目で私達を見つめていた。
「あのさ、お二人共。俺がいる事忘れてない?」
「ああ、そうだったな。虎杖……オマエ怖くないんだな」
素早く話を切り替えた恵を「切り替え早っ」私と悠仁は密かに心の中で恵に対して突っ込む。流石は恵。切り替えの早い男。
其れは悠仁も一緒の事で直ぐに悠仁は腕の中で気絶している一人の女子生徒へと目を向けた。
うーん。悠仁も流石切り替え早いな。此れは悠仁と恵はいいコンビになりそうだね。場違いな事を考えながら、私は心の中で二人へグッとサインを送っておいた。
「いや。まあ、怖かったんだけどさ。知ってた? 人ってマジで死ぬんだよ」
「は?」
「だったら、せめて。自分が知ってる人くらいは正しく死んでほしいって思うんだ。まあ、自分でもよく分からん」
「……いや」
「その気持ち分からなくも無い」恵が言葉を続けようとした時、悠仁の腕の中で眠っていた女子生徒のスカートポケットから特級呪術である両面宿儺の指が、ついうっかり落ちて来た。
「これが」
「ああ。特級呪物''両面宿儺''。その一部だ」
落ちて来た宿儺の指を拾い上げ、マジマジと宿儺の指を見詰め始める悠仁に向けて「其れを渡せ」と恵は告げる。
そんな二人の様子を離れた所から見ていた私は、悠仁の真上から顔を出す呪霊の姿を視界の端で捉えた。
「逃げろ」
其れは、恵も一緒だったのか___恵は呪霊の攻撃が当たらない様、悠仁の身体を押し退け、私は玉犬と共に素早く三人が怪我をしない様、悠仁と二人の生徒達を押し退けた。
「伏黒!!」
悠仁の叫び声が児玉する。
恵が呪霊に捕まってしまった。
砂埃の煙で視界が悪い中、悠仁は急いで伏黒の元へ駆け付けて行ってしまった。
走り去って行く悠仁を尻目に、私は二人の生徒達に目を向ける。
女子生徒の方は目立った軽傷も無し。ただ気絶しているだけ。けど、問題は男子生徒の方だ。思ったより重症。早く、助けないとやばいね。
この状態で男子生徒の傷を癒せるのは、この場所で唯一人……私だけ。
治さなきゃ。この子の傷を。そう思いながら、私は、腕に付けていた赤翡翠のブレスレットを外し、自身の手に宿る治癒能力を男子生徒に向けて使った。
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男子生徒の傷を全て治し、私は二人の生徒を安全な場所に置くと、悠仁と恵の後を追った。
恵の式神である玉犬の気配が消えた。
先程は、男子生徒の傷を癒す事を優先にしてしまったけど……玉犬が消えてしまったという事は、恵に何かあった証拠だ。
しかも悠仁は一般人だ。怪我をして居たら、もっと大変な事になる……。早く急いで恵達の元へ向かわなければ。
先程の男子生徒が追って居た分の傷の痛みに、頭が片割れそうな程の頭痛の痛みを耐えながらも、私は悠仁達の元へ急いだ。