彼女の要望に、レイジはただ目を丸くするしかなかった。
確かに人間の血を、食糧をこうも簡単に得られるのは美味い話である。だが、己の死と直結していると知りながらも、彼女は躊躇しなかった。むしろ、それが望みだと言わんばかりに。
「……なんだか訳アリみたいだね」
寄り添っているのか、揶揄っているのか、その真意は不確かなままレイジは彼女との距離を縮ませ、長い髪の毛を手で掬う。
「いいよ。それじゃあ早速……」
レイジがそう口にして、彼女は少しだけ身構えた。嗚呼、やっとここで終止符を撃てる、と思いつつも身体は防御反応を湿す。それでも彼女の心は変わらず、彼の動きを待った。
しかし、彼女の想像通りの様子を見せる素振りは無かった。
「美味しいご飯を食べて貰わなきゃね!」
「……え?」
ほらほら〜! と上機嫌なレイジに手を引っ張られ、そのままベッドから降りて部屋から出る。新鮮な野菜が採りたてなんだよ、と語るレイジとは裏腹に、彼女はずっと困惑したままだ。
「あ、そうだ。君の名前、なんて言うの?」
「……サラ」
「ふふ、良い名前だね。よろしくね、サラちゃん。あっ、食堂はこっちだよ! 大丈夫、ぼくってすっごい料理上手なんだから!」
手は握ったまま、屋敷を歩いているというのにサラの思考は未だに置いていかれたままだ。あの流れで、そのまま血を食らって私はそのままぽっくりと、と思っていたのにまさかのここで食事が出てくるとは誰も思うまい。
サラだってただの大人しい令嬢ではない。ちょ、ちょっと! と声を出したところで、レイジはやっとその足を止めた。
「なんで、私が食事なんか摂る必要あるのよ」
確かにここ数日まともな食事は摂っていないし、お腹は減りっぱなしだ。ずっとそれどころじゃなかったせいで自分がお腹を空いていることに気付くのが遅れたが、ただそれだけが理由ではないと思った。
「フッフッフ、それはね……君の血をより美味しく頂くためさ」
「……私の血、そんなに不味いの?」
「いや、まだ飲んだことないから味は分からないけど、確かにサラちゃんからは美味しそうな匂いがして魅力的だよ。でも、ぼくって美食家だし、折角君が自らその身を差し出してくれたんだからとことん美味しくしてから頂こうと思ってね」
あ、でも後でお家に帰らせてなんて言われても聞かないよん☆ と後付けするレイジは、ずっとゴキゲンだ。
レイジのその計画に、人間の家畜に対する所業と似たようなものを感じつつ複雑な気持ちでいつつも、どのみち結末は変わらないのであれば構わないと、サラはそれ以上深く考えるのをやめた。
「で、もう一度聞くけど、本当にサラちゃんの血、ぼくが頂いちゃってもいいの? ぼくとしては美味しそうな君を独り占め出来てありがたいけれど」
「別にいいわよ。どのみち死ぬつもりだったし」
「あはは、じゃないとあんな森の中に来ないよね」
吸血鬼は、人の死をどう思っているのだろうか。少なくとも人間間でこのような話題など出せば空気はたちまち暗く重くなる。それでも軽く返すレイジに、新鮮さと独特な居心地の良さを感じる。
少なくとも、今までのように嫌な思いをせずには済むはずだ。
(……私はここで、土に還るのね)
それが、いつになるかはまだ分からない。
そうして、人間であるサラと吸血鬼のレイジの、少し歪な同居生活が始まった。