降り止まぬ雨に全てを流して

page.1
緋色の瞳

1866年、イギリスロンドン郊外。
私は、常日頃から共に過ごす二人の兄弟の内の片割れである兄と共に、とある郵便局へ訪れていた。
「こんにちは」
「やあ。いらしゃい。モリアーティ家のお坊ちゃん」
彼は、人の良い笑みを浮かべ手慣れた手付きで「郵便をお願いします」と、郵便局員へ手紙を渡した。
その時。郵便局前でトランプの賭け事をして居た筈の一人の男が、声音を荒げて叫ぶ。
「バーストかよぉぉおお‼!」頭を抱えて項垂れる男を、顔を顰めた郵便局員が、白昼堂々と賭け事をする男達へ怒鳴る。
「……オイ。ここはカジノじゃないんだぞ! パブでやれ!」
注意する郵便局員の話など聞かず男達は、賭け事を続けていた。
「……どうする?」
「いくか? やめるか?」
「……」
どのトランプを引くか悩む男へ彼がある助言をする。
「ツイスト」
「……え……?」
「ツイストです」
驚き惚ける男へ、今一度そう言った彼の言葉を男は信用し、カードを引くと彼の言葉通り、ピッタシ21だった。
男も、まさか自分自身がギャンブルで勝てると思って居なかったらしく、男は驚き目を丸くした。
「すげな坊ちゃん‼ 未来でも見えてんのかい⁉」
興奮と感激のあまりで声を荒げて褒める男に、彼は少しだけ頬を赤く染める。
「フフッ。そんな、まさか。ポントゥーンは、確率さえ計算すれば八割方勝てるゲームなんです」
彼は、其れだけを答えるとその場から背中を向けて去っていった。
後に残された男達は、台の上で配置されたカードを見詰めながら、一瞬見ただけで計算など出来るものなのか……?
彼の並外れた記憶と頭脳に男達は、静かに驚愕した。