平和に行きましょう。

すけこまし


 来栖秋彦といえば、彼を知る大抵の人間は「色情魔」「スケコマシ」「クズ」「碌でなし」「最低が服を着て歩いている」と散々な評価を下す。なんせ来栖の拠点にしているのは浅草十二階下にある連れ込み宿で、任務がない時は常にそこで女郎としけこんでいるし、任務が終わるや否や助けた女性を口説き始める等普段の行いがあんまりにも酷い。実力そのものは甲、あるいは柱にも届くとの才能であるのに、女癖の酷さから隊歴は長いのに未だ丙と丁を行き来していた。

 クズ野郎だの年中発情期だのと罵倒されてきたが、はてしかし、豚野郎というのは初めて言われた。なんせ秋彦は顔が良い。とにかく顔の造形が、昨今流行りの西洋人じみていてスッキリした面立ちであるし、背も高く肉付きも整っていた。どこからどう見ても豚と呼ばれる要素がなかったから、一周回って罵倒と受け取りにくかった。
 罵倒した相手は全く相手にされていないと気付いたらしく、大きく舌打ちをして去り際にまた負け惜しみのように罵倒して帰って行った。入隊してからひっきりなしに女と遊ぶ秋彦のあまりの軟派さに勝手に腹を立て、勝手に失望し、勝手に怒鳴り散らす同僚は大勢いた。時々死んで減りもするが、後から来た後輩たちもやはり秋彦を嫌煙する。
「それについてテメェが思うことはねぇのか」
「鬼殺隊に風評被害があるなら申し訳なく思うが、そうでないからとてもどうでも良い。他人がどう過ごそうと何の関係があるかね」
 同期だったがとっくに柱にまでなった数少ない友人と甘味を食しながら話す。
「鬼殺隊の女性や藤の家の女性には一切何もしていないし、向こうから来ても断っている。隊内の風紀は乱していない。私はあくまで商売女だけだがね」
「テメェの場合その頻度がおかしいって話だろがぃ……。今日だって呼び出さなきゃ連れ込み宿にいたんだろォ」
「まぁな」
「給金全部女郎につぎ込むとか聞いたことねェよ」
「宵越しの金は持たない主義なもので」



「何だァその豚」
「ちょいと貯金でもしようかと」
「何だお前来栖に化けた鬼か」
「待て、おい、抜刀するな馬鹿やめろ、規律違反だぞ」
「胡蝶の屋敷に行くぞ」
「えっ私は蝶屋敷出禁なんだよ知ってるだろう。気絶する程の重体で運ばれないと入れないんだ」
「ンだと……。ならこうするしかねぇな」
「不死川くん?なんで拳構えグハッ」

「不死川さん何ですか急に。……あら、来栖さんじゃありませんか!珍しいですね、この人が気絶する程なんて」
「頭がおかしくなったから診てやってくれ」
「元々おかしい人なのでは?」
「貯金するとか真人間じみたことを言い始めやがったァ……。このクズ野郎がそんなこと言うなんざ血鬼術か悪いモンに中ったくらいだろうが」
「説得力があるのが来栖さんの面白いところですよねぇ」
「……はっ!おい、妙に鳩尾が痛いんだが」
「あらおはようございます、来栖さん」
「…………おはよう、胡蝶」
「いきなりですが、この指が何本に見えますか?」
「2本、だな……?」
「気絶する前の会話は思い出せますか?」
「……不死川に持っていた豚の貯金箱について聞かれたから、貯金すると答えた」
「へぇ、貯金ですか。どうして貯金をしようと?欲しい物があるんですか?」
「あぁ、結婚する女との将来の為に貯金しようと」
「うわああばばばばば」
「悲鳴嶼さんだ!大至急悲鳴嶼さんを呼べぇ!!こんなクズでも死なれちゃ困る!!」
「お前たちさては物凄く失礼だな?」

「元々彼の頭はおかしいのでは」
「まぁまぁとりあえずちょっと見るだけ見てください。悲鳴嶼さんから見てもおかしくなかったら引き下がります」
「さてはお前たち、暇なんじゃないのか……?」
「黙ってろォ」
「実は来栖さん、女性と結婚する為の貯金をするんだと仰っていて」
「将来の為に貯金を?……良い心掛けだろう、来栖がようやく真人間の第1歩を歩み始めた証拠だ」
「貴方の中で私は今まで人間ですらなかったのか」
「それに、元より明日と知れぬ身だ。後悔は少ない方が良いだろう」
「勝手に死ぬ予定まで立てるな」




















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